第11話 畏怖城の残光2ー⑵


「瑠々田君、このような謎だらけの状態では記事にもしようがない。今日のところは僕らも引上げよう」


 流介が促すと弥右は返事もせずに樽を覗きこみ「この仏さん、何か握ってますよ」と言った。


「なんだって?」


 兵吉は慌てて樽をを覗きこむと弥右に「どこだい」と尋ねた。


「ほら、左手の中ですよ。紙の……切れ端じゃないかな」


「……どれ」


 兵吉は虎造の身体に手を伸ばすと、左手の拳に収まっている紙の切れ端を抜き取った。


「なんだこれは。本か地図の一部かな」


 兵吉が首を傾げると、脇からすっと潜りこんできた絢が「私……これ見たことあります」と言った。


「えっ?」


「うちに持ちこまれた古地図の中に、こんな物があったように思います」


「つまり、その古地図から破り取られた物だと?」


「わかりません。父に聞いてみたいところですけど」


 絢が返答に詰まると、横から「だったら」と刹那が紙と鉛筆を手に兵吉の前に進み出た。


「私がここで書き写すわ。兵吉君、それならいいでしょ?」


「あ、ああ……」


 刹那は兵吉に「ちょっと借りるわね」と言うと紙切れを奪い手にした紙に書き写した。


「はい、文の中身だけだけど、これでいい?」


 刹那が絢に写しを渡すと、絢は「ありがとうございます」と目を丸くして礼を述べた。


「お父様に聞いてみて、書いてある意味がわかったら私にも教えてね」


「はい、そうします。でも……いいんですか?貴重な紙を」


「いいのよ。だって事件の謎を解くのに必要でしょ?私にできることはこれくらいしかないもの」


 刹那があっけらかんと言い放つと、絢は「ありがとうございます」と丁重に頭を下げた。


「さあ、このへんでいったん、解散しましょう。亜蘭、おまえも先に帰りなさい」


「うん、そうするわ。……絢、紙の中味についてあとで聞かせてもらっていい?兄さんに教えたいの」


「いいけど、すぐわかるとは限らないわよ」


「もちろん、何かわかったらでいいわ。……じゃあ兄さん、あとをお願いね」


「ああ。……と言ってもたいしたことはできないけどな」


 兵吉は樽の上の『十三』という文字を指で撫でると「やれやれ、とんだ休日になったな」とぼやいた。


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