7-6:新・博物館、下見編



■セイヤ・シンマ 基人族ヒューム 男

■24歳 転生者 SSSランク【黒屋敷】クラマス



 大ホールの改築がほぼ完成した。

 三階と四階の内部はまだ残っているらしいが、とりあえず一・二階を優先して仕上げてくれたらしい。

 出来上がった四階建ての建屋は、間違いなくカオテッドで一番目立つものだろう。

 世界一の規模を誇る迷宮組合本部より一回り大きいのだから当然とも言えるが。



「これはまた……圧巻だな」



 俺はエメリー、ウェルシア、ジイナと共に建屋の前に立ち、見上げると共に思わず呟く。

 途中に何度も様子見に来てはいるが、いざ完成したとなると感動もひとしおだ。


 博物館の入口は大ホールとして使っていたそのままの形を残している。

 大通りから十メートルほど石畳の道が続き、そうして扉に辿り着くといった位置だ。


 入口の外から左に目を向けると、三階へと続く大階段も見えた。

 博物館に入らず大ホールへと行く人はこちらを使うらしい。

 もちろん博物館の内部にも三階へと続く階段はあるが、そちらは関係者用だ。一般客が内部の階段を使うことなど緊急時くらいしかないだろう。



 入口の上部には新しい看板が付けられている。

 【黒屋敷 迷宮博物館】という文言は変わらない。ただロゴマークを両端に追加した。


 ロゴマークは俺が最初にデザインした稲妻っぽい『K』のようなものになった。侍女たちが話し合った結果らしいから俺に異論はない。

 そのロゴは売店に並べる商品にも使われるし、入口の扉にもデカデカと飾る予定だ。

 とにかくロゴが博物館を示すものであると周知させるのが目的である。



 入口から足を踏み入れると広いエントランス。正面には受付を置く予定。

 博物館内の基本的な配置はあまりいじらないつもりだ。その方が客も慣れているし、管理側も楽だろうと。

 つまり受付から右に流れて、一階→二階→また一階に戻って来てゴールという流れにするつもりでいる。


 もちろん規模も違うし、展示の仕方も変えるつもりだし、三階にあった管理者用の階層がなくなったのでその部屋を確保しなければならない。

 そういったことを踏まえた上で、大まかな客の流れを変えるつもりはないということだ。



 受付へと続くエントランスの両サイドには店舗用のスペースがある。

 壁で仕切られているのではなく、腰の高さ程度の木製の塀で区切られただけの空間だ。


 これは受付へと向かう人にも店舗の様子を見られるようにしたものだ。

 扉を開けて店に入らないと中の様子が見られない、といったことを避けるための措置だな。あくまでここは博物館の売店なのだから。

 俺としては大きめのホテルの中にある土産物屋のイメージだな。通路や遠目からでも中の様子が見られるようなもの。



「ここがお店になるんですか……結構広いですね。こんなに並べる商品がないと思いますけど」


「商品の量よりも人の多さを考慮しなければならない。普通の店の何倍も入るだろうしな。そのためにも広い通路の確保が重要だ」


「ああ、それはそうですね。大店の道具屋よりよほど多くのお客さんが入るんですものね……」


「普通の店と思ってはいけませんね。仮に博物館の入客の二割が入るとしても相当な数になります」


「二割で済みますかね……わたくしは今から不安ですわ」



 ここにこそ警備の傭兵が必要だろうな。万引きとかあるだろうし。

 何なら店に置くのはサンプルとポップだけで、商品の受け取りはカウンターでやることにするか? それもまた相談しよう。


 俺たちはどこにどんな配置をするか、話し合いながら歩みを進める。

 イメージして、それを形にするのはまた後の話だ。

 まずは受付から右、第一展示室へ。


 当然ながら現在の博物館よりも高く、広くなっている。

 元々、第一展示室はカオテッド大迷宮や迷宮自体の説明ボードを並べていた。一般客やこれからカオテッド大迷宮に挑戦する組合員のための部屋だ。

 それがこの広さとなると、説明ボードの間隔を広げたり通路を広げたりしてもまだ余裕があるように感じる。

 一階層の展示を同じ部屋で行ってもいいかもしれないな。



「これ、天井が高すぎて照明が難しくありませんか? 今の博物館のように展示物だけに光を当てるというのは厳しそうに見えるのですが」


「どうせなら全体的に明るくしてもいいかもな。前の雰囲気は壊すことになるが、闇朧族ダルクネス対策のためにも影は少なくしておいたほうがいい」



 ダブラッツ事件での反省点はいくらでもあるんだが、その中の一つは『<影潜り>を使われたことで警備傭兵が侵入に気付けなかった』ということだ。

 <気配消却>で気付けないというのは仕方ない。ネネでさえ見つけるのは厳しいだろう。

 しかし<影潜り>のほうなら対策できる。潜る影がなければその中を移動できないからな。


 博物館の中から完全に影をなくすことなど不可能だが、明るくすることで影を少なくすることはできる。

 盗人が目的の展示物のもとまで行くのに、影が途切れていればどこかで必ず姿を現さなくてはいけない。

 そこを発見できれば最高だが、できずとも盗人のほうが嫌がるだろう。館内が明るいという状況は。


 部屋全体を明るくすることで展示物にスポットライトを当てることはできなくなる。

 注目度は減るが、減らしたところで問題はないだろうし、だったら安全性を求めてもいいだろう。


 明るく開放的な博物館――そんな漠然としたコンセプトが見えてきた。



 となると、展示の方法、客の動線も少し変えるべきか。

 今までは小さめの博物館をイメージしていた。スペースと展示物の数が限られ、その中で順路をほぼ固定し、客を立ち止まって見させるのと同時に一方向へと動かすような形式だ。

