110:とある組織の報告会
■リリーシュ
■223歳 【天庸十剣】第九席
「ほぉ、そんなことがあったのか。楽しそうじゃのう。やはり儂も樹界国へ行くべきじゃったな」
エクスマギア魔導王国にある【天庸】の本拠地。
向かいに座る
「それでドミオ、盟主様はその『神樹の枝』とやらを研究しておるのか」
「ええ、リリーシュさんが持ち込んでからずっとですねぇ。寝る間も惜しむとはまさにこの事です、ええ」
「それ体調は大丈夫なのか? 盟主様に何かあったら一大事じゃぞ」
「私もペルメリーさんも盟主様に忠言はしているのですけどねぇ、一度研究に没頭するとなかなか話しを聞いて下さいませんし、それでなくても『神樹の枝』の魔力が強くて我々は近づく事も難しいのですよ、情けない事ですが」
「かぁ~、魔族も難儀じゃのう」
私が樹界国から持ってきた『神樹の枝』は、あれからずっと盟主様の研究対象となっているらしい。
そこまで喜ばれるものを持ち帰れた事を嬉しくも思うが、ガーブと同じく盟主様の体調が心配になるのも確か。
せめて寝食はとるようにして貰いたいところだけど。
「その枝はどうするんじゃろ。やはり魔法触媒か」
「どうでしょう、私ごときが盟主様の考える事など分かるはずもありません、ええ。―――ただ」
「ただ?」
「おそらく
……それは。
「……逆効果じゃないのか? 『神樹の枝』じゃぞ?」
そうだ。
覚ますどころか、逆に眠り続けるハメになりそうに思える。
「ですから『おそらく』ですし、私には分からないと申しましたよ、ええ」
「ちっ! めんどくさいヤツじゃのう!」
ガーブはどさりと椅子の背もたれに身体を預ける。
それで、と話しを続けた。
「盟主様の研究が終わるまでは動けんのか? それともその【黒の主】とか言うのを捕らえるのか?」
「今捕らえたところで研究どころではないでしょう。それに場所が場所ですからねぇ。どうせならカオテッドを潰すのと同時に【黒の主】も捕らえたいところです」
確かに今【黒の主】を拉致したところで、盟主様の目は『神樹の枝』に釘付けだろう。
それまで捕らえ続けるのも可能だが……。
それにカオテッドは魔導王国どころか周囲三か国にも資源として重要な価値をもたらしている。
魔導王国への金と素材の流出は食い止めたいが、規模が大きすぎるのだ。
かと言って放置していても魔導王国の発達を促すだけ。いかんともし難い。
だからこそやるのならば徹底的に。
カオテッドを潰し、迷宮資源を我らで独占するくらいのつもりで事を起こす必要がある。
【黒の主】を捕らえるとするならば、その時か。
「しかしリリーシュよ、本当にやつらそこまで強いのか?」
「ええ、少なくともミーティアはただの
「ほお」
「身体能力は私と同等。おまけに火魔法も使う。互いに小手調べのようなものだったけど、あのまま戦い続ければ負けはしなくても手傷を負わされたかもしれないわ」
「ほほーぅ」
なんとも楽しそうね、ガーブ。
「【黒の主】はどうじゃった。ほんとにボルボラを
「戦いはちらりとしか見られなかったけどね。あの岩のような巨体が上下真っ二つよ。綺麗に斬られていたわ」
「ほほーぅ」
「ガーブだったらボルボラを斬れる? おそらくラセツでも難しいと思うけど」
ボルボラは
そこへ盟主様の強化が加わっているのだ。
どんな力量、どんな武器を使っても
しかし【剣聖】と呼ばれ、世界一の剣の使い手として名を馳せたガーブであれば……。
「出来んことはないな」
「やはりね」
「しかし斬ることは出来ても、一撃で真っ二つは無理じゃな」
「!?」
ガーブでも無理だと言うのか。
だとするならば【黒の主】は【剣聖】を超えると?
