183:装備修繕に関するエトセトラ



■エメリー 多肢族リームズ(四腕二足) 女

■18歳 セイヤの奴隷(侍女長)



 ユアとラピスを連れて南東区大通り沿いの、お馴染みの服飾屋さんへと来ました。

 ちなみにここは『ユニロック服飾店』という名前で、いつも通りの執事服で出迎えてくれた年配の樹人族エルブスの方が、店主のユニロックさんと言うそうです。


 ここも大通り沿いという事で心配していましたが、南東区の復興作業に携わったミーティアとポルから「無事だった」という話しを聞いていましたので安心しています。


 中心部の商業組合から少し離れているのが幸いしたのでしょう。

 しかし商業組合は依然として完全復旧というわけには至らず、少なからず苦労はしているのでしょうが。



「おおっ、これはこれは【黒の主】殿。先日は街を救って頂き―――」



 このお店も対応は素晴らしいですね。何回も利用していますし当然ではありますが高級店だからとこちらを侮ってきません。


 どうやら様子を見るに一緒に居るミーティアの事を王女だとは気付いていない様子。

 衛兵や区長さんが緘口令でも布いているのでしょうか。こちらとしてはありがたい話しですが。



 今日はとりあえずユアとラピスの侍女服作成をお願いします。

 【鉄蜘蛛の糸袋】は<インベントリ>に在庫があるので問題ないでしょう。前回全て売らずにおいて正解です。

 この店は高級店なので服だけでなく靴も取り扱っているので、いつも侍女服の注文に合わせて揃いの革靴も頼んでいます。


 ユアはどうやって歩いているのか分からないのですが、とりあえず靴は必要ないでしょう。


 ……ずるずる、くねくねと、あれ痛くないんですかね。足というか尻尾というか。小石とか余裕で踏んでますけど。

 人蛇族ナーギィは最初から防御力が高いのでしょうか。少し気になります。



 そんなわけでユアは良いとして、ラピスは靴のサイズがかなり大きめ……というか長めになりますね。

 人魚族マーメルは手足の指が長いですから。

 イブキまでとは言いませんがフロロと同じくらい身長もあるので非常にスタイルが良いです。羨ましいですね。


 ユアも身長……と言って良いのか、基本姿勢の体高がラピスと同程度です。そこから後方にニョロンと長いのが出てるのですが。



 ちなみに今はフロロとミーティアの予備服を着ています。

 二人は【天庸】戦でも侍女服を壊しませんでしたからね。

 私を含め、侍女服が修繕不可能となった者も数名おり、そうした者はほぼ<カスタム>していない予備服で現在活動中です。


 まぁ【鉄蜘蛛の糸】製ですので<カスタム>しなくても魔物部屋マラソン程度ならば問題ありません。



 今回はユアとラピスの侍女服の新規作成の他、破損した侍女服の追加発注もお願いするつもりです。

 さすがに私とドルチェの手直しで済むレベルではありませんので。

 また<カスタム>し直しでCPを使う事になってご主人様には申し訳ないのですが。



「それと店主さん、俺の服って作れるか?」


「えっ、【黒の主】殿の貴族服とコートですか!? 作らせてもらえるのですか!?」



 今まで作った事ないですからね。ご主人様の喪服とコートは。ずっと元いらした世界のものを使っていらっしゃいます。

 しかし【天庸】戦……【剣聖】ガーブ戦でのご主人様の自爆特攻により、さすがに破れたらしいです。

 一応補修はしてありますが、この機に作ってみようというお考えのようです。



「これはまた……なんとも肌理細かで整った縫製ですね……伸縮性と肌触りが素晴らしい……」


「全く同じものは無理だと思うが、似通った素材で作れないか? 特に肌触り重視で。色や光沢とかは気にしない。なんなら黒じゃなくてもいい」



 それだと【黒の主】でも【黒屋敷】でもなくなってしまいそうですが……。

 真っ赤な喪服とかでも大丈夫なのでしょうか。私にはよく分かりません。



 とりあえず頑張って作って頂けるという事で、コートと喪服の上下、シャツも一度脱いで採寸をして頂きました。

 <カスタム>する前提で考えれば魔物素材の方が良いのでしょうが、果たして【鉄蜘蛛の糸】以上の素材があるかどうか。

 侍女服と同じとなりますと、やはり肌触りが違いますからね。ご主人様の拘りポイントです。



「出来る限りの努力はさせて頂きます。良さそうな布地がありましたら一度お屋敷にお持ちしますので、そこで再度確認して頂ければと思います」


「分かった。手間をかけるが宜しく頼む」



 さて、次は北東区でユアの杖を買いに行きますか。

 ユアが働いていた『ドーティ魔道具店』で買うとさすがに露骨ですかね。止めておいたほうがいいでしょうか。





■ジイナ 鉱人族ドゥワルフ 女

■19歳 セイヤの奴隷



 ご主人様たちが買い物に行ったので、私はまた鍛冶場へと戻った。

 相変わらず、私の仕事は多い。

 お酒はすっかりツェンさんとポルちゃんにお任せ状態なので、鍛治に集中は出来るのだが。



 ご主人様からは、先日の【天庸】襲撃を受けて『耐震設備』というものの注文を受けた。

 屋根が吹き飛ばされた衝撃で、屋敷内の棚や家財が倒れてしまったので、今度そういった事があっても倒れないように、との事だ。


 どうもご主人様の元いらした世界では地震が頻繁に起こっていて、こうした対策は普通に行われているらしい。

 屋根が吹き飛ぶほどの衝撃に普段から気を付けなくてはいけないとは……なんと恐ろしい世界だろう。

 ご主人様が強いのも分かるような気がする。