 それが博物館として正しいかはともかく、初見の客が見やすい・動きやすい構造を意識していた。


 しかしこれだけスペースがあって大勢の客が押し寄せるとなると、『立ち止まる』時点で渋滞するし、順路の固定化も止めておいた方がいいだろう。

 イメージするのは大きな博物館や、水族館のような構造。

 右端からでも左端からでも見ることができ、通路の途中にも展示物がぽつんぽつんとある感じ。客の止まる位置を分散させるようにしたい。


 さすがに大まかな動線をいじることはできないが、展示室の中だけでもそんな感じにできないだろうか。



「例えば第二展示室を二階層の展示とするだろ? 入ったらまずは二階層の説明ボード。これは変わらん。そこから左右に流れて部屋中を自由に見て回れる……そんな構造だな」


「なるほど……街の広場にぐるりと屋台が並んでいるような感じですかね」


「おお、いいな、それに近い。ついでに通路や休憩所にはベンチや腰高のパーテーション、木の鉢植えなんかも欲しいな。二階層は森だし『緑』は意識したい」


「随分と雰囲気が様変わりしますわね。ですがアイデアとしては面白いと思いますわ」



 例えば広い通路の左右の壁沿いに展示物。

 通路の真ん中にはベンチとその脇には観葉植物、そんな展示場のイメージ。まぁこの世界に観葉植物なんてないが。

 ともかくそんなものをイメージした。


 広い第二展示室の先には二階へと上がる階段。構造自体は同じだが、やはり階段も立派なものだ。

 そして二階の第三展示室へ。



「二階の第七展示室までに『五階層までの展示』『他の迷宮の紹介』『聖戦展示室』を詰め込みたい」


「となると第三が三階層、第四が四階層、第五が五階層……ではないですね。五階層の展示なんて説明ボードだけですし」


「第四展示室が四階層、第五展示室が四階層の残りと五階層の説明という感じですかね」


「最悪、<カスタム>で部屋のサイズを変えてもいいんだけどな。ざっくりとしたイメージはそんな感じだ」



 四階層の展示物は大物が多いから場所をとるんだよな。今も二部屋分を使っているがそれは継続になるかもしれん。

 それに四階層の未探索エリアに新たな領域主がいないとも限らない。ちなみに俺はいると思っている。

 だからその分のスペースを確保する意味でも広めに想定しておいて損はないだろう。



「『聖戦展示室』に関してだが、場所もかなり広くなるし、説明ボードを増やそうと思っているんだがどうだ?」


「より詳しく書くということでしょうか。良いと思います。カオテッドにまつわる事件ですし、我々の為した成果でもありますから」


「魔族の特徴とかも書いたほうが良いのでは? 周知させるべき情報かと思いますわ」


「どうせなら【天庸】事件のこともちゃんと書いたらどうです? あれもカオテッドの大事件でしたし」



 という意見もちらほら。

 作るのはエメリーだから乗り気なのは助かるが、エメリーの場合『俺の偉業を周知させたい』という侍女的な意思を感じる。

 俺は別に「俺ってばこんなスゴイことしたんだぜ?」と自慢をしたいわけではない。

 ただカオテッドの歴史に残る事件は記録として残しておいたほうがいいだろうと思っただけだ。どうせこの世界に資料館みたいなものはないわけだしな。



「ご主人様、第七展示室の時点でそこまで詰め込むということは、一階の第八展示室はどうなさるおつもりですか?」


「一番大きなスペースを作って、そこを全部剥製置き場にするつもりだ」


「「あぁ……」」


「今ある風竜・水竜だけじゃなく土竜・牙竜の剥製も置きたいし、出来ればシーサーペントの骨格標本も置きたい。今後のことも考えればここが一番スペースを使うだろうからな」


