12店目「異世界のデザートは食感が特徴的!?前編」
「もう起きなくてもいいのかい?」
女性の声で僕は重い目を開けた。
宿屋の女将のジュリアだ。
彼女は心配そうな表情で僕を見下ろしている。
そうだ、僕は昨晩モルジーさんと深夜遅くまで飲んで……。
今、何時だろう?
今日は朝からギルドで待ち合わせをしていたんだっけ?
「ありがとう。ジュリア」
僕は体を起こすも頭の痛みや胃の不快感はない。
今回は二日酔いにはならなかったようだ。
「準備が出来たら、下へ降りておいで。朝食は準備してあるよ」
ジュリアはそう言うとドアに向かって歩き出した。
扉の手前でジュリアは再度僕の方に振り返った。
「なぁ、あんたいつもそんな格好で寝てるのかい?」
僕は自分の姿を見てみる。
もちろん、昨日来ていた服装のままだ。
僕が着ている服も呪われており、服装の見た目を変えることはできるが服そのものは脱ぐことすら出来ないのだ。
「ああ、いつ誰が襲ってくるかも分からないからね。冒険者としていつでも準備をしておきたいんだ。」
僕は咄嗟に嘘をつく。
あまりジュリアに心配をかけたくはないからだ。
「ここが襲われるって言うのかい?朝から物騒なことを言わないでおくれよ」
ふぅーとため息をついて、ジュリアは一階へ向かう階段の方へ歩き出した。
ジュリアが階段を降りたのを確認して、僕は『着せ替えアプリ』を起動させる。
今回は、ネイビーのセットアップスーツに白のTシャツでカジュアル感を演出。
靴は黒のモカシンローファーというシンプルな組み立てとした。
スマホで時間を確認するともうすぐ八時。
9時くらいにはギルドに到着したいので、急いで一階の食堂へと向かった。
ギルドに到着するとすでにミトラ、アインツ、セリナが僕を待っていた。
「ミツル、遅いわよ。あなたの分の報酬も受け取ってあげたわ」
ミトラは僕にコインの入った革袋を渡す。
受け取るとずっしりと重い。
かなりの報酬が出たようだ。
「あなたの取り分は金貨十枚と銀貨十五枚よ。ボスウサギの報酬が結構入ったわね」
僕は早速受け取った報酬をギルドの受付に預けに行く。
報酬の出金・入金カウンターは依頼達成カウンターの隣。
この冒険者ギルドには受け取った報酬を管理してくれるシステムがある。
銅貨数枚の手数料は必要だが、強固な金庫で管理してくれるので利用する冒険者は多い。
「おはようございます。本日はお預かりですか、ご出金でしょうか?」
にこりと笑顔を店ながら受付担当のミーガンが対応する。
肩まで長い赤髪の小柄な人間族の受付嬢で、歳は二十歳代前半くらいだろう。
まるで銀行の受付カウンターだ。
ここではある程度の利子は必要だが、資金の貸付業務も行っているそうだ。
「報酬の預け入れを頼む」
僕は革袋に入った報酬を渡す。
ミーガンは早速革袋を開けて手早くコインを数える。
「はい、金貨十枚と銀貨十五枚ですね。確かに承りました。いつもご利用ありがとうございます。」
僕は礼を言いみんなの方へ向かおうとすると、ミーガンが僕を引き留めた。
「あっ、ミツル様。ギルド長がお呼びでございます。みなさんとご一緒にギルド長室へお越しください」
「え?」
ギルド長室はギルド奥の廊下の突き当りだ。
僕は分厚い木の扉をノックする。
「おぅ、入ってくれ」
ギルド長室はやや広めの部屋の奥に、木製の机が一台。
中央にソファーが2脚対面して設置されている。
部屋の端には本棚や棚が並び、様々な資料や本で埋め尽くされている。
ギルド長はソファーに座り、僕らの到着を待っていたようだ。
「おぅ、みんなここに座ってくれ」
緊張気味のアインツとセリナの腰を軽く叩き、僕らはソファーに座る
僕らが座ったのを確認して、ギルド長は話し始めた。
「ミツルとミトラ、そのなんだ、お前たち今日からEランクだ」
「は?」
顔を見合わせる僕とミトラ。
僕らがEランクだって!?
