魔王人生 第1章 第12話 最弱という名の


農園らしき場所でナスカと出会い、ウリエルの言葉を聞き、混乱していた神代


神代はナスカの正体に薄々気づいていたが確信がなかった、だが想像を超えており、考える暇も与えられず、正体が明かされたタイミングで、神代は元の部屋に戻される



「・・・まさか、天使たちの親玉とは・・・想像超えてるって」



そう神代が話しかけているのは、部屋に戻る最中に出会った白玖だった

「いや~てっきり分かっているのかと」

「最高神はないだろ・・・捕虜扱いしたのはヤバいな、終わった・・・」


神代はナスカと出会ってからのことを思い出しながら後悔していた

「はぁ~・・・絶対、判決死刑か無期懲役だろうな」

「その割には余裕そうじゃの?」

白玖は隣に座り、リンゴを剥きながら話していた

「まぁ、そう簡単に死ぬつもりは無いし、いざとなったら逃げる、死ぬなら他のことしてからだな」

「そう・・・まぁナスカは優しい奴じゃからの~、お主のこと心配していたから大丈夫じゃろ」


雑談を白玖として、しばらく時間が経ち、遠くの方から物凄い急ぎ足が聞こえてくる


ガチャンッ!!!!!


「はぁ・・・はぁ・・・よりにもよって、さ、最悪な判決が出たわっ!!」

そう息を切らしながら走って、ドアを開けたのは狐嶺だった

「・・・?」

神代はリンゴをかじりながら逃げる準備を目にも止まらぬ速さでやっていたが手を止め狐嶺を呆然と見ていた



・・・・・・・

・・・・



「とりあえず話すとね、判決の結果、死罪は免れたわ・・・というよりもと言った方が正しいわ」


狐嶺もリンゴを食べながら座って話す

「世界では、「災害」の被害が多くなって、人手不足は毎日・・・「能力ちから」を持った者を失う訳にはいかないっていう考えになったんでしょうね、でもあのじじ・・ゴホンっ、上の人達は別の提案をしてきたのよ――」


すると、胸元から何か書かれた紙を神代に渡した

「どこから出してんだよ・・・えっと?『代案として、「ミエルと三か月間の共同生活を命じる」』・・・どういうことだ?てかミエルって誰だっけ?」


神代は渡された資料を白玖に渡し、狐嶺に聞いた

「・・・ミエルは、私達とは「違う」・・・危険なのよ」

「あぁ~思い出した・・・前に白玖が言ってた奴か、「危険」ってどういうこと?」


すると、白玖が資料を狐嶺に返し、語る

「ミエルは、元々「災禍」のとして、認定されていたのじゃ、危険なのはまだ「知識」が足りてない時の話じゃけど・・・上の者たちは罪人を密かにミエルの元に送り・・・そこから罪人が帰って来たことは無いそうじゃ、あくまで噂じゃけどの」


「つまり、俺をミエルの元に送って、死ねば好都合、生きれば「計画」に利用って魂胆か・・・」

神代は腕を組み、少し考える

・・・ミエルって奴がどんな奴か分からないのが困るな。

せめて話が通じる相手だったら良いけどな・・・

やっぱりどこも似たようなやつらが居るな。


すると、狐嶺は顔を俯きながら話し始める

「・・・ミエルと一度会ったことが・・・いや戦ったことがあるわ・・・正直言って強い」

「お前がそう言うほど強いのか?」

狐嶺は俯いた状態で頷いた

「あれは、異常よ・・・変幻自在、抵抗すらさせてもらえなかった、少し辱めも受けたわ・・・ミエルは、「能力の抑制」をしているにもかかわらずあの強さ・・・正直今の君じゃ無理だわ」