「侍女たちの仕事次第ですね。なるべく人員を配置しましょう」



 今の博物館も最後の部屋は風竜と水竜の頭がドーンと並べてある。博物館を通して一番の驚きポイントであるのは間違いない。

 客は最後にそれを見て、博物館を出ていくわけだ。インパクトがある分、印象にも残るだろうし話のタネにもなる。

 それをバージョンアップさせる意味で第八展示室は広くとりたいし、迫力のある空間にしたい。


 ただ今の博物館の場合、『アホな組合員が一番、度胸試しをやりがちな展示エリア』であるのも間違いない。

 竜に触ろうと通路からはみ出し、警報を鳴らしたり、場合によっては麻痺になるケースもある。

 一般客はもちろん高ランク組合員だって竜を間近に見る機会などないのだ。

 だからこそ恐れられるし、話題にもなるし、イキる組合員がふざけやすい。


 その対策として、絶対に通路から入れないよう、鉄格子で隔離してやろうかと考えている。

 動物園みたいなものだ。檻の隙間から手を伸ばしても、警報がなる程度までも近づけない。



「――と、考えているんだがジイナ、そんな特大の鉄格子、頼めるか?」


「出来ると思いますけど……展示物を囲うわけじゃないですよね? 通路との間を壁のような鉄格子にするだけですよね?」


「そうそう。天井と地面まで仕切る鉄格子だな。もちろん鍵付きの扉は欲しいが」


「うちの工房で作れるかなぁ……長すぎてどう打ったらいいものか……ちょっと考えてみます」



 鉄格子を形成する一本の鉄棒を作るだけでもジイナの工房を突き抜けそうだしな。

 ある程度の長さでバラして、こっちで溶接……って出来るのか? グレンに頼めば鉄くらい溶かしてくれないかな。

 いずれにせよこれはジイナと要相談だな。



 そうして受付のあるエントランスへと戻ってくる。

 照明は所々付けていったがもっと必要だな。展示品の仮置きが終わったらやり直そう。


 トイレは元々大ホールで使っていた場所をそのまま流用するつもりだが、それだけでは絶対に足りない。

 これも増設だな。一階、二階にそれぞれ多めに作っておこう。


 あとは管理室関係だな。館長室、応接室、職員用スペース、傭兵用の控室、倉庫などが必要となる。

 多くは一階になるだろう。店舗の裏あたりになりそうかな。



「って言うかウェルシア、セシルさんはこっちにも住む気なのか? 別に通いでも問題ないんだが」


「一応お聞きしておきますがおそらくお住まいになられると思います」


「館長としての責任か。なんか申し訳なくなるな」


「いえ、多分ですがここのトイレから離れられないのだと思いますわ。もう余所のトイレは使えないと散々伺っておりますし」


「あぁ……そうか……まぁ好きで住んでくれるのならありがたいから別にいいんだけど」



 俺も気持ちは分かる。マツィーア連峰に行った時なんて酷かったしな。

 やはりウォッシュ付きトイレは正義なのだと、離れるたびに実感する。



「とりあえずイメージは共有できたと思うけど、改めて配置図なんかを作るから、その時はまた相談させてくれ。セシルさんともその段階でまた話してみよう」


『はい』



 下見は十分。おそらく引っ越し自体はすんなり終わるだろう。

 最終的に問題となるのは防犯魔道具、職員と傭兵の人員問題、売店に並べる商品、ここら辺になるだろうな。

 どれも任せる形になってしまうが。メルクリオ、商業組合、新人職人たちと。


 俺にできることは箱を完成させることと、<インベントリ>による引っ越しだけだ。出来ることを頑張るしかないか。




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