198:亀と蛇の迷宮



■ネネ 闇朧族ダルクネス 女

■15歳 セイヤの奴隷



 探索六日目と七日目は『溶岩池』を調査するらしい。

 ここは大小たくさんの池と、小川みたいになってる溶岩のせいで、ルート取りも難しいしマッピングもしにくい。

 そんなわけで色んなルートを歩きながら、網羅していこうと言う話しだ。


 大変だなー、ちゃんとした調査って。

 私は索敵と<魔法陣看破>しかしてないけど。



「よっ、ご主人様、釣れました」


「ナイスエメリー、ナイスフィッシング」


「恐縮です」


「……そんな武器でよく釣れるものだよね。器用なものだ」


「そもそも溶岩の中の魚を釣ろうって発想自体がないですよ。普通の釣り竿じゃ焼けますし」



 名称不明の溶岩魚をエメリーが鎖鎌で釣ってる。ああしないと魔石が回収できないからね。

 メルクリオとサロルートは呆れてるけど。



 そうして歩いて少し、問題の場所へとやって来た。

 小さい溶岩池の中に隠し魔法陣があるところ。

 前回はみんなで悩んだけど、結局とるのを諦めたところだ。



「さあ、歴戦の勇士たるAランククランの諸君! この魔法陣から宝をとるアイデアをくれ! さあ!」


「はぁ、ようはSランク様の力押しと奇抜な発想では無理だったという事ですね」


「しかしどうやって取れって言うんじゃ、これは……」


「嫌がらせだな、間違いねえ」


「ウェルシア嬢の<魔力凝縮>と高位の水魔法を併用させてもダメなのかい?」



 だめなんだよねー。どうも魔法の氷は溶岩の熱に負けるらしい。一時的に表面を凍らせる事は出来るんだけど。


 それから色々とアイデアが出た。さすがは長年組合員をしている高ランクの人たちだ。

 私たちじゃ考えもしなかった意見が次から次へと出て来る。


 結局は何とかして溶岩を池から抜くしかないんじゃないか、という意見にはなった。

 溶岩の熱さえ耐えられる耐熱装備を使ったところで、魔法陣から出て来るアイテムが焼けるだろうと。


 しかし抜くにしてもバケツで掬うわけにもいかないし、水路を作って溶岩を逃がそうにも厳しい。逆に隣の池の溶岩が流れ込んで来そうだと。



「無理じゃ! もう無理じゃ!」


「なんかすごい悔しいな。目の前に宝があるってのに」


「何かしらの方法があるはずなんですけどね。無意味な嫌がらせとは思えません」


「根本的に考えを変えないとダメだよ多分。溶岩そのものを消すとか……あっ、マジックバッグに溶岩を収納するとか?」


「いや、そんなんマジックバッグが焼けるじゃろう。近づける事も出来んわ」



 あっ……出来る! 出来るけど……これ言っちゃダメなやつだよね。

 エメリーとかみんなも気付いたっぽい。ご主人様も言うに言えない、微妙な表情になってる。


 多分ご主人様の<インベントリ>なら直接溶岩に触れずに溶岩だけを収納出来るんじゃないかと。

 直接触れなくても、手を近づければ収納出来るはずだし。


 でもそれをこの場で見せるわけにもいかない。試せない。でも試したい。そんな葛藤の表情のご主人様。


 エメリーが耳元で忠言している。今はやめておきましょうと。

 これ、夜にでもまた来る感じだね。キャンプから抜け出して。

 それまで我慢しよう、うん。


 でも<インベントリ>じゃなきゃとれない宝魔法陣なんてあるわけないんだよなぁ。

 絶対に他の方法もあるはずなんだけど……私には分からない。無理です。



 結局、そこは諦めて、改めて『溶岩池』エリアを探索する。



 そしてやって来ました。仮称『溶岩湖』。

 遠目に見ても、どうやらリポップされたらしき、大きな島が湖の中央に見える。



「でけええええっ!!! なんだ、あれ!? なんだ、あれ!?」


「五月蠅いですよバルボッサ。いやはやしかし聞いていた以上の衝撃ですね、あれは……」


「儂絶対近づかんぞ! あんなん釣ろうとするヤツがバカじゃ! 戦おうとするヤツがバカじゃ!」


「しょうがないよね、セイヤはバカだから」


「おいお前らうるせーよ」



 クラマスの四人は大丈夫そうだけど、クランメンバーの人たちは腰を抜かしてる人も居るみたい。

 気持ちは分かる。私も『亀』と思ってたから戦えたんであって、最初から『竜』だと分かっていれば尻込みしていただろう。

 誰もあんなデカイ『竜』と正面から戦おうなんて思えない。


 いやぁ、よく戦ったなぁ。よく死なずに勝てたなぁ……。

 サリュたちも私と同じ、遠い目をしている。



 やはりと言うべきか当然と言うべきか、いくら調査でもここは避けていくらしい。

 賛成です。勝てるビジョンがご主人様単騎しか思い浮かばない。私たちは邪魔だ。


 あ、エメリーの″腐蝕″なら効くんじゃ……言わないでおこう。うん。



 逃げるようにそこから離れ、滝方面を目指す。とりあえず前回と同じルートで。

 溶岩湖から滝まではそんなに距離はない。


 そして滝の上から滝つぼを覗き込む。

 おおー、相変わらずいるねー、にょろにょろとしたのが。



「うわぁ……亀の後にこれかよ……厳しすぎるだろ……」