狐嶺は立ち上がり、荷物をまとめていた

「どこに行くんだ?」

「流石に私も黙っていられないわ、直接抗議してくる」

ドアを開け、部屋を出ようとしている時に神代が決心し言い放つ

「・・・良いぜ、そのクソみてぇな代案、乗ってやるよ!」

「君、正気なの!?」

「ただでさえ強くならないといけないんだったら、強い奴と戦った方が経験は積める・・・」


神代は立ち上がり、狐嶺の前に立つ

「いつまでも弱いのは嫌だからな、明日からでも行ってやるよ」

「・・・怖くないの?」


神代は少し時間を置き答える

「・・・もちろん怖い、でも今の俺には「能力ちから」がある・・・「能力ちから」を持ってるやつが取る選択肢は一つ、「」しかないんだよ」

そう言いながらお腹を下した神代はトイレに向かった

「・・・格好つかないのう笑」



翌日、起きると部屋の周りの賑やかさがなく静寂に包まれていた

起きてから数時間後に、天使兵数十名と、大天使のミカエルとウリエルが部屋に来た

「では、これからあなたを、ミエル様のもとに送り届けます・・・最後に聞きますが本当によろしいのですか?」


神代に質問するウリエルの顔は少し暗かった

「問題ねぇよ、心配しなくてもまだ死ぬつもりは無い」

「心配・・・はしておりません!」

神代は立ち上がり、天使たちと共に、ミエルのいる場所まで歩いて行った


・・・・・・

・・・・


神代はかなり長い時間歩き続け、気づけば何もない壁の前に立っていた

「・・・ここがミエルってやつがいる部屋か?」

「はい、ミエル様のいる場所は少し特殊で、外側からは普通に通れます、ですが内側からの脱出は外部の者が手を加えない限り、不可能です・・・ミエル様の能力はそうでもしないと周りへの被害が大きいですから・・・」

ウリエルは説明を終え、その場から離れる

「この部屋が開いたら音が鳴りますので、入ってくださいね・・・ご武運を」



しばらく待っているとドアの開くブザー音が鳴り、神代はウリエルから教えてもらった通りに部屋に入った――


「・・・何だこの部屋?」


辺り一帯白一色、正方形のような形をした何もない広い部屋だった

「・・・なんか違和感があるな」

神代は部屋の中心と思う場所まで歩いていると――

「ばぁッ!!」

突如上から脅かす様な声で逆さにミエルが降りてくる

「うおっ!?」


ミエルは着地し、神代に近づく

「おにいさんが今回あそんでくれるひと?」

「遊ぶ・・・?」

何か聞いてた話と違うな、見た感じクソガ・・・じゃなくて幼い子供って感じだな。これが本来の姿なのか?・・・いや体がほんの少しだけ透けてる。

漫画とかで見るスライム・・・だな。


「お前がミエルで合ってるよな?」

「うん!ミエルはミエルだよっ!」

神代はミエルの姿、性格がイメージしていたものと全く違うため、思考が完全に止まっていた


「それでそれで!おにいさんはなにしてあそんでくれるの?」

「・・・えっ?・・・あぁ~、じゃあ――」

コイツが強いというのが分かる遊び(戦闘)でいこう・・・ちょっとルールも変えるか

「はやくはやくっ!」

ミエルはものすごい楽しそうな顔で待っていた

「『鬼ごっこ』だ」

「やぁった!!いいよ!」


すると、ミエルは一目散に走り出し、位置につこうとしていた

「待て待て、ルールは普通の鬼ごっことは違う、新しいものでやるぞ」

もちろん嘘、ルールは全く違うけど。


神代は、動き回っているミエルを一旦落ち着かせ、ルールを教えた

「ルールは、基本鬼ごっこと同じ、新しいルールは逃げる側が鬼を触ってもタッチ判定にならないってルールと能力を使うのは一つまで、相手が降参したら終わり・・・分かったか?」

「んぁ???」


あっダメだ全然理解してない・・・


「とりあえず、逃げる人は鬼を触ってもオーケー、力を使うのは一個まで、相手が負けを認めたら終わり・・・分かった?」

「わかった!!」


神代は少しミエルから離れ、振り返る

「とりあえず鬼は俺から!・・・10秒数えたらスタートだぞ!」

アイツの理解度が子ども並みで良かった・・・

いきなり戦闘を始めたら負けるのは間違いなく俺。

遊び戦闘で危険を侵さず、かつ相手の身体能力、行動、魔力量、能力がどんなものかが分かる上、降参すれば強制的に遊び戦闘を終わらせられるというこっちに取ってはメリットでしかない。

この戦闘鬼ごっこはローリスク・ハイリターンという千載一遇のチャンス!!


