季節の色を見つけたよ

にっこりみかん

季節の色を見つけたよ

「冬の色は白だよね」


 と、彼女は言った。

 世の中は灰色だとずっと思っていた僕にとって、それは初めての違う色との出会いだった。


 春は、ピンクから始まり緑に包まれる。

 夏は、海の青、空の青。

 秋は、赤と黄色とオレンジ。


 彼女は季節ごとに、色があることを僕に教えてくれた。


 彼女といる時だけ、この世界に色があった。

 とても楽しかった。

 ウキウキした。

 そして、幸せだった。

 生まれて初めて「生きてる」って感じられた日々だった。


 そして、


 ずっと一緒にいたい。

 そう思った。


 だから───、僕は今日、


 彼女と結婚する。


 新郎新婦の控室。

 目の前には、真っ白なウエディングドレス姿の彼女が立っている。

 僕は言う。


「冬の色になったね」

「うん、好きな季節の色だからね」

「そっか、冬が好きだったね」

「うん、小さな頃からずっとね……、でもね、大人になってから、よけいに好きになったんだよ」


 そうなんだ、なにかいいことあったの? と、僕が尋ねると、彼女はそれまでと変わらない自然な口調で言った。


「うん、あなたに出会えた季節だから」

「えっ、」


 不意を突かれて、戸惑った。


「えへへへ」


 と、彼女は笑ったあと、


「実はね、」


 照れくさいのを隠すかのように、視線を逸らしてから話を始めた。


「あなたと出会うまで、私の世界は真っ白だったの」


 えっ、


「色なんて無くて、何もかもが全て白く見える世界だった」


 それは聴いたことのない話だった。

 彼女は続ける。


「それがね、あなたに出会ってから、この世界には、いろんな色があるんだ、って気づけたの。

 

 春は、ピンクから始まり緑に包まれて。

 夏は、海と空の青がキレイで。

 秋は、赤や黄色やオレンジの景色が広がって。


 季節ごとに色があるんだって、気づけたんだよ。

 あなたと出会う度に、いろんな色が増えていって、それが溢れだして、今、私の世界はいろんな色でキラキラ輝いてる」


 ───そんな……。


「私の世界を、こんなに”色とりどり”にしてくれて、本当に、ありがとう」


 話を終えた彼女は、いつの間にか、僕をしっかりと見つめていた。


 僕は……、涙が溢れ出てきた。

 霞んで彼女の顔をおぼろげにしか確認できない。


「なに、泣いてんだよ」


 と、彼女に突っ込まれる。


 僕は、少しおどけて見せながら、頭の中でつぶやいた。


(そっか、彼女も同じ気持ちだったんだ)

 

 そして僕は、声を口に出して彼女に言った。


「これからも、いろんな色を見つけに行こう」

「うん、たくさん見つけようね、一緒に」


 僕が差し出した手を、彼女はしっかりと握り返してくれた。

 そして僕たちは並んで歩き出し、ふたりで控室の扉を開けた。




おしまい。

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