魔王人生

魔王人生 第１章 第６話 代償

狐嶺との激しい戦闘が絶え間なく続いていた

「ぐっ・・・！！」

くそっ！闇の衣で身体機能を上げてギリギリの戦いだ・・・

剣術、体術、戦闘経験は向こうが上だ、そこは身体能力では埋められない・・・

どうする・・・！

狐嶺は建物や地形を利用し、死角から神代を攻撃し続けていた――

「―――くっ！？」

建物を死角にしやがって！！

どこから攻撃が来るのかが分からねぇ・・・

ただでさえ、攻撃を防ぐので精一杯・・・当てようにもすぐに視界から消える。

「ふふっなかなか苦慮しているわね！降参してくれてもいいのよ？」

「舐めんじゃねぇっ！！！」

―　異形一刀流　陽光（いぎょういっとうりゅう　ようこう）　―

神代が放った技は円を描くように周りの建物を斬り倒す

「ハァ・・・ハァ・・・」

これで周りの障害物は無くなった・・・これでっ――

メキッ！

「―――がっ！？」

神代は狐嶺の中段蹴りが横腹に直撃し、そのままビルに吹き飛ばされ、その衝撃で窓ガラスが破れる

「・・・ゴホッゴホッ」

「闇の衣」を発現させているとはいえ、ここまでダメージを受けるとは思わなかった・・・

油断したか・・・このままじゃ一方的にやられるだけ・・・

出来ることは限られている。

―　異形一刀流　空振り（いぎょういっとうりゅう　からぶ）　―

神代は「闇の衣」の身体強化により、以前よりも力は増し、斬撃を飛ばせるほどまで強くなっていた

神代は斬撃波を放ち、地面に向かって連発する――

「――はぁあああっ！！！！」

放った斬撃で建物が崩れ、砂煙が舞い上がる

「凄い斬撃ね・・・魔力を用いたものではなく、彼の技術で斬撃波を飛ばしている・・・」

一朝一夕で出来るものではないわ、彼もなかなかの・・・

狐嶺は斬撃を避けながら距離を離し、袖から札を出し、神代に投げる――

―　風札　乱（ふうふ　らん）　―

札が神代に近づいた瞬間、突風が吹き、遥か上空まで吹き飛ばされる

「うおっ！？」

さっきの札は何だ？目の前に来た瞬間消えて、突然強い風が――

「――この高さなら遠慮なく斬れるわっ！」

狐嶺の声が聞こえたと思った刹那、強い衝撃が身体全体に走り、物凄い勢いで地面に叩きつけられる、上空およそ千メートル程から狐嶺の剣術を受けた神代は、無意識で闇の衣で身体を覆ったがその衝撃は凄まじく、神代の意識を刈り取る――

「――よっ・・・と、君の剣術はなかなかのものだわ、でもね、私には届か――」

狐嶺が倒れている神代に近づいた瞬間――

―　異形一刀流　阿鑼偽裏（いぎょういっとうりゅう　あらぎり）　―

神代は倒れた状態から周囲にあるものを荒く斬り刻み、狐嶺に一撃を入れる

「――くっ！？」

まさか倒れた状態から斬り込んでくるなんて・・・予想外だったわ。

神代は頭を抑えながら立ち上がる

「――ってぇな・・・流石に死ぬと思ったぜ、魔力でも固めて正解だったな・・・」

神代は狐嶺の攻撃を受けた直後、身体に魔力を覆い、直撃を避けていた

「・・・少し君を見くびっていたよ、私は君の覚悟に泥を塗るところだったわ」

狐嶺はそう言いながら、自身が持つ魔力を圧縮し、身体に覆い始め、眩い光が辺り一帯を照らす――

「―――っ・・・何だあれ？」

神代が見たのは、半分だけ狐のお面を被り、巫女の様な服装をして、尻尾が二つから五つに増えていた

「そんなに見つめないでよ、恥ずかしいじゃない笑・・・ふふっ冗談はさておいて、これが私の戦り方――」

―　天ノ妖　火神　甕速（あめのあやかし　かじん　みかはや）　―

狐嶺が着ている服「神器　天ノ妖」の権能、使用者の魔力を８割以上消費して神界にいる神様の力を任意で降ろすことが出来る降神術に近いものである・・・が力を行使できるのは魔力量に応じて、およそ２０分である

