第49話

 火星の人々が粛清に対して神経を尖らせ寝る間も惜しんで生存の可能性を追求していた真夜中、当然全球ネットワークが使用不可能に陥りかつてないほどの混乱が訪れた。


 チルターク本社から情報部門の社員や兵士は姿を消し、セルナルガ社のホバー車やドローンが急速に移動を開始した。ハナソン社ではすでに小競り合いが発生し、ブレンナット社では研究内容の破棄が行われる。ビリアンタの一夜とは比べ物にならない緊張感がインターネットではなく目撃した人たちによって瞬く間に広がり、あらゆる方法を使って火星全土へその情報が伝わった。


 誰しもが火星の今が変貌することを直感し、ドームでは地球由来の企業が再亡命を急ぎ、粛清される立場にある企業や人物は武器をとって集まった。


 巨大な渦に火星という大地が吞み込まれている。黄金時代の終焉の時と同じように、今まで普遍的と信じてきたものが崩れ去ろうとしている。

 ただ、全ては有象無象の行動に過ぎない。人々は己の意思で動き、嵐の中心を移動していくのだ。


 その日、火星は雨だった。

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