6-8:カラーズショック・前編
■カイナ
■20歳 セイヤの奴隷
「まさかまたこの面子で迷宮に潜るだなんてな」
「ホントだよ。ちょっと前までなら信じられないね」
「ご主人様に感謝だ。それしかない」
あたし、コーネリア、ケニ、キャメロ、クェス。
レイラを喪ったあとも五人でダンバー大迷宮に入り、何とか生き延びようと足掻いていた時期もあった。
でも結局はそれもダメで。
奴隷に落ち、皆バラバラになって、迷宮にも潜れなくなるんだと、そう諦めていた。
それがどういうわけだかティサリーンさんに拾われ、ご主人様に拾われ、今こうして五人そろって迷宮に行く機会が与えられた。
もちろん【黒屋敷】としては何度も迷宮に潜っているし、その中で五人パーティーのような戦いをしたことはある。
だけど今回は『【黒屋敷】のいつもの探索』ではなく、『あたし達だけで行く採取依頼』なんだ。
正しく組合員として、パーティーとしての活動。さすがに嬉しいし、気合いも入る。
「私は
「ああ、任せとけ。探索の基本ってのを教えてやるさ。まぁ今さらだけどな」
それに今回はレイラの代わりにサリュが入っている。これもご主人様の配慮だろう。
前衛だったレイラの穴を埋めるのではなく、足りない後衛、しかも
あたしが言うのも何だが、理想のパーティー構成ではあるだろう。これ以上ない人選だと思う。
レイラのことを完全に払拭したかと言われると、どこかもやもやする気持ちがあるのも確かだ。
忘れられるわけがないし、サリュにレイラの影を見てしまうこともある。
多分他の四人も同じじゃないかな。決して口には出さないが。
それでもこの機会は大切にしたい。
六人での迷宮探索。ご主人様からの採取依頼。
信頼して指名してくれたんだ。しっかり熟したいという気持ちが強い。
それもあって前日の準備は時間をかけて行った。
正直、あたしは今までレイラやクェス、キャメロに頼っていた部分もあって、ここまで入念に探索計画や事前準備をしたことは初めてだった。それくらい今回は真剣に準備した。
アネモネや新人職人連中ともよく話し、どの素材をどれくらいの量とればいいのか、どうやって採取すべきなのか、普通の採取袋に入れて大丈夫なのか、などなどとにかく確認しまくった。
地図を見てルート取りを行い、どの順に採取すべきか、どこで休憩すべきかを相談。
その上で今回の探索に必要なものを買い出しにも行った。
あたしだけじゃない。サリュも含めて六人全員が真面目に準備した。
それくらい今回の探索に掛ける思いは強い。
「らっしゃい……お? 【黒屋敷】のメイドさんかい。珍しいね、屋台で買い物なんて」
「今回はあたしたちだけで潜るもんでね。十八本、この保温紙に包んでくれ」
「あいよ」
組合に着く前に、手前の屋台で串焼きを買う。これは今日の昼飯と少しは夜飯に残るかな、というくらいだ。
なにせ今回はご主人様の<インベントリ>がない。ヒイノさんに固焼きパンは作ってもらったが食事の問題は付いてまわるものだ。
二日目以降は探索用の食事に切り替えるつもりだが、初日の分は弁当を持ちこむべき。これも組合員の常識ではある。
……まぁ極貧の組合員だったあたしらは弁当でこんな高い串焼きなんか買わなかったけどな。
「へぇ~そんな紙あるんですね」
「そこら辺の道具屋で安く売ってるぞ。これに包んでおくと半日くらいは暖かいままなんだ」
「なんかサリュちゃんでも知らないことがあるんだと思うとちょっと安心するね」
「私なんか全然知らないことだらけですよ。ご主人様との探索しかしたことないんですから」
「アハハ……まぁトータルで見たら良いことではあるんだけどね、それは」
そんな話をしながら串焼きを仕舞い、あたしたちは組合へと入った。
