4-19:竜狩り大会、閉幕!解散!
■グレン
■486歳 戦闘指南役
「ドルチェ! 右足を抑えろ!」
「横が行ける! ティナ! カイナ!」
「
「前衛にバフ! サリュ! シャム!」
「欲張らずに一撃ずつ確実に入れなさい! 長引いても構いません!」
何とも得難い経験だ。セイヤたちと出会ってからそう思わされる事が本当に多い。
セイヤ本人も彼の侍女たちも、皆個性的な戦い方であるのに、そのどれもが格別の強者。
これだけの面子が集まるなど、世界中を見ても【黒屋敷】以外ないと言い切れるほどだ。
セイヤの言葉に甘える形で屋敷に住み込みさせてもらい、そして今度はマツィーア連峰での竜狩りだ。
竜との再戦は私の目標の一つでもあった。
それを叶えてもらったセイヤには本当に感謝しかない。
その後も竜狩りは続く。そしてセイヤの侍女たちの『本当の戦い』をこの目にする事が出来た。
屋敷の訓練場で前衛組との模擬戦は毎日行った。力量も把握している。
しかし模擬戦はあくまで模擬戦である。互いに本気ではなく、これでは『戦い』とは言えない。
彼女たちの『戦い』とは本来どういったものなのか。指導している立場として興味があった。
そうして道中の迷宮を共に潜り、間近で見たわけだ。
確かに訓練場の模擬戦とは全く違う一面が随所に見られた。それは収穫でもあった。
が、今にして思えばそれも全く本気ではなかったのだろう。
中規模迷宮を制覇する程度、彼女たちには造作もない。片手間で終わらせられるほどのものだったと。
実際に竜と相対している今、それがよく分かる。
いくら竜を討伐した経験があると言っても、圧倒的強者には違いない。
例え目の前に居るのが下位竜だとしてもだ。
私は無理を言って単騎で戦わせてもらったが、予想通りに苦戦した。
傍目では怪我を負うような攻撃は受けていないし、私が一方的に倒したと見えるかもしれない。
だが実際は土竜の攻撃を受け流しても身体の芯にダメージが入るし、仕方なく動き回ったに過ぎない。
攻撃にしても魔竜剣でようやく斬れるほどのもので、【白炎】を使わざるを得なかった。
そこまでやって、時間を掛けて、やっと倒せる魔物――それが竜だ。
その強敵を前に、彼女たちは見事な戦いを繰り広げている。
人数を掛け、包囲しながらではあるが、互いに声を掛け合いながらの連携は素晴らしい。
これだけの人数で一糸乱れぬ連携をとれるのは普段からそうして戦っているからか。それともセイヤやエメリーの教育の賜物か。
皆がセイヤの奴隷であり侍女であるというのもあるかもしれない。
イブキやツェン、エメリー、ミーティアあたりが強力な攻撃をしないで、全員が少しずつ削っていくように攻撃を加えているのは、おそらく竜の素材を良い状態のまま確保したいが故だろう。
もしくはわざと長引かせることで竜との戦闘経験を積みたいと考えているかもしれない。
いずれにせよそれは普通に倒すよりも難しい事で、だからこそ余計に緊張感のある戦いとなっている。
余裕のない戦いに自らを置いている……いや、余裕はあるのか。セイヤが離れた所で見守っているのだ。
圧倒的戦力であるセイヤは侍女たちの心の拠り所でもあるのだろう。
そのセイヤが戦闘に加わらず見守る事に徹している。
だから侍女たちにも余裕が生まれ、こうした戦い方が出来るのだ。
「グレンさん、後ろ足を!」
「応っ!」
私も邪魔にならない程度に参加させてもらっている。もちろんセキメイもだ。
本来であれば指南役の私が指揮を執るべきなのだろうが、いかんせんパーティー戦闘は不得手だ。
集団戦での私は一つの駒にすぎない。私なりに連携をとり、指示される通りに剣を振るうのみ。
彼女たちは個人でも強者でありながら、集団戦でも強者である。
そこに私が混じる事で得られる事は本当に大きい。
動き、視野、タイミング、剣の振り方、スキルの使い方――個人戦闘では気にも留めなかった事にいくつも気付かされる。
なんと愉しい日常か。なんと愉しい戦闘か。
出来る事ならば皆の成長をもうしばらく見たい。私自身もまだまだ成長出来るだろう。
腹は決まった。あとは――
■セイヤ・シンマ
■23歳 転生者
第一回 マツィーア連峰 竜狩り大会戦果発表
亜竜
ワイバーン五体、マーダーファング五体、ランドドラゴン二体、
キングサーペント一体、シャープドレイク三体、ベノムホーン一体
下位竜
土竜一体、風竜一体、牙竜一体
計四日。
向かってきた亜竜を全部倒せば一日で二〇体を超える勢いだったので気絶に留めたのが結構いた。
