140:誤解と事実の狭間で
■セイヤ・シンマ
■23歳 転生者
頭痛くなるわぁ……。
無下にも出来ず、とりあえず招き入れた客人二人。
白い鳥のような翼と、金髪の上には天使の輪が浮いている。どうなってんだよそれ。
一人は見た目が二〇台後半くらいの超美人。シャムシャエルという司教位だそうだ。
金髪ストレートロングで、天使の見た目も相まってゴミ女神以上に女神っぽく見える。
もう一人はその付き人らしい、マルティエルという子供。見た目は八歳のティナと同じか少し下くらい。
これでも創世教の助祭位らしい。金髪ショートはクルクルパーマ。
シャムシャエルが「エンジェル」で、マルティエルが「キューピッド」って感じ。
で、その二人が何用で来たのかと。
俺としてはウェヌス神聖国で
さらに言えばこいつらの主教は創世教であり、崇める対象はあの
侍女連中や一部の人たちに『女神の使徒』と言われている俺だが、アンチ女神を自称している俺としては認めたくないし、出来る限り神聖国には関わりたくないと思っているくらいだ。
なのに、まさか向こうから来るとは……。嫌な予感はしていたが……。
仕方ないので話しは聞くが、応接室で対応するのも何となく嫌だったので、食堂でみんなと聞く事にした。
そして事のあらましを聞いたのだが……。
「―――というわけでございます、勇者様」
「頭痛くなるわぁ……」
周りをちらりと見れば、うんうんと頷く侍女が多数。
えっ、なにそれ。
違うから。絶対間違ってるから。
俺、初めてゴミ女神に完全同意したよ。あんたが正しいよ。
なぜ接触するなと言われて「接触しなくちゃ」ってなるんだよ。
「フロロ、お前の占いはどうなってんだ」
「我のせいにするでないわ。おそらく吉兆の出会いは祝賀会の来客ではなく、この者たちの事なのであろうな。諦めい」
「諦めたらそこで試合終了だよ」
おい、メモとるなそこの天使! 俺の名言じゃねえんだよ!
「シャムシャエルとマルティエルと言ったか、色々と誤解があるようだから言っておくぞ」
「誤解、でございますか?」
「誤解、でござるか?」
「ああ、まず女神が俺に「接触するな」と言ったのはそのままの意味だ。それを「接触しろ」と捉えたのは間違っている」
「し、しかし勇者備忘録・第六章・第三五節では……」
「それは一万年前の勇者……ミツオだっけか? そいつが教えた誤情報だ。『お約束』というごく一部の限られた時にしか使用しない考え方だ」
「『お約束』……! それは確か勇者備忘録・第六章・第三〇節に……!」
知ってたのかよ!
て言うか、ミツオ君、確実に俺と大して変わらない時期に生きてた日本人だよなぁ!
なんで一万年前に来ちゃってんだよ! 異世界間で時空軸歪み過ぎだろ!
