第21話 宣戦布告【小作視点】

【小作視点】


「……と、いうメールが昨日届きました」


 次の日の午前10時。

 霜野さんとナルミさんを協会に呼び、私は件のメールの説明を行ったた。完徹しているので頭が回らないが、それでも弱音を吐いたり甘えている場合ではない。この先生布告を何とかしないと、日本はこれから……パニックが続くかもしれないのだから。


 私の説明が終わり、部屋に沈黙が満ちる。

 霜野さんとナルミさんの他には、協会の重鎮たちが大勢揃っており、彼らもまた渋い顔をしている。気持ちはわかるので、特にそれに対して言及はしないが。長く沈黙が続いても、変なツッコミなどは入れないが。


「それは……本当に犯人からのメール、と断定できるのか?」


 と、口を開いたのは重鎮の1人だ。

 渋い顔をして、彼は重く質問をしてきた。

 質問の意図はわかるが、 とりあえず次の言葉を待とう。


「誰かの悪戯ではないのか? 多いのだろう、そういうの」

「いえ、まず間違いなく悪戯ではないです」

「そう断言できる、根拠はあるのか?」

「メールアドレスを逆探知しましたが、このメールアドレスを使用している人物を特定できなかったからです。ネット回線業者と協力して調べ上げましたが、通常であればアドレスの使用者の情報は容易く調べられるところ、宣戦布告を行ってきた人物のアドレスからは……一切の逆探査ができませんでした」

「つまり……?」

「メールアドレスの使用者の情報が皆無なので、悪戯の可能性は低いということです。どんな悪戯メールでも、使用者の情報は必ず特定可能です。ただ今回のメールアドレスの主は、おそらく隠蔽魔法等で一切の情報を秘匿しているのです」

「なるほど……」


 わかったような、わからないような。

 そんな表情を、重鎮は浮かべている。

 まぁ……わかっていたけどね。


「それで……その宣戦布告は罠ではないのか?」


 次の重鎮が、質問を投げてきた。

 その件に関しては、私も同意見だ。

 どう考えたって、犯人も無策ではないだろう。

 だが──


「例え罠だとしても……犯人の手がかりはこれだけです」

「それは……確かにそうだが」

「今回を逃せば、次に倒す機会は……もうないかもしれません」

「……そうだな。すまない、愚門だったな」


 深く陳謝する重鎮。

 彼が謝罪している姿を、私は初めて見た。

 そのため、少しばかり……驚きが増す。


「しかし……宣戦布告とは書かれているものの、具体的にいつどこで何を行うのかが、いっさい書かれていないな」

「それはそうじゃの。いったい……何が目的なのやら」

「恐ろしいの……。それに腹立たしいの……」

「早く……倒さねばならないの」


 重鎮たちは口々に、意見を交わしている。

 私も同意見だ。もっと詳細に宣戦布告をしてほしかった。

 はぁ……本当に迷惑な犯人だな。


「こうも情報が少ないと、動くにも動けませんね」

「他の魔法師たちには、連絡したのですか?」


 ナルミさんと霜野さんも、不安そうだ。

 そして霜野さんは、他の魔法師への情報共有が気になっている様子だ。


「えぇ、既に他のS級魔法師以上の方々には伝達済みです。世間への公表は混乱を招きかねないので、まだ行っておりませんが。お二方は本日予定がないと聞いていましたので、この場に及び致しました」

「なるほど。それなら安心ですね」

「そうですね。私たちだけじゃなくて、他の魔法師さんたちも知っているなら犯人がどんな手を使ってきても、すぐに対応できそうですね」


 ただそれでも、一抹の不安は拭えない。

 犯人はもしかしたら、霜野さんよりも強いかもしれないのだから。皆を不安にさせるような発言は、さすがにしないけれど……私の心の中には一抹の不安が去来している。


「小作さん?」

「は、はい……?」

「大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ?」

「だ、大丈夫です!!」


 ……そうだ、何をしているんだ私は。

 せっかくこうやって対処してくれる2人を前にして、私が不安になってはダメだろう。彼らを支援し、鼓舞するのが私たちの仕事なんだから。それを怠って不安に陥るなんて……職務怠慢だ。

 

 深呼吸をして、頬を叩く。

 よし、気合十分だ。これで大丈夫だ。

 戦ってくれる魔法師の方々のためにも、気合を入れないと。


「え、小作さん……?」

「ごめんなさい、日和ってました!!」

「え、え……?」

「お願いします!! 犯人を捕らえて……平穏を取り戻してください!!」


 頭を下げる。日和った詫びをするように。

 そして魔法師の方々に、働いてもらうから。

 誠心誠意、90度で頭を下げる。


「あ、頭を上げてください!!」

「そうですよ!! それに頼まれなくたって、必ず捕えますから!!」

「ありがとうございます!!」


 と、その時だった。

 私のスマホに、一通の通知が届いた。


「協会のすぐ目の前に……SSS級ダンジョンのゲートが出現!?」


 私のその叫びは、部屋に轟く。 

 そんな、あり得ない。

 どうして、こんなことが。


 通常、ゲートが出現するのは、限られた場所だ。

 日本国内だと、たった数十か所でしか出現しない。

 決められた場所でしか、出現しないハズなのだ。


「これは……間違いなく……」

「えぇ、宣戦布告ですね……!!」


 2人は顔を合わせて、駆けだした。

 私は2人の後姿を、見ることしかできなかった。

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