第3話 使い魔
拾われてから数日が経ち、ある程度の意思疎通ができるくらいに話せるようになった。
「おはようピィちゃん」
「……はよう」
言葉を喋るには影……人間に似た姿にならないといけないらしい。正直身体が疲れるが、人間の期待に負けてしまう。
この人間は信頼してもいいのかもしれない。何度、抗ってもマリは罰しなかった。
「ほら、ご飯たべて。どう、おいしい?」
「うん。」
この下がピリつく感覚は毒ではなく、次第に自分の身体の異常だと結論ついた。食べたら洗っって片付ける。単純な作業の繰り返しだ。
「……っ」
最近、ふと思うのは身体の調子が最近良くない。思うように動かなくなっていく。
毒の痛みじゃない。もし、毒なら身体の血液が硬くなるように侵食されるだろう。
「ピィちゃん、大丈夫?」
「うん」
マリに心配されるのは負が見えるから嫌だった。笑っている時は安心する。でも、悲しい時は心に負が伸し掛る。
……そして、問題はもう1つ。
凄く嫌な予感がする。何かが、心がピリッとする。何かに追われているような気が。
「ねぇ、ピィちゃん。あなたは使い魔なの?」
「つかいまってなに?」
「うーん。そうねぇ、じゃあお勉強も兼ねて話してあげるわ」
そういうと、マリが椅子に座ったので自分も傍に座った。
「この世界にはね。使い魔って存在がいるの。貴方みたいに人間の姿にも獣にもなれる人よ」
「マリは……ちがうの?」
「違うわ。私はただの人間だもん。この世界は人間と使い魔が一緒に生活する方が当たり前よ」
人間と使い魔。でも、自分は使い魔とは呼ばれていなかった。姿を変えれるけど
「つかいまじゃない。……しっぱいさく。それはなに?」
「失敗作かあ、そうだねぇ。その人達に取って貴方は良くないって事かな。でも、私にとっては失敗作じゃないわ」
そういうと、人間は私の頭を撫でた。人間の手は暖かい。そして安心する。
――! 嫌な予感が大きくなる。
「どうしたのピィちゃん?」
「マリ。外に出たい」
「どうしたの?別にいいけど」
自分の心が逃げろと強く声を上げる。その言葉に従うように外に出て走った。嫌な予感が少しでも離れるように、逃げるように
「――やれ」
『……!』
背後に荒い息が聞こえる。後ろを振り向けないまま足が止まるまで走り続ける気だった。
だが、足りなかった。
「キャアアアアアアア!!」
―――!
「!?」
背中に何かが突き刺さった。抜け出せないまま近くにあった木に打ち付ける。身体が思うように動かない。
「よくやった。クソが、手間かかせやがって」
「失敗作がよ」
「……っ」
この人間を忘れられる訳がない。私が最初に見た顔だ。失敗作と名付け、苦しませ、捨てた人間。
「もういい。暴走しようが、ここで殺す。コイツは外に出しては行けないからな。おい」
隣にいた獣は頷くと、人間の姿になり自分の身体をおさえつけた。
「消えろ同胞。私以外必要ない」
使い魔と思わしき存在は、尖った道具を手に持った。
「コード00、ソルスを破壊を行う。ソルスを提示しろ、決して抗うな。――命令だ」
「!!」
その瞬間、身体が無気力になり心に風を感じた。出ては行けないものが、自分を動かすものが壊される。悟るのは一瞬だった。
また痛いんだろう。声が枯れるほど泣き叫ぶ日々がまた始まるんだろう。
マリといる時だけは怖くなかった。だから忘れていた。
その時
「待って!!」
この声はマリだと分かった。息を切らしながら向かってくる。
「その子は――私の使い魔よ! 使い魔になった子に被害を与えられないのよね!? 私がその子の契約者、危害を与えたらどうなるか分かっているのよね!」
「……マリ」