 というわけで屋敷内全ての棚を壁に固定し、本棚や食器棚なども落ちにくいようにロープを張ったりした。

 もちろんこれは私だけでやったわけではなく、侍女の皆でやったことだ。

 私がやったのは金具の作成や取り付けなど。地味にエントランスの展示品がやりづらかった。



 【天庸】戦で壊れたのは屋敷だけではなく武器などもだ。

 これの補修も私の仕事。というか本職だから進んでやる。


 どの武器も優秀なので、ちょっとしたメンテナンスで終わるものも多いのだが、例えばヒイノさんの小盾などは【炎岩竜】素材だと言うのに、かなり多くの傷が出来ていた。


 相手が魔法剣だったというからミスリル製のはずだが、それでもここまで傷つけるのは、スィーリオという鳥人族ハルピュイの脚力と連撃によるものだろう。

 これが【炎岩竜の小盾】以前のミスリルバックラーだったら、と思うとゾッとする。


 不本意ながらも亀を釣って良かったと思わざるを得ない。



 しかし一番ひどいのはエメリーさんだ。



『ジイナ、武器の補修をお願いします』


『珍しいですね、エメリーさんが。【騎士王の斧槍】ですか?』


『それもそうですが、あとこれとこれとこれとこれと……』


『なんじゃこりゃあああ!!!』



 という一幕があった。


 よくよく聞けば相手の魔剣が『腐食』効果のあるものらしく、それと打ち合ったらどんどんダメになったらしい。

 ミスリル武器を使い捨てにするとか……ますますご主人様寄りの考えになってきましたよね、エメリーさん。

 他の組合員の人が聞いたら泣き出すと思いますよ。Aランクだって滅多に買えないそうですし。



 ちなみにその【魔剣グラシャラボラス】も見せてもらった。

 おお、なんと素晴らしい。はかどる。何がとは言わないがはかどる。

 イフリート×グラシャラボラスではかどる。


 こんな魔剣に競り勝ったのならば私の武器も本望だろう。

 【炎岩竜】の装備をみんな用に作る時、エメリーさんに内緒と言われ色々と作って渡したが、それが活きたとも言える。

 あの時がんばった私を褒めてあげたい。



 ……いや、それで終わらせられないのだが。それにしたって被害がひどすぎる。



 ミスリルはともかく、防御に使った【炎岩竜の小盾】も削って磨かないとダメだし、【騎士王の斧槍】に至ってはデュラハンの【首無騎士の槍】が展示品の一本しか在庫にない。


 とりあえず斧槍は保留。【騎士王の斧槍】二本と【魔剣グラシャラボラス】で何とか凌いでもらおう。

 そのうち三階層に行く事があれば、そこで補充する感じで。



 実は作ろうと思えば別の材料はある。槍ではないが強力な素材が。


 そう、風竜だ。


 ご主人様が狩った風竜の素材をどうするか、という問題も残っている。

 迷宮の魔物ではないのでドロップアイテムというわけではなく、一体まるごと。ドーンとある。



 皮や竜鱗も取り放題だし、角や爪、牙、翼膜、骨など武器にしようと思えばいくらでも出来るのだ。


 しかし今はご主人様の意向で死蔵と化している。

 皆の武器がすでに強力なので、現状で十分という考えだ。

 それこそエメリーさんの斧槍くらいしか必要性がない。


 私としては新しい武器を造りたい欲求がある反面、ご主人様の言いたい事も分かるのでそれに従う。



 さらに言えば、ここへ来てユアさんの加入があった。

 ユアさんが<カスタム>により錬金術師の腕が上がれば、もしかしたら私たちの手で魔法剣が作れるかもしれない。

 鍛冶師として見習い以下だった私が、こうも上達できた事を考えれば、ユアさんが熟練錬金術師となるのも十分に考えうる。


 と言うか、ユアさんの場合、高名な錬金術師の弟子だったと言うから基礎的な部分は当時の私以上だろう。


 私は意外と早く、ユアさんが錬金術師として活躍するのでは、と思っている。



 ご主人様から、ユアさんの加入と、それに伴う魔法剣作成の可能性を示唆されてから私としては楽しみだったのだが、それと風竜素材の死蔵とは結びつかなかった。

 だって魔法剣はミスリル製の武器に魔石と術式を組み込んだものだから。

 しかしご主人様はこう言う。



「魔法剣にミスリル使ってるのってアダマンタイトとかより魔法伝達率が良いからなんだろ? 魔物素材でも魔装みたいに魔法の付与は出来るんだから魔法伝達率が低いってわけじゃないんじゃないか?」


「鉱石に比べると全然落ちますよ。魔装の付与技術と魔法剣の魔法発動技術は別ですから」


「並みの魔物素材だったら、だろ? 竜素材だったら使えそうじゃないか? それこそ亀の甲羅とか鉱石みたいなもんだし、火魔法の魔法剣にしたら相性良さそうだろ」


「あー、言われてみればそうですが……」


「だから風竜も風魔法の魔法剣に使えるんじゃないかと思うんだよな。そうすればティナの魔法剣がパワーアップだ」



 正直、その発想はなかった。

 魔法剣=ミスリルという固定概念があった。


 やはりご主人様の考えは転生者だからなのか、この世界の誰よりも柔軟だ。

 時々頭おかしいと思う事もあるが、時々その発想力に脱帽する。



 いずれにしてもユアさんの今後次第な部分もあるので今はまだ風竜素材を死蔵。

 時期を見て色々と作る事になるだろう。

 今から楽しみで仕方ない。



「さて、とりあえずエメリーさんの武器を補充しないと……ミスリルもだいぶ減ってきたなぁ」



 一人ごちながら、私は重い腰を上げた。



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