「こりゃいくら【黒屋敷】でも撤退するわけじゃな……」


「階段を下りて滝つぼまで行くのも大変ですよ。途中であいつから攻撃されたら死にますね」


「ふむ、やっぱりシーサーペントに似ているね。真っ赤だけど。亜竜なのか……だとすれば【炎岩竜】よりも弱いと見るが……僕も戦いたくないな」


「調査の為に戦うってんなら、とりあえず上から魔法バンバン撃ってみるって手もあるが?」


「「「「いやいやいやいや」」」」



 どうやら戦わなくていいらしい。良かった。

 さすがに場所が悪すぎる。私なんてダガーの一発も当てられない。

 勝てるビジョンがご主人様単騎しか思い浮かばない。



 そんなわけで滝つぼに下りるのもやめた。やっぱり『溶岩池』のルートを網羅しようと、探索中心にする。


 ……湖には近寄らないんだけどね。



 池から離れた崖沿いにキャンプを張ったその夜、私とご主人様でキャンプを抜け出して、例の宝魔法陣の池へと向かった。

 私たちの最高速度で行けば気付かれるわけがない。みんな驚き疲れてるし。



 着くや否や、さっそくご主人様が溶岩に手を近づける。熱そう。


 しかし瞬時に溶岩を収納する事に成功した。


「「おおー!」」と思わずハイタッチ。ご主人様も本当に出来るとは思ってなかったようだ。



 空になった池に下りて、念の為私が<魔法陣看破>で罠がない事を確認。うん、やっぱり普通の宝魔法陣だね。

 そして魔力を流す。



 魔法陣から出てきたのは―――剣。


 鍔と柄頭に彫刻が施された、真っ白な直剣。

 過度ではない豪華さ。単純に「キレイだなー」と思って見とれてしまう。

 さっそくご主人様が<インベントリ>で確認。



「【聖剣アストライアー】……聖剣!?」



 おお! なんかよく分かんないけどすごそう! サリュの【聖杖】の剣バージョンだろうか。

 魔剣とも多分違うんだよね?

 とりあえずジイナかアネモネじゃないと分からないので、持ち帰る事にした。


 ともかくこれは良いお土産になった。ホクホク顔のままダッシュでキャンプに戻る。

 テントの中でひそひそと聖剣をゲットした事を報告。

 みんな分からないらしいけど、喜んでくれた。良かった。



 翌日は『溶岩池』の調査に一日費やす。

 私たちが通っていないルートで宝魔法陣などもあり、それを回収。



「ア、アダマンタイトヘルム! 売ってくれい、セイヤぁ!」


「お、おう。分かったから離れろドゴール」



 溶かせばジイナの鍛治の材料になるんだけどね。全部私たちが貰っちゃうのも気が引けるので売る事にしたらしい。

 昨日はアダマンタイトの斧が出たから、そっちはバルボッサに売った。借金つけだけど。


 ちなみに霊薬エリクサーも出たし、スキルオーブもこれまでに三個ほど出ている。


 <精密射撃><料理><パリィ>。誰に使うか悩んでるけど<パリィ>はヒイノ一択だろうという話し。

 ミーティアに<料理>だけはあげない方がいいと思う。一応忠言しておこう。



 そして七日目。一通り、私たちが行ったエリアの調査は終えた。

 このまま帰っても問題はないが、どうせここまで来たのだから、何か一つでも新発見をして帰った方が良いのでは? となったらしい。

 それで報酬出るからね。他のクランはそれも狙いだと。


 つまりはまだ行った事のないエリアに行くしかない。滝つぼは下りたくないし。

 候補は三つ。



・『黒岩渓谷』の北側にある『黒い枯れ木の森』

・『トロールの集落』の北側、火山方面に進んでみる

・『溶岩湖』の北側、『亀』を迂回して進んでみる



 こんなとこ。



「『溶岩湖』方面は行きたくねえなー、『亀』に見つかりそうで怖い」


「『火山』も気になるが、あれ相当先じゃろ。階層の入口から『トロールの集落』までで三分の一か、四分の一くらいじゃないか?」


「でしょうね。『火山』に行くまでに何かしらのエリアがあると思いますが未知数……やはり目先の『枯れ木』から調査すべきではないですか?」


「小規模だからエリアと呼べないかもしれないけどね。あの木材も気になるし、僕は賛成かな。セイヤは?」


「俺も賛成。近いしいざって時は逃げやすいからな。安全重視で行こう」


「「「「どの口がそれを……」」」」



 ご主人様は時々考えられない無茶やるけど、基本的には安全第一なんだよね。

 理解を得られるとは思っていません。


 そんなわけで『黒い枯れ木の森』に行く事にした。

 場所としてはヘカトンケイルの広場の先、渓谷を抜けた先にあるんだけど、見ただけで足は踏み入れていない。


 溶岩地帯に不釣り合いな真っ黒の木が、葉っぱもなしに乱雑に生えているだけって感じ。

 森って言うより林って規模かもしれない。そんな場所だ。


 それも暗闇の中、外観だけで見た感想だ。

 実際入って見たら案外広いのかもしれないし、どんな魔物が出るのかも分からない。

 領域エリアとして不十分で、ただ小さい林があるだけかもしれない。


 探索八日目はそこへ行ってみよう。



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