「お前らの最近の功績は大きい。特にラージホーンラビット討伐の功績は大きい。あれを放置しておいたら近い将来あの村は壊滅していただろう」
「ミツルはわかるけど、私は何も出来ていない。みんなの足手まといになってた!」
ミトラは声を荒げて反論する。
「そうか?ミトラの使った武器は弓矢なんだろう?解体した角ウサギの傷跡を見ると、お前さんの射撃が一番正確だったぜ。ミトラは狩人の方が向いてるんじゃねぇのか?」
「えっ、狩人!?」
ギルド長の意外な言葉に驚くミトラ。
それでもどこか嬉しそうな表情となる。
「はん?ミツル?ありゃダメだ。いたずらに無駄玉が多すぎる。素材を傷つけ過ぎた」
おぅ、ここでダメ出しをくらうとは思わなかった。
でも、ミトラが嬉しそうならそれでもいいか。
「まぁ、何にせよ。お前らは今日からEランクだ。後で受付で申請しておけよ」
僕らは礼を言って立ち上がったが、ギルド長に制止された。
「おいおい、俺がそんな報告だけでお前らを呼ぶわけはないだろ?まぁ座れ。ここからが本題だ」
僕らはソファーに座り直した。
本題ってなんだ?
「実はよぁ、お前らにクエストを頼みたくてな」
依頼?
ギルド長がわざわざ僕らEランクに?
「実はな。お前らみたいに討伐証明部位だけでなくて、魔獣そのものを持ってくる冒険者が少なくてな。討伐した魔獣をそのまま持って帰って欲しいんだ」
確かにそれは異世界収納を持っていなければ難しいだろう。
その言い方だと、討伐依頼の魔獣はかなり大きい魔獣なんじゃ……?
「討伐対象というのが、グリズリーホーンベアでな。近隣の街から討伐依頼が出てるやつだ」
グリズリーホーンベアは、全長3メートル以上の巨大なクマの魔獣だ。巨体にも関わらずすばやい動きが特徴である。驚異度はE~D。クマの魔獣の中では比較的討伐しやすいらしい。
「実は貴族様からも依頼が来ててな、このグリズリーホーンベアをできるだけ綺麗な状態で持ち帰って欲しいとのことだ」
ギルド長は続ける。
「受けてくれるなら2つの依頼分の報酬に加え、ギルドからも特別報酬を出そうじゃないか」
ダブルタスク。
うまくいけば1体のグリズリーベアの討伐で、2つの依頼が達成できるということらしい。
ただし失敗すると、その分だけ違約金が大きくなるだろう。
僕たちはお互い顔を見合わせる。
確かに報酬は大きい。
達成することが出来れば、ギルドからの追加報酬までくれるというのだ。
グリズリーホーンベアは確かに強力な魔獣だ。
今の僕たちの実力じゃ苦戦することは目に見えているだろう。
ただ、こうしてギルド長が直々に依頼してくれるのだ。
これに応えられなきゃ、冒険者をやっている意味がない。
僕たちは再度顔を見合わせ、全員無言で頷く。
これはある意味チャンスなのだ。
指名依頼をこなしていくことで、僕らの知名度やランクを上げていく。
この世界でやっていくためには、ある程度のまとまったお金も必要なのだ。
「ギルド長、僕たちがその依頼を受注しよう」
僕は彼に依頼を引き受けることを伝えると、ギルド長の表情がみるみる明るくなっていく。
「おお、そうか!やってくれるか!他の冒険者に任すのは少々難しくてね。お前たちが引き受けてくれると助かるよ」
ギルド長は机の中から依頼書を取り出し、僕らに署名を求めた。
僕たちは依頼書の末に自信の名前を書き入れた後、ギルド長に手渡した。
「これで依頼受注完了だ。この依頼書は俺が通しておく。依頼達成した際には直接俺を呼んでくれ。」
「承知した」
「期限は五日だ。それまでに達成してくれよ」
そう言い残すとギルド長は部屋を後にした。
えっ五日?
期限が早くないか?
僕たちは依頼内容を再確認をした。
「グリズリーホーンベアの討伐!
依頼場所:ウエストサウスフォレスト(通称フラワリアの森)
討伐対象:グリズリーホーンベア
報酬:二十金貨」
期限:五日間
「グリズリーホーンベアの素材回収
依頼場所:ウエストサウスフォレスト(通称フラワリアの森)
討伐対象:グリズリーホーンベア
報酬:時価
期限:早ければ早いほど」
多くの場合、依頼開始から依頼達成報告までの間が一週間以上となっている。
例え討伐を行ったとしても、期限内にギルドに報告できなければ場合によっては未達成とみなされ違約金を支払う必要があるらしい。
しかし期限が短いからといって、装備や準備をおろそかにするとリスクが格段に高まる。
今日は急いで討伐に向かわず、情報収集や装備や準備に時間を割き、明日出発する方が良いだろう。
僕は仲間たちに提案すると、みんなも同じ意見のようだ。
僕たちは明日ギルドが開く時間を待ち合わせて、一旦解散することにした。
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