「いくぞ!10・・・・・・9・・・8・・・7・・・6・・・」



― 闇の衣ダークフォース 80% ―



「5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・行くぞッ!!!」

神代は自分の合図とほぼ同時に動き出し、一気にミエルの間合いまで詰める――

「――はぁああッ!!!」

「うわっ!・・・おっとっと――」

神代は身体の向きを変え、ミエルを追いかける



一方その頃、外からミエルたちの様子を見ているウリエルとミカエル、狐嶺が話していた

「いきなり遊び始めましたよ・・・何をやってるのか・・・」

呆れたような感じでウリエルはその様子を見ていた

「まぁあの状態のミエルはまだ「」からね~・・・相手してあげてるんでしょ」

ミカエルは退屈そうに見ていた


神代は五分間ぐらい走り続けたが、一向にミエルが捕まらない

「ハァ・・・ハァ・・・マジかよ・・・途中から結構本気でやってるんだけどな・・・」

「おにいさん、もうつかれたのぉ?・・・ミエル、まだまだはしれるよ?」

こいつッ・・・煽ってんのか?

テメェはスライムだからほぼ無呼吸で動ける上、可動域が普通じゃねぇんだよ!!

「舐めんなよッ!!!!」


神代は、少しスピードを上げて、ミエルを追いかける

壁、天井を使い、ありとあらゆる方法でミエルとの間合いを詰める

「ハぁアあッ!!!!」



大きな衝撃と音が外側まで響く――



「なんか・・・前よりも速くない?」

ミカエルは神代の動きを見て、疑問を抱く

「まだ私達と戦ってそこまで時間は経っていないはずなのに・・・」


狐嶺はミカエルの言葉を聞いて、について話し始めた

「私達は、身体は神代くん、中身は史上最強の魔王と戦ったわよね?・・・そもそも依り代にして宿った場合、その本体の力以上のものを出すのは本来難しいの・・・例で言えば、私の『天ノ妖あまのあやかし』がいい例ね」


ウリエルは狐嶺の例えに納得し、話を聞き続けた

「でも、依り代で宿ってたとしても筋力や経験はちゃんと依り代にされていた者にも多少なりとも影響はでるわ」


ウリエルはその話を聞いて、疑問を抱く

「でもそれでも私達に負けてましたよね?どうしてでしょうか?」


狐嶺は腕を組み、少し間を空けて話した

「・・・彼がそもそも本気で私達と戦っていないって理由もあるわね」

「つまり・・・本気で戦っていれば私達は負けていたと・・・?」

ウリエルは少しだけ魔力高ぶらせ、神代の方を見ていた

狐嶺は足を組み、神代を見ながらも話を続ける

「もちろんあなた達が負けるとは思っていないわ・・・あくまで可能性の話よ」

狐嶺の見る先には神代の姿があり、必死にミエルを追いかけ続けていた


・・・・・・・

・・・・


「クソっ!・・・全然ッ・・・触れもしない・・・」

もっと瞬間的な速さがいる。

闇の衣ダークフォース」を全体じゃなくて――


神代が発現している「闇の衣ダークフォース」の形が少しずつ変化していく

「――なるべく足にっ・・・力を入れるッ・・・!!!!」

これは鬼ごっこあそび、強い攻撃を入れる勝負じゃない・・・なら――



― 闇の衣ダークフォース 速撃ノ型そくげきのかた ―



「足をメインにして強化すれば良いッ!!!」


神代が作り出した「型」は、天使たちが徹底的に調査し把握している「型」の一つ

調査では、「闇の衣ダークフォース」は身体全身への強制的なだが、「型」によって、強化できる部位を絞ることができると考えられていた


その「型」の種類はおよそ3つだと言われている



「フゥッ――!!!」

神代が動いた瞬間、ミエルの後ろから壁に当たる衝撃音が聞こえた


ドゴォッン!!!!


