25. ハヤシライス販売開始
カレー粉の作り方を教えてから数日、私のお店のお客様は……減らなかった。
どうやらカレーを出すお店は出てきたようだが、味が定まっていないとか妙に薄いとかでまだ売り物にならないような物を売っているらしい。
それだとお客様が寄りつかないよ。
レシピも料理ギルドから買ったんだろうし、香辛料も買ったんだろうから初期投資は高かったんだろうけど、お客様に美味しい物を提供できなくちゃね。
さて、私は前回2000枚もの金貨を手に入れた。
なんで、食材販売機の力でキッチンのグレードアップができる。
食材販売機とは。
今回グレードアップしたのはコンロだ。
いままでは3つしか置けなかったところを、6つまで並べることができるようになった。
コンロの拡張により、カレーだけでなく新しい料理も提供できる。
それは……ハヤシライスだ。
前に晩ご飯として食べたことがあるんだけど、これはこれで美味かったんだよね。
カレーと同じようにライスにかけるだけだから提供する時間も短くてすむ。
あと、カレーほど口臭が気にならない。
カレーの件で口臭が気になるって話はお客様より前からいただいていたんだよね。
でも、コンロの数が3つしかないから対応できなかった。
そこをクリアするのがハヤシライスだ。
まあ、口臭がしないわけではないけど、カレーほどではない。
ただ、こっちはルーの作り方を教えろと言われても教えられないんだよね。
コンロンの食材販売機以外では見かけない食材……というか、ソースをふんだんに使っているから。
その話が来たら適当にはぐらかそう。
このようにして今日からはメニューにハヤシライスも増えた。
お客様も増えてくれるといいんだけど。
「あら? 今日はカレーとオーク肉以外にもメニューが増えたのね」
お昼の営業ひとり目は女性のお客様だ。
なんだか統一感のある服を着ているから、どこかのギルドの従業員かな?
制服っぽいし。
「はい。ハヤシライスを始めました」
「どんな料理?」
「カレーライスと似たような料理です。ただ、かける物がカレールーからハヤシライスソースに代わっただけで」
「でも、値段が少し上がっているのね」
「オーク肉を薄切り肉ではなく大きめのブロック肉に変えてみました。その分、お肉の量が多めですよ」
そう、肉の量も増やしたのだ。
煮込む時間があれば火が通るとサクラちゃんに教えてもらったので、ちょっと大きめのブロック肉を使っている。
これがまたとろとろで美味しいんだよね。
オーク肉のとろとろ具合を熱弁すると、お客様も興味を持ってくれたのか、ハヤシライスを注文してくれた。
よし、まずは一皿目!
「はい、ハヤシライスです!」
「……本当にお肉がごろごろしているのね。これは値上げした分の価値はありそう」
「しっかり煮込まれてお肉が柔らかいですよ!」
「じゃあ、あちらでゆっくり楽しませてもらうわ」
「ごゆっくりどうぞ!」
女性のお客様は近くのベンチに座って食事を始めたようだ。
私はそれを横目で確認しながら次の注文を受け付ける。
やっぱり、ハヤシライスは今日始めて出す料理ということでなかなか売れない。
まあ、仕込めた量も少ないからあまり気にしないんだけど。
そんな状況に転機が訪れたのは、お昼営業の時間を半分くらい過ぎたときだ。
今日最初に来てくれた女性のお客様と同じ服を着た女性客が何人もやってきたのである。
そして、全員がハヤシライスを注文していった。
女性客たちは席に座ると、おしゃべりをしながらハヤシライスを食べ始める。
その時、盛り付けられたブロック肉がスプーンで押しつけられただけで割けていくのがよく見えた。
どうやら最初のお客様が宣伝してくれたみたいだね。
「お、おい。あの料理はなんだ?」
「ハヤシライスです。オークのブロック肉を長時間煮込んでとろっとろにしているんですよ」
「俺にもそれをくれ!」
「はい、毎度ありがとうございます!」
そこからはハヤシライスが爆売れだった。
オーク肉がスプーンで割けるほど柔らかく煮込まれているというのは、やはり注目を集めるらしい。
さらに、とろっとろでぷにっぷにの食感もまたたまらないのだ。
それだけでもひとつの料理になるほどである。
ただ、その分、ハヤシライスは作り置き分しか出せないんだよね。
カレーはあとから作り足しても煮込み終わるけど、ハヤシライスを煮込むには時間がかかる。
ブロック肉じゃなくて薄切り肉を使えば同じくらいの時間でできるんだろうけど、それだとハヤシライスとカレーライスの住み分けが難しい。
いずれは薄切り肉のハヤシライスを出してもいいかもしれないけど、いまはブロック肉のハヤシライスだ。
作り足しができないハヤシライスは、なんとか完売することができた。
ソースだけ余っちゃったけど、これはまかないに回そう。
カレーだって予想よりも売れていたし、これなら両方を作り続けても問題なさそうだ。
しばらくはこの2種類が柱になるかな。
オーク肉のさっぱり焼きと生姜焼きも根強い人気があるから作り続けるけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます