夏の前のあの日

ホタル

第1話夏の前のあの日 短編

カンカンカン、踏切の音がしている。

もうすぐ踏切がしまろうとしている中、

彼は、こちらに向かって手を伸ばした。

「一緒にいってくれるよね。」

優しく微笑む彼に、私は間をあけて頷いた。

彼は悲しそうに、それでも嬉しそうな顔を

した。

   これでよかったのだろうか。


 六月後半、夏が近づいてきたからか、暑さ

が続いていた。

じめじめした空気も、今では少しましになった気もする。

 重い通学鞄を背負い、まだ涼しい時間帯で家を出る。

 少し暗い時間帯だが、人がいないわけではなかった。

 重たい足を動かし、学校へと足を進めた。

 

暖かい春が過ぎ、夏が来ようとしている。

クラス替えをし、クラスにもだいぶ慣れてきた。

テストも平均点を取り、これといったことはない。

何の変わり映えのない日常だ。

「普通」の日々が、今日も続いていく。


   と思っていた。


 教室へ着くと、かわりない日常が広がっていた。

 女子は女子で集まり、男子は男子でふざけあっている。

 いつも通りのはずだ。

いつもと変わらない、そのはずなのに、

何故か違和感を感じる。

 いつも通り机がない、いつも通り水をかけられた。

かわらないはずなのに、こんなに違和感を感じる。

 ふと窓の方の机を見ると、百合が一本いけられていた。

 そうだ彼がいない、いつもおはようと優しく微笑んでくれる彼がいない。

 机もいつもと違い綺麗になっている。

 考えを巡らせていると、後ろからヒソヒソと声が聞こえた。

「そうそう知ってる?清水さん亡くなったんでしょ。」

「知ってる知ってる、なんでも踏切がしまろうとしているところに、自分から飛び出して

いったらしいよ。」

「加瀬さんかわいそー、結構仲良かったでしょ、あの2人。」 

ヒソヒソと笑う声が聞こえる。

 体がいっきに冷たくなった気がした。

  彼が、、、しんだ?

頭が真っ白になり、思わず持っている鞄を床に落とした。

 手のひらは冷や汗をかきじんわりしていて、気持ち悪い

 でも、そんなことを考えている余裕はなかった。

しばらくその場で立ちつくしていると、担任の先生が入って来て、重々しく口を開いた。


内容は彼の事だったことぐらいしか覚えていない、周りの声も、表情も覚えていない 。

わかったのは、彼が死んだことくらい。

私は思わず教室を飛び出し、彼が亡くなった場所という、踏切へと向かった。

踏切には立ち入り禁止など、たくさんの人がいたが、私は気にせず前へ進んだ。

止める声も聞こえたが、進んだ。

目の前に彼がいつものように、微笑んでいたから。

すると彼は口を開いて、

ーーーーといった。私はーーーーーー

といった、彼は嬉しそうにいつものように微笑んだ。












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