「さて・・・」

あまり長い時間、戦い続けるとこっちの分が悪くなるわ・・・

少年には申し訳ないけど、これで決着を決めるわ――

「――ハァッ！！」

狐嶺が刀を振るった瞬間、神代を中心に半径二百メートル程が青い火の海となった

「――アッチィ！？」

なんて威力と熱さだよ、逃げる隙間が無いほどの範囲・・・

本当にヤバいかもしれない・・・

・・・っ・・・・・

・・・・っ・・

狐嶺は青い火の海をビルの屋上から眺めていた

「・・・ちょっとやりすぎたかしら？」

とはいえ、さっきは高所から落ちてもピンピンしていたし、油断は出来ないわね・・・

青い火の海から一瞬、何かが飛んだが狐嶺は目で追えず辺りを見渡した瞬間、真上から強い攻撃を受け、ビルを壊しながら下に落ちる

―　異形一刀流　神墜（いぎょういっとうりゅう　かみおとし）　―

「―――がっ！」

何が起きたの・・・突然上から攻撃を受けた・・・

少年はどこから？瞬間移動？

・・・いやそれなら気付くわ・・・まさかあの一瞬で？

「ハァハァ・・・ははっ！お前の攻撃でやられたと思ったか笑？お前が目をこっちから逸らすのを待ってたんだよ！・・・ハァ・・・ハァ・・・」

神代は狐嶺の肩を踏みつけて、刀を振れないようにしていた

「・・・ふふっやっぱり凄い技術ね、でも――」

狐嶺の魔力が急激に高まったその瞬間、大きな爆発が起こる

―　光炎万丈（こうえんばんじょう）　―

ドガァァァァン！！

辺り一帯は狐嶺が放った技「光炎万丈」で月明かりよりも明るく照らされていた

神代は狐嶺が放った技で吹き飛び、建物を壊しながらも受け身を取る

「―――くっ！簡単には行かねぇか・・・・」

そこからも神代と狐嶺の戦いは続き約３分、一進一退の攻防激、だが時間が過ぎるにつれて狐嶺が優勢になっていく

「フッ！・・・ハァッ！！！」

狐嶺の放った斬撃で神代は飛ばされ、地面に叩きつけられる――

「――ぐはっ！！・・・ゴホッ・・・ゴホッ・・・」

神代は血を吐くも何とか起き上がり狐嶺の方を見る

「・・・・っ」

これ以上戦い続ければ、流石に身体の限界が来る・・・・・

また負けるのか？

神代がそう考えていると狐嶺が距離を詰める――

「考え事かしらっ！！！」

「ぐっ――」

―　光炎（こうえん）　―

眩しい光を放つと、近くにあった木々は燃え、神代はその場に倒れる

「もうさすがに限界ね・・・君も気付いているでしょう？その「闇の衣」、君の種族は人間、闇に属する者でも、魔界にいる魔人でもないただの人間・・・その能力は「闇」そのもの・・・これ以上行使すれば、君の精神（こころ）が壊れるわ・・・それに――」