難しい言葉だった。マリが何を言っているかは分からない。
「……っ!」
使い魔は道具を落とし、目を疑うようにマリを見た。
「なるほど。お前がずっと囲ってたんだな」
人間は薄ら笑いをしながらマリの元に足を運ぶ。
「コイツが何者か知ってて言ってるのか?」
「失敗作でしょ。聞いたわよ。でも、ピィちゃんは失敗作なんかじゃない! 私の大事な子よ、返して」
……マリは失敗作を否定する。
「主、速くやりましょうよ!」
「待て。今変に潰して暴走されたら……いや、先に暴走させてその女をやらせるか」
本能が何かを察した。心臓が鼓動する。胸が締め付けられる感覚が自分を襲う。
「コード00、獣化しろ」
「――! あぁぁぁあああああああああああああああああ!!!」
全部、真っ暗になっていく。身体が言う事を聞かない。
「そこの女を殺せ」
視界がマリだけを映す。脳内に殺せと声が聞こえる。喉が無性に乾いていく。
血が欲しい。あの人間の……
意思は塗りつぶされる。気がつけば、意志を置いてけぼりにして身体が勝手に動いた。
「いやああああっ! 待って! ピィちゃん!!」
嫌だ。自分のように泣き叫ぶマリの姿を見たくない。何度もブレーキをかけても止まらない。
「お願い……」
何度も何度も歯を向けた。喉に濃い血が流れてては繰り返す。もっと欲しいと叫ぶ。
「分からないか?失敗作は使い魔にはなれない。ただの兵器として造られたコイツに心はない」
「違う! 貴方は失敗作なんかじゃない! ピィちゃん!」
マリは自分の角に手を伸ばし、顔を離す。
「ピィ……ちゃん!」
彼女の顔にピントが合う。いつもの顔だと思えない程に血で、自分のせいで歪んでいたのに笑ってた。
「キシャアアアアアアアッ……」
こんなことしたくない。血なんて望んでいない。
「……マリ」
貴方は私を大事にしてくれた。だから私は、マリのそんな顔を見たくない。
「失敗作なんかじゃない。私は……マリの使い魔だ」
「――!!」
身体を無理やりにでも止める。マリの顔を見れば見るほど動かなくなった。
マリは私を抱きしめ身体を引き寄せた。血の匂いがしても、もう食欲なんて湧かなかった。
「こんな事が……主」
「ハッハハハハハハ! まさかこうなるなんてなあ、ハッハハハハハハ」
「笑わないで。ピィちゃんは失敗作じゃない。」
人間は笑いながら、私を面白げがあるように見つめてくる。
「まさか、命令を破るとはな。失敗作がなあ。ははは!」
「笑うなって……!」
マリは睨みつけ怒りを見せる。
「認めてやるよ使い魔」
「……?」
「そいつにはまだ生かす価値がある。ただ1つ確認だ……失敗作を飼い慣らす覚悟はあるんだな」
「もちろん」
男は指を鳴らすと、黒い紙がマリの元に現れた。
「そいつの契約書だ。こいつは正式じゃないから一応代わりに作ってはいる。それを書いて使い魔に食わせろ」
「……信じるとでも?」
「ならここでそいつは死ぬ。いいから書け」
マリは息を頑張って繋ぐように名前を書いた。
「これで……いいんでしょ」
「あぁ。コード00を使い魔として認定してやる。だが、失敗作。使い魔じゃなくなった瞬間に殺すからな」
人間はそう言うと帰っていった。身体がずっと麻痺して動かない。ただマリのおかげで助かったようだ。
「やったね。ね、部屋まで連れていっ……」
バタッ
「マリ。……ん」
血だらけになったマリを抱え、部屋に向かった。まだ心が騒ぐ。
暗然な世界に一旗を〜失敗作と言われた兵器使い魔になり成り上がる〜 大井 芽茜 @oimeamea
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