13店目「異世界風のジンギスカン!?これは一体何の肉?前編」
「ねぇ、装備を見に行くの付き合ってよ」
スイーツを満喫したミトラは上機嫌で僕を見つめる。
最近ずっとふさぎこんでいたミトラが、ここまで嬉しそうな顔を見るのは久しぶりだ。
「ああ、いいぞ。僕もそれが必要だと思ってたんだ」
「ほんとにー?ミツルって優しいね」
ミトラは僕の腕に思いっきり抱きつく。
ここまで機嫌が良くなってくれたのは僕も嬉しい。
ミトラにはずっと元気でいて欲しい。
「ねぇ、私たちってみんなからどう見えるかな?」
「えっ、どうって?」
「関係性よ。一体どう見えているんだろう?」
この世界ではおかしな恰好をした怪しげなトラ顔マスクの男と、可愛い10代の女の子だ。
いいところのお嬢さんと、それに付き従っている変態ボディーガードといったところか?
もしくは奴隷商と隷属する奴隷かもしれない。
僕が答えに困っていると、ミトラはぷぅーっと口をふくらました。
「もう、ミツルったら」
女の子の考えることは僕にはよく分からない。
それよりも合流時間までに買い物を済ませないと。
武器屋はウメーディには数か所存在する。
低価格で安定した性能の武器が多い量販店、貴族も御用達の高級品ばかりを扱う店、自ら鍛冶も修理も行うドワーフ族が運営する店など様々だ。
どの店にも一長一短があるが、ニーズに合わせて店を選択できるというメリットは大きい。
僕らは冒険者ギルドの近くにあるドワーフが運営する武器屋にやってきた。
お店はレンガ造りの小さな建物だ。
ただ、ドアや窓枠など丁寧に装飾が施され、細かい所にも手を抜かない頑固さが伺える。
「いらっしゃい、うおっ!」
僕の顔を見た瞬間にのけ反るドワーフの店主。
この反応にもいい加減慣れてきた。
彼の名前はノーマット。
かつてはギルド長と共に冒険もしていたという異色の鍛冶師だ。
顔に大きな傷が刻まれており、ドラゴンと戦った時につけられたという。
今では冒険者を引退して、自身で打った武器・防具屋を販売しているのだという。
高級店に比べ、値段は安価だがその質はどこの店のものよりも高いという噂だ。
お店には様々な武器や防具が展示されており、目を見張るほどの金額のものは置かれていない。
ただ、武器というよりも家財道具のような、どこか温かみすら感じる。
「嬢ちゃんが装備するのかい?」
「うん、狩人に合う武器と防具をお願い。明日から魔獣の討伐に向かうの」
「ほぅ、そうかい。ちなみにレベルはいくつだい?」
「えっ、レベル?」
「そうだ、いくら強い武器を持ってたとしてもレベルが低かったら扱えないだろ?」
ミトラは店長の質問に戸惑っている。
この世界には通常のレベルとは別にジョブレベルというものが存在する。魔獣を倒したり依頼を達成したりすると経験ポイントというものが加算される。
経験ポイントが一定以上貯まると、レベルアップとなる。
ジョブレベルアップをが上がると、職業に応じたスキルを覚えたり、必要な筋力・敏捷性などの基本ステータスが上がる。
もちろん強敵と戦うには、レベルアップが不可欠だ。
武器や防具もある一定基準のものであれば、レべルが低いと装備することすらできない。
「今日狩人になったばかりなんだ……」
ミトラは申し訳なそうに言うと、ノーマットは店内に展示してある弓をむんずと掴みミトラに差し出した。
「初めてにはこれがいいんじゃないか?」
ノーマットが差し出したのは、ミトラが前回の戦いの時に使って見せた弓だ。
軽くて扱いやすい初心者用の弓らしい。
「えっ、あ、これと同じの持っているわ。私が欲しいのはもっと威力がある弓よ」
「持っているんならそれを使えばいいんじゃないか?ここにある他の弓は初心者が使う武器じゃねえぜ?」
「でも私は強くならなきゃならないの。お荷物にはなりたくないわ」
ミトラは興奮気味に答える。
その眼にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「何か訳ありのようだな。俺に話してみな」
僕たちはこれまでの経緯と次の依頼内容について説明した。
「それはやっかいな依頼だな。グリズリーホーンベアは、初心者が戦う相手じゃねえぜ。ましてお前さんの持っている弓矢じゃ傷をつけることも怪しいかもな」
「だから私は強くならなきゃいけないの!」
ミトラは必至さはノーマットにも伝わったようだ。
「そうかい、それならちょっと待ってな」
ノーマットはそう言うと、店の奥にある扉へと向かった。
十分後、ノーマットは綺麗なエメラルドグリーン色の弓を持って戻ってきた。
持ち手にはゴールドのレリーフが煌めき、弓幹(ゆがら)には薄緑色のツタのようなものが巻きついている。
弦は肉眼では観測できないほど細い。
「嬢ちゃん、手を見せてみな」
ミトラは言われるがままに手を出すと、ノーマットはミトラの手を触ったり、手の両面を軽くつねったりしながら何かをチェックしているようだ。
「ふん、適性はあるようだな。これなら扱えそうだ」
ノーマットは一人ブツブツ言いながら、ミトラの顔を見た。
「嬢ちゃんにはこれを渡そう。初心者でも扱えるように調整は俺の方でしておくぞ」
困惑する僕たち。
彼は一体何を言っているのだろう?
「これはエルフの弓だ。これなら嬢ちゃんにも扱えるだろうし、威力もそこそこ強い」
「それって私でも装備できるの?」
「ああ、本来は初心者には扱えない代物だが、俺が調整をかけてやる。明日の朝には出来上がているから、明日出発前に取りに来るといい」
ノーマットは得意げに答えるも、ミトラは不安そうだ。
「でも、高いんでしょ?払えるかどうか分からないわ」
「そうさな。金貨三十枚というところだ」
金額自体は思ったよりは高くない。
ある程度はサービスしてくれているのだろう。
「分かったわ。今手持ちが二十枚しかないけど、後で必ず持ってくるわ」
「初心者がグリズリーホーンベア討伐を引き受けるぐらいだ。報酬もかなり高いんだろう?残りは討伐終了後でいいさ。それよりも俺はそこの兄ちゃんのマジックアイテムに興味がある」
え、僕?
「冒険から帰ってきたら、ちょっと店てもらえないか?もちろんタダとは言わねえが」
見るだけだったら。
どうせこのアイテム、僕の体から離せないしね。
「ああ、承知した」
僕らはノーマットにお礼を言って、お店を後にした。
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