「だから女神の言葉そのままに「接触するな」と受け取るのが正しい。第一、俺は確かに女神の手によって【アイロス】に下ろされたが、″邪″や″魔″をどうにかしろだとか、勇者として生きろとか言われたわけじゃない。『女神の使徒』だって事も認めていないくらいだ。むしろ女神自体を嫌悪していると言ってもいいだろう」
「そ、そんな!」
「
それは
いくらなんでも女神を嫌悪しているヤツの助けなんかしちゃいけないだろ。
「そ、それではセイヤ様はウェヌサリーゼ様の手でこの地に下りた事に対して、何も感謝をしていない……むしろ恨んでいると……?」
「いや、生き返らせてくれた事にも、スキルや武器をくれた事にも感謝はしているさ。おかげで俺は今生きているわけだし、皆に会えてこうして暮らしているわけだし」
そこはブレてない。感謝すべき所はしている。
ただ存在自体が理不尽の権化だから、生理的に嫌っていると言った方が正しい。
もちろんチュートリアルで殺されそうになった事もあるが。
「で、ではもし、かつての【邪神ゾリュトゥア】のような存在が現れたとして、勇者として立ち上がる事は……」
「勇者はゴメンだが、立ち上がりはするだろうな。俺たちの生活を一方的に破壊するような輩は理不尽以外の何者でもないし」
ただ、それが俺に対処できるならの話しだ。
俺の手の届かない所で、どうにもならない強さを持っていたら、俺にだって無理。
出来る限り、としか言えないな。
「で、では世界の窮地となった時、多種族を率いて先頭に立つような事は……」
「俺に出来るのはこの場の十三種族、十四人を率いるくらいだな」
あくまで『主人』『クランマスター』として皆を率いる事しか出来ないし、するつもりもない。
世界大戦規模で軍を率いるような真似は絶対に無理だ。
というかミツオ君がそれやったとしたら尊敬するわ。日本人じゃ無理だろ。あ、そういうスキル貰ったのか?
しばらく思案したシャムシャエルが顔を上げた。
「……つまりセイヤ様は、やはり『女神の使徒』様であり、『勇者』様なのではございませんか?」
「……えっ?」
なんで? なんでそういう結論になってるの?
なんで周りのみんなが、うんうん頷いてるの?
はぁ? 違うって言ってるじゃん。
「ご主人様は女神様の手でこの地に下り、スキルと刀を下賜され、多種族の我々をすでに率い、巨悪が襲い掛かろうとも立ち向かう意思と力をお持ちです」
「つまりは『女神の使徒』であり『勇者』であるかと」
えっ、エメリー、イブキ何言ってんの?
おいもうみんな頷くのやめろ!
「是非とも私たちを皆様のようにセイヤ様の僕として頂けるよう、改めてお願いしますでございます」
「お、お願いするでござる!」
「え、いやなんでそうなるの?」
「皆様の左手を見て、感動に打ち震えたのでございます! あのような紋様はミツオ様の伝承にもございません! 是非とも私たちにもあの紋様を授けて頂きたいのでございます!」
うわぁ……ああ、奴隷紋見ちゃったのか……。
確かに創世教のヤツなら食いつくかもしれん……。
しかし奴隷になるって事だぞ、それ。
お前ら
あー、なんかもう疲れたわー。
今日は祝賀会だけで疲れたのに、こんなの無理だわー。
「……とりあえず今日は来客として泊まっていけ。明日改めて話そう。今日は俺も頭働かん」
「ありがとうございます」
「エメリー、客室の準備を頼む。食事と風呂もな」
「かしこまりました」
うん、明日もう一度よく考えよう。いや、よく考えさせよう。
今日はもう無理だ。俺も寝る。
「……ちなみに、なんでマルティエルは「ござる」なの?」
「私の「ございます」という口調を真似しているのでございます」
「お姉様に憧れてるでござる。でもどうしても「ござる」になっちゃうでござる……」
「ふふっ、マルティエルはまだ千八九六歳ですからね。しょうがないでございますよ」
千八九六歳の幼女!? どういう事それ!?
聞くんじゃなかった。なんか余計に疲れたわ。
♦
翌日。
「わあっ! わ、私にもウェヌサリーゼ様の御加護がっ! これはすぐにでも本国に報告でございますっ!」
「すごいでござる! 神々しいでござる!」
負けました。
一晩考えて、あれこれ理由をつけようと頑張りましたが負けました。
どうあがいても俺は『女神の使徒』だし、『勇者』は自称するものではないので俺がどうこう言っても無駄のようです。
結局は女神の奴隷紋が欲しいだけなんじゃねーのかと疑ってます。
入れ墨でも入れろよと思わないでもない。
これで
「あらあらあら、
黙らっしゃい、マダム・ティサリーン!
二度と来ねえぞ、こんな奴隷商館!
……うそです。多分また来ます。
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