一応、受付のメリーさんに「数日、二階層で探索してきます」と声をかけていざ迷宮へ。
「よし、じゃあ気合い入れていくか! クェス、ルートの確認を頼む。キャメロとケニは索敵な」
『おお!』
「新生【
『おお!!!』
■コーネリア
■19歳 セイヤの奴隷
新生【
まさかカイナの口から【
少し驚いたが気持ちは分かる。そして気合いは伝わる。
今のメンバーは″赤″が抜け、″白″が入った。まさに心機一転。
このメンバーと共に迷宮に入れる喜びを感じながら、自分は皆を守る盾であろうと気持ちを引き締めなおした。
今回の採取依頼の内容は非常に多い。
おそらく「念の為」でアネモネ殿が多く見積もったのだと思われるが、少なくとも普通の組合員が一度の依頼で熟す量ではないことは確かだ。
とは言え、自分たちも【黒屋敷】の
マジックバッグも大量に持って来たので――元は【鴉爪団】という闇組織の物品らしいが――かなりの量を持てるとは思う。
それもまた
採取は一階層から早速行う。
カオテッド大迷宮の一階層は『洞窟』とか『鉱山洞窟』とか呼ばれているそうだが、石材系の採取物が多いのだ。
鉄鉱石、銅鉱石、石灰石、軽石、
普通の組合員であれば、二階層での探索を控えているのに一階層から採取するような真似はしない。
石材素材はどうしても重いし、それを採取するのであれば二階層で薬草系などを採取した帰りに一階層で掘るものだ。
しかし我々には大量のマジックバッグがある。重くて持ち運べないということはない。
それに二階層で採取予定の素材をなるべく鮮度を保ったまま持って帰りたいという狙いもあって、一階層での採掘を先に熟す流れになったのだ。そうしたことは昨日の作戦会議でよく話し合われた。
二階層に行っても最初に北部の山岳に行くつもりだ。そこで採掘を行う。
石材を採りおわったあとに、ようやく草木系の採取という予定でいる。
「ああ、こっちのほうは若そうなパーティーが多いんですねぇ」
「若年組合員がカオテッドで稼ごうと思ったらやっぱ近場で採掘を考えるんだろうね。ゴブリンキングとか斃せないだろうし」
「大空洞まで行くのもしんどいってパーティーも結構いそうですしねー。私たちはお邪魔にならない程度に抑えておきましょ」
いくら大量のマジックバッグを持っていても、採れるだけ採るなんて真似はできない。それは組合員としてのマナーだ。
もちろん若年組合員がマジックバッグを持っているはずもないので採れる量はそんなに多くはないのだが、それでも彼らの稼ぎを邪魔するわけにはいかない。
本来マジックバッグなど中級組合員であってもパーティーで一つがやっとだろう。
侍女全員に支給した上で予備を何十個も持っている【黒屋敷】がおかしいのだ。
つるはしも無駄にミスリル製だし……こんなのどこの店でも売っていないだろうに。
そんなことを考えつつ、コンコンと採掘を行う。すると隣のキャメロがこう言うのだ。
「いやぁ、まさか採掘しながら索敵警戒できるだなんてね。こんなの前までなら絶対しないよ」
「まぁそうだな。普通は誰か一人を見張りで置くものだし」
「ボクの<気配察知>慣れもあるんだけど、やっぱ全員が察知系スキルを持っているのはデカイね」
「頼るなよ? 自分だってキャメロやケニに頼っているつもりはないんだ。常に<嗅覚強化>は意識している」
「分かってるさ。安心感が違うってことだよ、安心感が」
当然ながら全員で採掘すればそれだけ早く採取が終わる。だが普通はそんなことはしない。
斥候一人は絶対に周囲の警戒をさせておくべきなのだ。
もしそこに魔物が現れたら、武器さえ持っていない状態で戦闘になる可能性が高いのだから。ツルハシで戦う者などいない。
しかし今の我々は全員が察知系スキルを持っているから警戒できるし、警戒しながら採掘もできる。