ミエルが振り返ると先程まで目の前にいた神代が背後に居た

「イッテ・・・思ってたよりも速く動けたな・・・」

「すごぉいっ!おにいさん、しゅんかんいどうしたみたい!!」



このとき驚いていたのはミエルだけではなく、外から見ていた天使たちと狐嶺も先程の動きを見て、驚愕していた

「なっ、何ですか今のは・・・!?」

ウリエルは机に手を置き、驚きの顔を隠せなかった

「えぇ・・・」

ミカエルは開いた口が塞がらないほど驚いていた

「・・・なるほどね」

私達がカガーマと戦った時に、動きを捉えれなかったのはこの「型」が原因ね。

あのミエルも目では追ってたけど、反応ができていなかった・・・

まだ強くなるのね・・・もうめちゃくちゃよ


狐嶺は神代の「闇の衣ダークフォース 速撃ノ型そくげきのかた」を見て、驚いていたものの、その速さに注目していた


神代は壁に手をつき、激突した部位を確認しながら身体を動かしていた

「問題なし・・・ミエルだっけ?あいつも反応できていない・・・これで行けるッ!」

神代は壁に激突しながらも、切り返し、物凄い速さで壁、天井を飛び回る

ミエルが、その場であたふたしていると――


「タッ―チィイイッ!!!!!!」

飛び回っていた神代が横からミエルの肩をギリギリで触る

「よっしゃ――」


ドゴォォンッ!!!!


神代は飛び回っていた速度のまま壁に激突した

「ぐおぉおお・・・痛っ・・・て~」

痛がっている神代を遠くから見ていたミエルは少し微笑み、神代に話しかける

「これでおにいさんのかちだね!次はミエルがおにだよ~!!」

「イテテ・・・もうちょっと待ってくれ・・・今位置に戻る・・・」


神代は背中をさすりながら最初の位置に戻る

「まずは・・・俺の勝ちだな、次はお前が鬼な・・・」

「うん!」

そして神代は身体の調子を整え、ミエルに合図を送ると、ミエルは数を数え始める

「い~ち、に~い、さ~ん、し~い、ご~お――」



神代はミエルが数えている間に次のことについて考える

「・・・・」

さっきは俺が鬼だったから特に何もなかったけど・・・次は違う

コイツから逃げ続けなきゃいけないという地獄。

時間制限作ればよかったな・・・


「ろ~く、し~ち、は~ち、きゅ~う――」


後悔しても遅いか・・・

とにかく相手の能力が何なのかが分かるまで逃げれば良い・・・

それだけだ――


― 闇の衣ダークフォース 速撃ノ型そくげきのかた ―


「――じゅうっ!!」

ミエルが数え終わったと同時に神代は「闇の衣ダークフォース 速撃ノ型そくげきのかた」を使ってもう一度、壁や天井を目にも止まらぬ速さで飛び回る


「よしッ!これなら!」

行ける!逃げ続けることができる!


神代は追いかけて来るミエルを簡単に振り払い、飛び回り続けた

「おにいさん、はやいよ~!」

「オメェも十分速かっただろっ!!」

別に容赦ないと言われてもいい、そうでもしねぇとコイツから逃げられる気がしない



そう思いながら右往左往に飛び回っていると、神代は何かに違和感を覚えた

「・・・」

そういや、さっき壁に激突した時、何で怪我しなかった?

闇の衣ダークフォース』のお陰ってのもあるが、そうじゃない。

飛び回っている壁も天井も、たまに体育館にあるクッションが付いている壁みたいな感触・・・あと能力を使うときの違和感があるな・・・・・まさかっ?!


神代は気付いた、だがもう遅かった

次見た瞬間、目の前にはスライムの壁があり、勢いのまま激突し、張り付いてしまった


「おにいさんつかまえたッ!」

「く・・・そっ――?」

神代は、力をいれることもできず、一瞬で意識を失った


「あー・・・流石の彼もここまでやられたら逃げようが無いですね・・・」

ウリエルは神代に同情するような感じで見ていた

「神代くんは途中で気付いたけど、もう遅かったわね・・・この部屋自体はもっと広いところだった、でもミエルが部屋全体にスライムを敷き詰めて、部屋の八割はミエルで埋まっているのよ・・・見ての通り、手のひらで踊らされていたのよ」


「えぇ・・・」

狐嶺の話を聞いていたミカエルは唖然としていた

「まるで子どもみたいに無邪気だけど、それが返って武器になる・・・現代最強って言われるだけはあるわ・・・」

ミエルは気を失っている神代を地面にゆっくりと置いた









――第13話に続く

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