161:只で鼠は大蛇に飲まれない
◎北東区(魔導国領):第七席
■ドルチェ
■14歳 セイヤの奴隷
昨日、色々とあったばかりだった。
襲って来た邪教の集団の中にいたお父さんとお母さんはゾンビのように変わり果て、完全に正気を失っていた。
邪教の支部に乗り込み、その元凶だった魔族を倒す事が出来た。
元に戻ったお父さんとお母さんと喜びを分かち合った。
一生分の涙を流した日だったかもしれない。そう思えるほど色々とあった一日だった。
そして今日、なぜか私は【天庸十剣】のクナという
【天庸十剣】と言えばご主人様が「トロールキングと同じくらい強い」と言い、私たちに散々注意を促してきた相手だ。
まともに戦うな。安全に行くなら複数で挑め。そんな事も言われた。
だからこそ訓練も頑張ったし、装備も新調してもらったし、<カスタム>もしてもらった。
だけどなぜか私は【天庸十剣】のクナという
いやまぁネネさんがワイバーン倒すって言うから仕方ないんですけど。
「ほっ! はあっ!」
「チッ! 嫌らしいほどに堅実な戦い方だのぅ、盾受けからのカウンター狙いか。妾の好みではないわ」
「これぞ奥義! 盾チクですっ! ほっ!」
正直これしか出来ないとも言う。
トロールキングと同じくらいなのはラセツって人だって聞いてたけど、このクナさんもメチャクチャ強い。
蛇の下半身がすごく長くて、そのせいで打点がツェンさんより高い。
そこから振られる特大の大鉈の威力は、かるく振ってるように見えてトロールの棍棒と同じくらいだ。
それを短剣でも振ってるみたいに連続で斬りつけて来る。とんでもない。
四階層でトロールを相手にしまくっておいて良かったと本当に思う。
あの経験があるからクナさんの攻撃を受けられる。受けたあとに槍も出せる。
まぁ本当の蛇みたいにクネクネ動くから全然当たらないんだけど。
「ふむ、本当に防御性能だけは優秀だのぅ。妾の鉈で斬れんどころか、吹き飛ばすことも叶わんとは」
「ほっ! それは! どうもっ!」
「攻撃の手が二つならばどうかのぅ」
二つ? そう思いながら盾受けしていると、クナさんは空いた左手をこちらに向けた。
黄色い魔石が付いた腕輪をしている……魔道具!? 触媒!?
そう気付いた時にはもう遅かった。
「<
「なっ!?」
左手から飛び出した
侍女服のスカートは<カスタム>のおかげか威力が軽減されるようだ。
それでもダメージは身体に通る。
続けざまに振られる大鉈。それをどうにか盾で受けるも、足が痛くてしゃがみそうになる。
それでも引かない。引けない。
右手のアダマンタイトスピアを杖のようにしてどうにか防御する。
「ほうほう、魔法防御もそこそこあるのだなぁ感心感心。鉈は盾で受け、魔法は魔装の防御力で凌ぐか。これでも耐えるとは驚きだ」
「くうっ……!」
「ならば――
「っ!?」
み、三つ!? 大鉈と
そう思っているとクナさんの長い蛇の下半身、その尻尾がこちらを向く。
先端が何かの金属で覆われ、鋭く尖ったそれが、まるでご主人様から聞いた『
―――ガンッ! ガキンッ! ガガガガッ!
「クックック、それそれそれ」
「ぅあっ! くぅっ!」
しなる下半身から反動を付けて放たれる尻尾は、メイン武器の大鉈よりも強力だ。動きも縦横無尽、どこから突いてくるのか分からない。
大鉈がトロールの棍棒だとすれば、尻尾はトロールキングの大斧みたいなもの。
それに加えて魔法の槍まで私の盾めがけて連続で襲い掛かる。
こんなの『トロールの集落』で囲まれながら戦っているようなものだ。
盾だけじゃなくアダマンタイトスピアを防御に回しても凌ぎきれない。
「うああああっ!!!」
あまりにも怒涛の攻撃に<不動の心得>も意味を為さず、私は後方に吹き飛ばされた。
―――ガゴオオオン!!!
大通り沿いの商店の壁を突き破り、店内で瓦礫に埋もれた。
「ぐっ……ぐはっ……はあっ、はあっ、はあっ……」
だ、大丈夫、意識は飛んでないし、まだ動ける……!
なんとかここを脱出して―――
……しかしそれは叶わなかった。
私の下、地面の中からボコンと飛び出た
そしてそのまま縛られたように締め付けられ、持ち上げられる。
「ぃあああああっ!!!」
ミシリミシリと締め付けられる圧力に片目を閉じ、何とかもう片方の目でそれを見る。
……尻尾!? クナさんからあんなに離れているのに!? 地中を通って尻尾が伸びてきた!?
……そ、そうか!
ヴェリオって人に改造されてたのは筋力とか尻尾の先端だけじゃない!
下半身の蛇の部分、そのものが改造されてるんだ……!
私を持ち上げたままの尻尾は徐々に長さを元に戻し、私をクナさんの元へと運ぶ。
依然続く圧力は、私の動きを封じ、同時に確実にダメージを与え続けていた。
手も足も出ないとはこの事だ。振りほどく力もない。叫び声を上げる事しか出来ない。
「ドルチェとか言ったのぅ。よもや
「ぅあああああっ!!!」
「敬意を表して妾も慈悲をくれてやろう。甚振るような真似はもうせぬ。ひとおもいに―――
―――グペッ」
グペ?
絶え絶えの意識の中、私はかすかに
クナさんの近くの地面、建物の影から飛び出した「もう一つの黒い影」。
それは風のように瞬時にクナさんへと近づき、気付けばクナさんの背後から首筋に短剣を突き刺していたのだ。
黒く輝く短剣はその強度を示すかのように、クナさんの首を貫通させていた。
「が……が……きさ……は……」
「ん、ワイバーンより人相手の方が、暗殺が楽」
ドサリとクナさんの身体が倒れ、同時に私の身体が尻尾から解放される。
地面に膝と両手をつき、息を荒げながら、私は彼女を見上げた。
「はぁっ! はぁっ! ネ……ネネさん……!」
「ん、ドルチェ、よくがんばった。よしよし……いたっ、ドルチェ、髪の毛チクチクする、撫でられない……」
「もうっ!」
あのクナさんを一撃で倒したのにいつも通り平然としているネネさん。
助けてくれたのには感謝しますけど……もっと褒めて下さいよっ!
「ドルチェ、ボロボロ、<洗浄>しないと」
「え、ああ、我ながらよく戦いましたからね……激戦だったんですよ!? ネネさんちゃんと見てました!?」
「侍女服破れてる。エメリーに怒られる」
「え……あ……」
顔から血の気が引きます。
た、確かに
どどどどうしましょう、ネネさん、一緒に謝ってくれますよね? ね? ネネさん? なんでこっち見てくれないんですか? ネネさんっ!? ちょっとお!
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