第28話 畏怖城の残光5-⑷
「なんですって、小梢がこの島に来ているというのですか……こうしてはいられない」
図書室の奥で流介と天馬の話を聞き終えた傘羽流山は、そう言って目を見開いた。
「そうおっしゃるところを見ると、傘羽さんは小梢さんが来ていることをご存じなかったようですね」
「そうです。知りませんでした。きっと私を探したものの見つけられず、かといってならず者に捕まるわけにもいかずどこかに身を潜めているのでしょう。一刻も早く探し出さねば」
「そもそもなぜ、この島に黄金があるなどという噂が広まったのでしょう」
「それも私に責任があるのです」
「というと?」
「今から三百年前、耶蘇会にいた修道士が天啓を受けて独自の教義を唱え、会から破門されました。その元修道士は自分独自の修道院を建てるため、フィリピン近海を荒らす海賊となりました。そして敵の攻撃を受け、手に入れた黄金と共に海に沈んだのです」
「なぜあなたがそのような古い伝説を……?」
「海賊の部下で黄金の一部を隠し持っていた人物が、日本に逃げのびていたのです。私はその人物の末裔で黄金の話も代々、家に伝わっていました。私は父が亡くなると黄金を掘り出し、養女の梢を松前に住む知人に預けて島に渡りました。その際、小梢に暗号を添えた島の地図を渡したのです。黄金は十二の袋に分けて後に独房となった部屋の床下に埋めました」
「小梢さんのほかにもう一人、男性がこの島に来ているのですが」
流介が言うと、流山は意外そうに目を瞬いて「もう一人?」と返した。
「はい。大十間巌さんという、匣館税関で働いている方です」
「大十間さんが!」
「お知り合いなのですか?」
「なんということだ、せっかく生きてこの島を出られたと言うのに、また戻って来るとは……」
「戻ってきた、ということは大十間さんはかつてこの島で暮らしていたことがあるのですか」
「ええ。今から八年前、彼はこの島の住人……いえ、監獄に収監されている囚人だったのです」
「どういうことです?」
「彼はある人物の企みによって、無実の罪で政治犯にしたて上げられここに送られてきたのです。彼から事情を聞いた私はある方法で彼をこの島から脱出させる事にしました」
「たしか『畏怖城』は脱出不可能な監獄だと……」
「はい。ですが樺戸監獄への囚人移送計画が持ちあがったことで、大十間さんは脱獄を決意したのです。あそこに送られれば、二度と生きて帰っては来られないと考えたのでしょう」
「どうやって脱出したのです?」
「樺戸監獄へ移送する囚人を乗せて島を出た船が、たまたま時化で沈没したのです。そして囚人の死体だけが島に流れ着き、やむなく監獄内で弔う運びとなりました。
葬儀は私が礼拝堂で執り行ったのですがその際、「貴重な儀式をするので出て行ってほしい」と役人を礼拝堂から出し、その隙にマリア像の後ろに隠れていた大十間さんが桶に入って「死体」として島を出たのです」
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