プラムとか言うチンピラ竜ホイホイ、かなり便利。
あとは下位竜と遭遇するまで粘らせてもらった。結果風竜と牙竜を倒せたので満足だ。
牙竜というのは丸々と太って口がバカデカイ飛竜だな。動きも遅く高くは飛べないらしい。食べ応えがありそう。
侍女たちが苦戦したのはやっぱり風竜。
俺がやったアスモデウス入りの風竜はやはり紛い物だったと思わされるほど
それでも四階層の火竜よりは若干マシだと思う。火より風の方が危険性は少ないし、周りにフェニックスとかドレイクとか居ないからな。
時間は掛かったが侍女たちにとっても良い経験が出来たんじゃないかと思う。
初対面となる亜竜も居たので軽く触れておくと、ランドドラゴンはスタンピードでも戦ったしカオテッドの二階層にも居るから省くが、まずキングサーペントは陸上版の【大炎蛇】といった感じだな。まさしく蛇の王様。デカさも強さも亜竜の中では一番だったと思う。
世間的にはファイアドレイクが一番強い亜竜と言われているが、個人的にはこいつや【大炎蛇】の方が上じゃないかと。
知名度の問題かもしれないな。もしくは蛇であって亜竜と見なされていないのかもしれないが。
シャープドレイクはファイアドレイクの風版といった感じでフォルムも細い。牙や鱗を含めて全体的にシャープだからシャープドレイクなのだろう。
身体はファイアドレイクより一回り小さいがその分素早い。まぁ素早いと言っても所詮はトカゲなので対応は問題なさそうだった。
ベノムホーンは毒の角を持ったトリケラトプスのような感じ。あれより全体的にトゲトゲしているけど。
毒液を吐いてきたりもしたので盾受けするのも厄介そうだったが、<防毒のイヤリング>を装備しているツェンと<毒耐性>のスキルを持っているジイナを前に出して対処していたな。
そこら辺はメンバー全員のスキルや装備を把握しているイブキの手腕だ。
とまぁそんな感じで竜肉と素材は十分に確保出来たので帰還する事になった。
俺が出る幕もなかったからな。一応投石して経験値分けてもらってたくらいだ。
「ワイバーン一体、お土産です。どうぞ」
「うおっ! こ、こんな立派なワイバーンを……!」
ワイバーン肉はまだ在庫にあるんで五体もいらないし、一体くらいはお土産でいいかなと。
里のみんなで分けるには少ないかもしれないけどね。気持ちなんで。なるべく肉は持って帰りたいし。
♦
「ツェン、セイヤ殿の言う事を聞き、ちゃんと励むのだぞ」
「わぁってるって」
「セイヤ殿、ご迷惑でしょうがツェンの事をよろしくお願いします」
「分かりました。しばらくの間お預かりします」
「セイヤ殿、色々とありがとうございました。是非またいらして下され。里は歓迎いたしますぞ」
「ありがとうございます。族長も皆さんもお元気で」
竜狩りの翌日には里を出る。
盛大なお見送りは勘弁してもらったが、ツェンのご両親や族長、ディアクォさん、リークァンさんといった面々には挨拶できた。
これで後顧の憂いなく帰れるな。
「エメリー、本部長から何か通信入ってないよな」
「特に何もありません」
「じゃあ船じゃなくて馬車で帰るかな。一応こっちを出る旨を通信しておいてくれ」
「かしこまりました」
仮にカオテッドで事件が起きているなら通信が入るだろう。
一応これまで定期的に連絡はしているが今の所問題なし。屋敷や博物館が荒らされたとかでも連絡入るだろうしな。
それがないのであれば急ぐ必要もない。
屋敷に帰って風呂に入りたい気持ちはあるが、簡易風呂小屋と高級宿屋の風呂で我慢しよう。
プラムに街とか見せてあげたいしな。山脈の外の世界ってのを学んで、楽しんでもらいたい。
「よーし、じゃあみんな帰るぞ!」
『はいっ!』
■ズーゴ
■40歳 傭兵団【八戒】団長
屋敷の警備についている俺の耳に、少し騒がしい声が入る。
どうやら博物館で何かあったらしい。
「またあの
「ああ、あいつか……出入り禁止には出来んのか?」
「被害らしい被害じゃないですしね。警報も最初の一回だけですし。セシル館長さんも対処に困るんじゃないですか?」
セイヤ殿たちが居れば相談する所なのだが、いかんせん長期遠征中だ。
かと言ってただの迷惑客ごときで
あいつが来たらつまみ出すくらいしか出来ないか。
まったく……もうすぐ新年祭だと言うのに。迷惑なのは勘弁して欲しいものだな。
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