第2話

「それで、いつワタシを突き落とすつもりなのですか」


「だから――」


「早くしてほしいのですが。心構えが崩れてしまいますので」


「そんなことを言われてもなあ……準備がまだというか」


「準備? やっぱりワタシのことを殺す気なんですね」


「だから違うってば。……めんどいな、この助手。どうして私はこんな子を助手にしてしまったのだろうか」


「何かブツブツ言ってますけれど、ワタシを雇ったのは貴女の方でしたよ」


「だってかわいかったし」


「外見で人を選んだということでしょうか。なんと、ひどい探偵さんなんでしょう」


「よよよって泣いてるところ悪いんだけど、それ、伝わってないよ」


「そうですか」


「復帰はやっ。ウソ泣きだったんかい」


「何のことでしょうか」


「すました顔して、そういう子だとは思わなかったんだもんなあ。まさかこんなに執着心が強いとは……」


「愛ですよラーブ」


「真顔で言う単語じゃないでしょ、愛は」


「むしろ真顔で言うべきなのではないでしょうか。愛とはシリアスなものであり、一途なものですから」


「そりゃあそうかもしれないよ? でも助手のはイリジウムじゃないか」


「最も比重が高い金属ですね。それでもって、ワタシの愛情と体重とを比喩してくださっているわけですか」


「……何から何まで説明してくれてどうもありがとう」


「いえ、助手として当然の行いですから。それに、その憎まれ口も、ビッグラブゆえということなのですよね」


「重い。助手の愛情は重いなあ!」


「愛は重ければ重いほどいいとされていますから」


「それは抱えることになった人に依ると思うけど……でも、手錠をするのはどうかと思うな」


「ワタシは探偵助手であり、○○企業のセキュリティを担当していましたから。手錠くらい当然持っています」


「いや、そういう問題ではないというか。むしろ、職権乱用というか」


「え、逃げる悪い人を逃がさないためなのですが」


「不思議そうに小首を傾げてるところ悪いけど、私は悪人扱いされてるってことでよろしいか」


「あってます。他の人に現を抜かしていますから。ワタシだけを見てほしいというのに」


「現を抜かしてるつもりはないというか……何を見てそう思っているのか、言ってごらん」


「先日も女性と話していたではないですか」


「あれは依頼人!」


「そうですか。でも、この前男性がピンポーンて」


「それは宅配便のお兄さんだ!! そんなとこまで言われたら、もう私、何にもできないじゃん!?」


「何もしなくてもいいの。ご飯もトイレもお風呂も何でもしてあげますからね」


「重い重い」


「もしかして、重いと想いをかけているのでしょうか」


「かけてないのよ」

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