これは普段の訓練の賜物だ。このクランではスキルや魔法を使いながら日常生活をすることが当たり前のようになっている。
もちろんご主人様の<カスタム>の恩恵が大きいだろう。それに加えて個人の訓練があるということだ。
私も探索時には戦闘中であっても<嗅覚強化>を意識するようにしているし、屋敷でも掃除をしながらでもなるべく使うようにしている。
キャメロに至ってはネネ殿の教えもあって、寝ている時以外はほとんど全て<気配察知>を行っているらしい。
それによる索敵能力の向上は本人が一番実感しているようだ。
……まぁネネ殿に言わせれば「まだまだ」とのことらしい。
ネネ殿とパティ殿が優秀すぎるのだ。そうキャメロに言ったところで慰めにもならないのだが。
「クェス、次はどこだ」
「石灰石ですね。とりあえずこのまま進んで二つ目の角を右です」
「了解。ケニ、魔法陣看破も怠るなよ」
「はーい。りょーかいです」
さすがにこの面子で罠まで正確に見抜けはしない。キャメロとクェスの<危険察知>だけでは不安がある。
そこは地図と<魔法陣看破>用の魔道具でカバーするしかない。
ちなみにこの魔道具も極貧組合員が持てる代物ではない。【黒屋敷】的にはただの備品扱いなのだが。
恐ろしい話だ。何が恐ろしいって、それを使った探索を自然と感じてしまっている自分自身が恐ろしい。
良くも悪くも「慣れ」てしまっている、ということだな。
■キャメロ
■17歳 セイヤの奴隷
これは至って普通の探索ではない。
ボクらが【
ただ新生【
願わくばこれからも同じように六人で探索できる機会を頂きたいし、だからこそ今回の依頼を成功させたいと思っている。
今できる精一杯のやり方で結果を出す。そのための探索としては正しいのだろうと、自分を納得させている。
進みは小走り。敵は速攻で斃し、採掘は六人同時でとっとと行う。
こうでもしないと全部の採取ポイントを回って二階層で夜営を張るって出来なくなるからね。
急ぎになるのは仕方ない。でも索敵も採取も丁寧に。そう心掛けている。
「ん? あー、これはリザードキングがいるね」
「運が悪かったな」
「キングとお供にリザードマン四体。その手前に二体と三体が別にいるよ」
「よし、先に蹴散らして水晶を掘ろう。それで二階層だ」
『おお!』
前までならリザードキングなんて出会った瞬間に死を覚悟するような魔物だったわけだけど。
さすがに今なら雑魚敵と変わらない。トロールのほうがずっと強いし。
それにしてもボクの<気配察知>も随分と遠くまで見られるようになったもんだ。
ネネちゃん師匠の厳しい教えが、確かに活きていると感じる。
もちろんご主人様の<カスタム>のすごさも。そしてボク自身の成長も。
でも多分ネネちゃん師匠はボクの倍くらい索敵範囲は広いんだろうなぁ……どうすればあんな察知能力になれるんだか。
<カスタム>だけが原因ではないと思う。
じゃあ種族特性か。ボクにはそれくらいしか考えられない。
ただそうなると成長限界を感じてしまうから諦めたくない部分ではあるんだけど……。
「よし、コーネリア、キングを抑えろ! 他はリザードマンから斃す! 一気にいくぞ!」
『おお!』
カイナもここまでリーダーっぽくはなかったはずだけどね。すごく成長しているよ。
まぁパーティーリーダーの見本はそれこそいっぱいいるからなぁ。
イブキさんとかフロロさんとかシャムさんとか。もちろんご主人様の影響が一番大きいとは思うんだけど。
出来ればレイラに教えてあげたいくらいだよ。
ボクらはこんなに強くなったんだよ。レイラの代わりにカイナがちゃんとリーダーしてるよって。
あの頃とは違う迷宮で、ボクはそう思っていたんだ。
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