87:かもすぞー系チート



■ポル 菌人族ファンガス 女

■15歳 セイヤの奴隷



「おおー、いい出来じゃないか」


「えへへ~よく出来たのです!」



 樹界国からお屋敷に戻って、数日後。

 ご主人様が「キノコ作ってくれ」というので、庭の隅っこを私用の栽培地にしてくれました。

 日陰を作り、原木を用意してあとは私の出番です。


 ご主人様は色々な種類のキノコが欲しいという事で、元になるキノコを用意してもらって、そこから私のスキル<菌操作>で原木へと移し、育てます。

 <菌操作>はご主人様が<スキルカスタム>でカンスト? させてくれました。

 村でやってた時より成長がすごいです!



「いや、原木栽培って数か月かかったと思うんだけどな……恐るべし<菌操作>」


「えへへ~ご主人様の<カスタム>のおかげなのです」


「こうなると<菌操作>のポテンシャルが気になるな」


「です?」



 そう言って、ご主人様は私をキッチンへと連れて行きました。

 ヒイノさんがパン作りの下拵えをしていたので声をかけます。



「酵母作りをポルちゃんに?」


「物は試しだ」



 お屋敷でヒイノさんが作る白いパンは柔らかくてフワフワなのですが、それを作るのに『こーぼ』というのが必要らしいです。

 どうやらその『こーぼ』は″菌″らしいのです。

 それを私の<菌操作>で作ったり出来ないかと。



 ……<菌操作>はキノコを育てるだけのスキルなんですが。


 <菌操作>は菌人族ファンガスだけが持ってるスキルで、村の誰もキノコ以外に使ったりしません。

 私も「これはキノコを育てるのに使うスキルだ」と教わってきました。

 パン作りに使えるとは思えないのですが……。



「<菌操作>……おおっ?」


「まあっ!」


「はやっ! もう泡立ってるじゃねえか!」



 な、なんかよく分からないけど成功みたいです。

 これは菌人族ファンガスの歴史に残る大発見じゃないでしょうか。

 キノコしか作れないスキルで、白パンが作れるだなんて!

 村民栄誉賞まったなしです! ご主人様が、ですけど!



「なんかもう<菌操作>のスキルがよく分からなくなってきた。菌だったら大抵どうにかなるんじゃないか? というか天然酵母の存在を知らないポルがスキル使っただけで目当てのものを作りだすっていうのがよく分からん。キノコの菌とはだいぶ違うはずなんだが……」



 すごい発見をしたご主人様は頭を抱えています。

 成功したのなら悩む必要ないと思うんですけど。



 とりあえず私の作った『こーぼ』でパンを作ってみてくれ、とヒイノさんに伝えて、私はまたご主人様に連れて行かれました。

 今度はジイナさんの鍛冶場のようです。

 鍛治のお手伝いするです?



「酒造り……ですか?」


「ああ、鍛治仕事中に悪いけど試してくれるか?」


「ええ、今でしたら問題ありません」



 お酒? <菌操作>ですよね?

 お酒が造れるんです?

 分からないですけど、とにかくジイナさんも連れてお屋敷に戻りました。



「ジイナ、ワインは作れるか?」


「ええ、作ったことはあります」


「この葡萄を潰して、発酵させて、ろ過して、熟成させる……で合ってるか?」


「大体は。温度管理や時間管理などもありますし、細かい作業もありますが」


「じゃあとりあえず、この葡萄を潰してみよう」



 どうやらお屋敷にあった葡萄でワインを作るつもりらしいです。

 そんなに量はないからお試しなのでしょう。

 ジイナさんが慣れた手つきで潰していきます。



「じゃあ次に発酵。ポル、さっきと同じ要領でやってみてくれ」


「? 分かったです」


「えっ、ポルさんが?」



 さっきと同じってことは『こーぼ』を増やすって事ですよね。

 えーと<菌操作>で……。



「うわっ、熱が!」


「早いわ! 醸しすぎだろ! これ時間が全然分からんぞ!」



 なんかジイナさんとご主人様が驚いていますが、私にはよく分かりません。

 えーと、このくらいでいっかな。



「……ちょっとジイナ、ろ過してみて」


「はい……」


「……旨っ! 酒出来てるじゃん! 熟成どこいった!」


「うそっ! ……美味しいっ! なんで!?」



 二人して私の方をバッと見ますけど、私に聞かれてもよく分かりません。

 お、お酒が出来たんならいいんじゃないでしょうか。


 しかし<菌操作>でお酒を造れるんですねぇ。

 キノコもパンもお酒も造れるって……菌人族ファンガスってすごいんですねぇ。

 こんな発見したってことはもう確実に村民栄誉賞ものですよ! ご主人様が!



 ―――ガラッ



「酒と聞いて」


「帰れ」



 ツェンさんがどこからかやってきました。

 ご主人様の言う事もきかず、ずんずん近づいてきます。

 そしてジイナさんの手にあったお酒を飲んでプハーッと。



「旨い! もう一杯!」


「ねえよ、帰れ」


「なんでだ、いじわる! こんな旨い酒飲んだ事ないぞ!? まさか独り占めしようってのか!? いくらご主人様だからって横暴だぞ! おーぼー!」



 よほど美味しかったのでしょう。

 ツェンさんがご主人様に詰め寄ります。

 が……。



 ―――ガラッ



「ツェン」


「ひぃっ!?」



 エメリーさんがどこからかやってきた途端にツェンさんがビクゥンッってなりました。

 樹界国に行っている時にネネちゃんに聞きました。

 ご主人様の奴隷で最強はエメリーさんだって。

 やっぱり侍女長さんはすごいです。


 それからご主人様が説明しました。

 試しで作ってみただけだからお酒なんて余分にないよ、と。



「で、でも材料さえあれば今後はすぐに酒が造れるって事だよな! そうだよな!」


「すぐって言ってもジイナが加工と処理して、ポルがスキル使わないとダメだけどな」


「すげえ! じゃあもう今度からお小遣いで葡萄買うわ! そんで頼む!」


「お前の場合、専用の樽も買って来い。じゃないと量が作れん。それとジイナとポルにお前が頼むのナシな。俺を通せ。二人に頼めそうな時に頼むから。あとお前は加工するのとかも手伝えよ」


「ああ、分かった! やったぜ!」


「ツェン?」


「は、はいっ!」



 その後、ツェンさんに褒められました。

 ありがとう、お前らすごい、と。


 えへへ。だけど私も<菌操作>でどうしてお酒ができるのかよく分からないんです。

 言われてスキル使っただけなので、すごいのはご主人様だと思います。

 <菌操作>の力を上げたのもご主人様の<カスタム>ですし。


 あと麦とかトウモロコシとかお芋でもお酒が造れるらしいので、今度試すそうです。

 ツェンさんは「おおっ!」と喜んでいました。


 ジイナさんは複雑そう。

「酒造りの歴史が覆されて……」と遠い目をしていました。

 どういうことでしょうか。



「ジイナ、ついでにもう一つ頼みたいんだが」


「な、なんでしょう」


「蒸留酒を作ってみたいんだ」


「じょうりゅうしゅ?」



 お酒の種類でしょうか。ジイナさんも聞いたことないようです。

 ツェンさんは「新しい酒か!?」と異様に食いついています。

 ご主人様はその『じょーりゅーしゅ』について説明していましたが、私にはよく分かりません。


 とりあえず私の仕事はなさそうなので、あとは言われた時に<菌操作>すればいいかなーと。



 その日の夜、夕食で出されたパンはとても美味しかったです。

 ヒイノさんが「実家の秘伝が……」となぜか項垂れていましたが、どうしたんでしょうか。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る