狐嶺は炎を神代に向けて放ち服だけを燃やす

「君の身体には黒いアザの様なものまで出来ている・・・もう蝕まれ始めているわ」

「～～～～～っ」

神代がかすれた声で何かを言っており、狐嶺は近付き、話を聞いた

「降参？」

「――――くた・・ばれ女狐」

声が聞こえた瞬間、神代は地面を強く叩き、その衝撃で上に跳び上がる――

―　異形一刀流　地辟突（いぎょういっとうりゅう　ちめつ）　―

「ぐっ！？」

まだ動けるの？、かなり限界が近いと思ったけど、どこからそんな余力が・・・

狐嶺は目を凝らし、神代の身体を見る

「あなた、まさかっ！？」

先程見たよりも神代の身体のアザは数か所増え、色も濃くなっていた

「はっ！誰が・・限界だって？まだ終わってねぇ！！」

本来、「闇の衣」は出力を下げている状態で長い時間身体に負担を掛けずに「闇の衣」を行使出来たが、今の出力はおよそ８０％、戦闘時間は、数時間経っていた

限界を超えて「闇の衣」を使ったため、アザが増えてしまっていた・・・

「アハハハっ！！！攻撃受けまくってんのに、痛くねぇ！！今なら何でも出来そうだなッ！！！」

―　異形一刀流　焔帝（いぎょういっとうりゅう　えんてい）　―

目にも止まらぬ速さで狐嶺を斬りつけ、数百メートル斬り飛ばす

「――がはっ！？」

吹き飛んだ狐嶺を神代はすぐさま追い、違う角度からもう一度斬りつける――

―　異形一刀流　焔帝（いぎょういっとうりゅう　えんてい）　―

「―――ぐっ！！！」

狐嶺は斬りつける速さに反応出来ておらず、斬られた勢いのまま建物に衝突し、崩れる建物と共に下に落ちる

「ハァ・・・ハァ・・・もう一度・・・ぐっ！？」

神代はそう言うもふらつき、壁に寄りかかる

「ゴホッ・・・ゴホッ」

さすがに動きすぎたか・・・

視界がかすれ始めたうえ、息切れも痛みも感じてきた・・・

これで倒れてくれたら良いんだが――

そう思った瞬間、崩れる建物から噴煙が上がり、狐嶺が飛んで出てきた

「ふ～・・・流石にあれは痛かったわ・・・でも擦り傷～」

「・・・クソッ」

神代は軽傷で済んでいる狐嶺を見て困惑と悔やむ思いが上がってくるが、空を見て、あることに気付く・・・

「っ！？」

空が少し明るい・・・

もう夜明けの時間が近いのか？気付かなかった！！

何時間も戦ってたのか！急いで戻らねぇとあの激痛が――

「っ！・・・ぐぁァぁぁッ！！！」

神代は突然の激痛に苦しみ、叫びを上げる

「ハァ・・・ハァ・・・ぐっ！」

まずい・・・調子に乗って闇の衣を発現させ過ぎた・・・

ここまで・・・だったら、仕方ない一瞬だけ「あれ」をやるか・・・

「・・・君っ！！大丈夫！？」

狐嶺は心配して神代の方まで走るも――

突然大きな衝撃音と共に大きな噴煙が上がり、神代の姿が隠れ、狐嶺は立ち止まる

「っ！！まだ戦えるの！？こうなったら――」

―　光散炎（こうさんえん）　―

狐嶺が放った技で上がっていた砂煙が無くなるも、そこに神代の姿は無かった

「・・・っはぁ～疲れた～・・・「天ノ妖　火神　甕速（あめのあやかし　かじん　みかはや）」を姿だけしか維持できなかったから、退いてくれて助かったわ・・・・っていうか彼、逃げ足速いわね～」

狐嶺は「天ノ妖」を解き、上がる朝日を見ながらゆっくり拠点に戻った――

一方その頃、神代は念の為に準備していた、「設置転移」の術式を置いた場所まで移動していた

「・・・ハァハァ・・・くっ！！痛って・・・急いで戻らねぇと・・・！」

「設置転移」に触れ、神代は自宅の前まで転移する

神代は玄関を開け、崩れるように倒れ込み、それを白玖が受け止めた

・・・・・

・・・

狐嶺との戦闘から数日後

神代はベットの上でため息をつきながら天井を見上げる

「・・・・はぁ～」

ナスカと白玖の協力で俺の傷は完治、でも身体にあるアザは治らなかった。

天使たちがこの世界に現れてから二ヶ月近く経った。

外に出て天使と戦い、夕方頃に家に戻り飯を食って寝ての繰り返しが続いている。

大天使と戦い逃げて、ベルと戦い、負けて、狐嶺と戦い、負けた・・・

神代は起き上がり、窓の外を見る

「・・・・」

ずっと負けてばっかだな・・・

強くなっているのは間違いない、でも・・・多分自分自身でも気付いている。

天使たちと戦い、敵視した意味は本当にあったか？

この迷いが戦いに影響しているとしか思えない。

天使を敵視したのは、憎いってのもあったけど、今はそこまでの感情はない。

むしろ少し気が晴れたような感じがする・・・

「・・・はぁ・・・腹減ったな」

神代は立ち上がり、お腹を擦りながら部屋を出た

「・・・・」

いくら考えていても答えは出ない、動かなければ結果も出ない

神代は食事の準備をしているナスカと白玖を見ながら考える

「・・・」

多分・・・俺が戦う理由は・・・・

いや違うか。

まぁ考えるのは飯食ってからでもいいか

一方、天使の拠点では１人の天使兵がウリエルに書類を渡しながら報告していた

「報告します、愛媛県と香川県の県境付近で身元不明の遺体が複数発見されました・・・」

「・・・死因は？」

ウリエルは渡された資料を見ながら天使兵に聞く

「はっ！傷口や現場の状況を確認する限り・・・武器を使用しての、殺害と思われます」

ウリエルが資料に乗っている写真を確認する

「っ・・・これは酷いな・・・」

周りの木々は少し荒いが切断されている、遺体は手足ともに切断、周りに散らばっている・・・恨みがあったのか、襲われたのか、はたまた・・・

ウリエルは資料を見ながら気になる部分を見つける

「・・・これは？」

「はっ！今はまだ解析中ですが、現場に落ちていたものと思われます、他にも確認しましたが、魔力の痕跡はなく人の仕業かと・・・」

天使兵は報告を終え、ウリエルのいる部屋から退出する

「失礼しました」

ドアが閉まり、ウリエルは資料を確認しながら席を立つ

「人の仕業・・・ね」

切り口を見る感じでは「剣」に近いものね・・・人の中にもそれなりに強い者がいるのは知っているが・・・「剣」だけじゃなくて「打撲」もある、遺体の何箇所は千切れたような傷口があるし・・・

「・・・もしかして、彼じゃないでしょうね？」

ウリエルはこの事件の容疑者に神代を視野に入れて資料を作り直し、次の報告書を捌いていた・・・

「そういえばあの写真に写っていたあの布、どこかで見たことが・・・」

第７話に続く――――