益々ヤツの事が分からなくなるな。
確かに盟主様が研究するに値する男なのだろう。
「楽しみじゃのう、是非とも儂と一戦願いたいわい。何者なんじゃその
「ええ、ラセツさんとスィーリオさんから調査報告が入りましてね、その事についても少し触れてありましたよ、ええ」
「ほう」
・【黒の主】はAランククラン【黒屋敷】を率いる
・髪、瞳、服、剣、そのどれもが黒い。
・粗暴な組合員が絡んだ場合、投げ飛ばし気絶させられるらしいがメイドたちの手によるもので、本人の力量は不明。
・迷宮では誰よりも金を稼ぎ、中央区北地区の高級住宅地に屋敷を構えている。
「金持ちって以外は私たちが持ってる情報と同じね」
「不明となっとる力量も高く見積もるべきじゃろうなあ」
「ミーティアとかの情報はないの? メイドが何人もいるのでしょう?」
「ええ、ありますとも。多少ですがね」
・【黒屋敷】に加入しているメイドは最低でも十四名。
・
うち一人は元『神樹の巫女』ミーティアであり、一人はラセツの幼馴染、イブキという
・装備している武器はどれも立派なもの。ミスリルや杖など様々。
・非戦闘系種族のメイドであっても絡んだ粗暴な組合員を投げ飛ばすくらいの実力はある。
・奴隷紋は『創世の女神』が象られている為、【黒の主】は『女神の使徒』か『勇者』の再来なのではないかと一部で噂されている。
「女神の使徒? 勇者? カーッカッカ! 大きく出たもんじゃのう!」
廃れ果てた創世の女神か。
一万年前には『勇者』を創り出し、魔神だか邪神だか悪神だかから世界を救ったと言われる。
今の世に魔神などいないし、理由もなく一万年越しに『勇者』が生まれるとも思えない。
だから
女神の奴隷紋というのは
まぁ
しかし【黒の主】が『
ミーティアが強かったのも、私たちのような魔法的な改造ではなく、『女神の加護』のような特殊な力が働いた可能性もあるのか?
それこそ荒唐無稽に思えるが。
「つまりミーティア以外のメイドも強化されている可能性があると?」
「それは確定ですね、ええ。なんでもラセツさんが【黒の主】のご自宅を襲撃して、実際にメイドと戦ったそうですよ」
「はあっ!?」
「なぁにをやっとるか、あの単細胞は!」
思わず頭を抱える。
ラセツはボルボラ以上にバカだ。
なぜ調査目的でカオテッドに潜入しているのに襲撃するんだ。
「まぁ軽い手合わせで終わったらしいですけどね、ええ。いやほんとスィーリオさんを一緒に行かせて正解でしたよ。うまく止めてくれたみたいで」
「襲撃した時点でアウトじゃろ。これでもう碌に探れんようになったではないか」
「バカばっかりで嫌になるわ。で、その襲撃の報告は?」
「ええ、と言ってもこれも少しだけですがね」
・
察知能力が高く、まだ距離が離れている時点でこちらの接近に気付くほど。
速度が異常に速い。反応速度で何とかなったが、普通に戦えばおそらくスィーリオ以上。
しかし攻撃・防御は低い。低いと言ってもそこいらのAランク組合員よりは上だと思われる。
以上の事から
・
おそらく力がラセツと同等。素手同士の力比べで拮抗するほど。
他は不明だが
ラセツが以前戦った
「へったくそな報告ねぇ。不確定要素しかないわ」
「ラセツの子供染みた感想をスィーリオが文章化したのじゃろう、苦労がにじみ出ておるわい」
「ええ、ええ、とりあえずミーティアさん以外のメイドも何かしらの強化がされていると考えたほうが良いでしょう」
それは確かだ。
ミーティアの身体能力も
しかし火魔法が使える事はそれに含まれない。
やはり何かしら特別な方法、もしくは力が加わっていると思えるが……。
「まぁとりあえずはこんな所です。カオテッド襲撃、もしくは【黒の主】捕獲となった時には注意が必要でしょうねぇ。ええ」
「だから儂らをカオテッドにどうのこうの言っておったのか。総力戦で″祭り″でもするつもりか?」
「そうですね。盟主様の御意向次第ですけど【黒の主】を抜きにしても【十剣】での総力戦と思って頂いたほうがよろしいかと」
「第一席は盟主様次第として、第五席はどうするのよ。アレの調整終わってないでしょ」
「すでに盟主様の手は離れてるんですよ、ええ。今はペルメリーさんのお仕事でして、それが終われば試運転といった所でしょうか」
なるほど。
まぁ第一席が無理だとしても、ボルボラを抜いた八人は可能となるのか。
それだけの人数で攻め込むのは初めてだけれど、カオテッドの規模を考えれば必然。
統治区が五つもある時点で、下手すれば王都より攻めにくいのだから。
ガーブではないが、″祭り″になる公算が高い。
これで第一席まで行けるようであれば……。
【黒の主】がいかに不可解な存在だとしても無意味か。
さて、では私はそれまで暇となるな。
いかがしたものか。休日を楽しむとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます