33. 横暴なるメルド

 私の控え室に突撃してきたのは、やはりあのメルドとかいう男だった。

 それも武装した兵士たちを何人も連れてなだれ込んできている。

 こいつ、本当になんて性格をしているの!


「もう一度だけ言おう。エリンシアから渡された金貨をすべて返せ。それから、お前の魔道車も接収させてもらう」


「それってエリンシア様の意思? それとも、あなたの勝手な思惑?」


「すべてはコーラル伯爵家のためだ。断るなら不敬罪によりこの場で死んでもらう」


 こいつ、本当に話が通じない。

 コーラル伯爵家のためとか言いつつ、自分のためなんじゃないの?

 本当にコーラル伯爵家のためを思っているなら、こんな横暴な真似ができるわけないじゃない。


「さあ、金を渡せ!」


「なんの騒ぎですか!」


 メルドの叫び声を聞きつけたのだろう。

 ファムさんが部屋へとやってきた。

 そして、部屋の状況を確認すると、すぐにメルドを問い詰める。


「メルド、あななにをしているかわかっているのですか!?」


「私はコーラル伯爵家のためにやっているのだ! 平民上がりの小娘が生意気な口を利くな!」


「平民を脅すことがコーラル伯爵家のためになるとでも!? あなたはいつもそうやってきたのですか!」


「ああ、そうだとも。下賤な平民どもなど、しょせん上に立つ貴族のために働く駒にしか過ぎない。その駒から金を搾り取ってなにが悪い? お前もエリンシアも生温いのだ!」


 このメルドっていう男、本当に性根が腐ってる。

 私たちのことを人とも思っていやしない。

 こんなのが家臣として平然と暮らしているだなんてコーラル伯爵家ってどうなっているの!?


「どうした? 言い返せないのか? それならば大人しく黙ってみていろ!」


「……仕方がありません。メルド、あなたを反逆罪で捕縛いたします」


「反逆罪だと? 小娘が、なにを言っている!」


「申し訳ありません、ミリアさん。この男を捕縛するために力を貸していただけませんか?」


 ああ、いまはほかに戦力がいないものね。

 でも、大丈夫かな?


「リコイルちゃん、武器がないけどいける?」


「任せて。この程度のザコ、簡単に蹴散らしてみせる」


 あ、リコイルちゃんも本気で怒ってるよ。

 まあ、仕方がないか。


「おのれ、逆らうのか! 構わん、殺せ!」


「し、しかし……」


「平民など殺したところで罪に問われん! さっさとやれ!」


 兵士は動揺しているけど、メルドはあくまで私たちを殺そうとしているみたい。

 その隙を見逃すほどリコイルちゃんは甘くなかった。


「ふっ!」


「がぁ!?」


 リコイルちゃんが兵士のひとりを蹴飛ばすと、兵士の鎧が大きくへこみ吹き飛ばされていった。

 兵士は壁にぶつかって倒れ込み、失神したみたい。

 いや、リコイルちゃん強すぎでしょ。


「な、なにをしている! お前ら! さっさと、あの娘どもを殺さぬか!」


「まだ、やるの?」


「ひっ!?」


 リコイルちゃんが放つ、押しつぶされそうな殺気に当てられ兵士すらも腰を突いてしまう。

 だが、そんな兵士たちを容赦なくリコイルちゃんは蹴飛ばし、失神させていった。


「残りは、お前ひとり」


「くっ、こうなれば……我が魔法、とくと見よ! フレアボム!」


 メルドが懐からなにかを取り出し、魔法を放ってきた。

 それは部屋の中を爆炎で満たし、周囲が見えなくなる。

 実際のところ、それだけなんだけど。


「ふは、ふはは! どうだ、ウェリン様から授かった魔道具の力は! 貴族を馬鹿にするからこうなるのだ!」


「それがどうかしたの?」


「は?」


 メルドの高笑いを黙らせたのはリコイルちゃんの冷たい声だ。

 煙が晴れていくと、私たちが無傷であることがあちらにもわかっただろう。

 サクラちゃんが防御結界を張ってくれたからね。

 壁際に倒れていた兵士までは助けられなかったけど、そちらは自業自得と思って諦めてもらうしかない。


「それじゃあ、さよなら」


「ま、待て! 金ならいくらでも、ぐぇぇ」


 リコイルちゃんの鋭いパンチがメルドの腹に突き刺さった。

 ものすごい声が聞こえたけど、大丈夫だよね?

 殺してないよね?


「ファム、すべて片付いた」


「あ、ありがとうございます。ああ、ほかの兵士も集まってきたようですね」


「あれだけの爆発音を響かせれば当然。これでなにも動きがなかったら無能の集団」


「……それもそうですね」


 とりあえず、メルドは取り押さえられた。

 この先はどうなるんだろう?

 心配だなぁ。

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