80:商館に行くたび奴隷が増える
■フロロ・クゥ
■25歳 セイヤの奴隷 半面
文字通り、弱体化するという事だ。
だからこそ
それは
どちらかと言えば
だからこそイブキは集落を出た。
そしてエメリーと出会い、
イブキにとってそのラセツという男はトラウマなのだろう。
経緯は分からんが、少なくとも喧嘩などで殴っただけという事はあるまい。
滅多な事では折れんが故に
イブキはあくまで私事だと言った。それが私怨か恐怖かは知らん。
だがそれを聞いたご主人様はこう言った。
「イブキはまだまだ弱いな」
「……はい」
「迷宮行くのに加えて特訓しないとダメだな。一緒に強くなろうな」
「……は、はいっ!」
今のイブキを弱いと言えるのはご主人様しかおらん。
そしてイブキもより強くならねばと思っていたのだろう。
やれやれ、これ以上強くなるのかと呆れてしまうわ。
しかし発破をかけたのは見事。さすがは我のご主人様よ。
他の報告として、ジイナがミスリルを打てたと話した。
ご主人様は大層喜んでいた。
見習い鍛冶師だったジイナがミスリルを打てるというのは、<スキルカスタム>により<鍛治>スキルが強化されていたが故。
我も打てたと聞いた時は、改めて<カスタム>の恐ろしさを感じたものだ。
何にせよ、ジイナがミスリルを打てるならば我らの武器の修繕や整備も楽になる。
やはりジイナの加入は我らにとって大きい。
「今度ジイナにミンサー作って欲しいんだよなー」
「ミンサー? それはどんな武器ですか?」
「いや、武器じゃなくて、肉をミンチにする料理道具」
「料理道具!? ミ、ミスリルで!?」
「ミスリルじゃなくてもいいけどお手入れが楽そうだろ? 鉄より在庫あるし」
またジイナが虚空を見ておった。
まったく、どこの誰がミスリルで料理道具を作ろうなどと言うものか。
エメリーやサリュたちはそれでどんな料理が出来るのかと楽しみにしている様子。
やはりご主人様には常識が欠けておるし、皆も毒されすぎだ。常識人たる我がフォローするしかあるまい。
ちなみにジイナが試しにミスリルで作った
「うわぁ! ありがとうなのです! すごいのです!」
本人は喜んでいるのだが、作ったジイナどころかご主人様も含めた皆が怪訝な顔をしている。
あれで戦うつもりなのだろうか。
ポルは魔法特化にしたと聞いたのだが……果たして迷宮で振るう機会はあるのか。
しかし魔物を耕すのを少し見たい気もする。
そうして報告会は終わり、その日は改めてポルとドルチェの加入を祝っての夕食となった。
ご主人様はお疲れなので、柑橘系の果物を浮かべた風呂に入ってもらい、ヒイノとエメリーを中心に豪勢な食事を用意した。
もちろん我もサリュも手伝った。ドルチェもまぁまぁ料理ができるので助かる。
ミーティアは……疲れているだろうから休んでいてくれ。いや、触れるな、いいから休んでおれ。
「いやぁ~最高だったよ、やっぱ家の風呂が一番だな! おおっ、すごい料理じゃないか、豪勢だな!」
ご主人様にも喜んで貰えたようで何より。
とは言え、さすがに疲れていたらしく、久々の帰還にも関わらず夜伽もなしに寝たらしい。
我はそこまで固執してないのだが、一部の侍女連中はブーたれておった。
その翌日、ご主人様はドルチェの奴隷契約の為に奴隷商へと向かう。
ジイナとポルも女主人への顔見せに連れて行くらしい。
さらにいつものメンバー、エメリー、ミーティア、そして我……。
「フロロ……お前も来るのか?」
「行ってはまずかったら行かんが?」
「いや、奴隷を買いに行くわけじゃないからお前来なくてもいいんじゃないか、と」
「そうであればミーティアもいらんだろう?」
「いや、ミーティアはティサリーンさんに樹界国の報告あるかもしれないし」
「ふむ、我はどちらでも良いぞ。万が一奴隷を買う流れになっても我は何も口も出さん」
「本当だな!? 俺は買うつもりないからな! お前、変に扇動したりすんなよ!?」
全く失礼なご主人様だ。人を扇動者扱いとは。
我は見えた運命に基づいてアドバイスしているだけだ。
何も他人の行動を縛ったりするつもりもないわ。
……まぁ口に出さなくても運命は早々変わらんからな。
そうして七名でぞろぞろと【ティサリーン商館】へと向かう。
「あらあらあら、セイヤ様……まあ! ジイナ、綺麗になって!」
「はい、ご主人様に治して頂きました。その節はお世話になりました」
「まあまあまあ! 良かったわ~! それにポルも元気そうで良かったわ~、不安で押しつぶされているんじゃないかと心配していたのよ~。故郷の事は心配でしょうけど、きっと大丈夫よ。入ったばかりの情報だけど王都でね……」
「それはもう解決してきたのです! 心配かけてごめんなさいなのです!」
「えっ……解決?」
「はいっ! ご主人様が助けてくれたのです!」
「えっと……セイヤ様? ミーティア様?」
ポルを買ってからまだ半月程度しか経っておらん。
普通ならば、仮にポルから事情を聞いて樹界国へ向かったとして、王都にも辿り着けておらんだろう。
それを往復したばかりか原因の排除と国政の復帰までしてきたのだ。
女主人が呆けるのも頷ける。
王位復帰の情報だけはもしかしたら得ているのかもしれぬ。伝書鳥か魔道具でな。
しかし今ここに居るご主人様とミーティアたちが解決して戻ってきたとは思えんだろう。
そんな速度で移動する術がないのだから。実際は走っただけなのだが。
ともかくそうした話しを女主人に伝えると大層驚いておった。
そしてドルチェの奴隷契約を改めて行う。
「うわーっ! 私にもこれで女神様の御加護がっ!」
「祈るな祈るな、左手を見せ合うな、喜ばしいもんじゃないだろ」
祈る気持ちは分からんでもない。
ましてやドルチェは邪教から逃げる為に『女神』に頼っていた節がある。
そこへきてエメリーの
さて、奴隷契約も終わったし帰ろうかという所で女主人が声をかけた。
「セイヤ様、是非見て頂きたい奴隷がいるのですが」
「!?」
ご主人様がバッとこちらを見て来る。
我は目を合わさん。何も口に出さん。
「お前、こうなると見越してたのか?」と目で訴えて来るが何も言わん。
ツーンとそっぽを向く。
「あー、今日は奴隷を買うつもりなかったんですけど。ドルチェ入ってもう十二人もいますし」
「見て頂くだけで結構ですわ~」
「あー、じゃあ……見るだけで……」
折れたな。
女主人は一度部屋を出る。
その間も我は何も言わんし、目も合わせない。
「……エメリーはどう思う? 奴隷を増やしたほうがいいか?」
「私はご主人様のご意思に従います。強いて言えばネネやサリュの代わりが居ないとは思いますが」
「ふむ、ミーティアは?」
「私も同意見です。加えて言うなら家事は問題ないと思いますが、戦闘面で言えば前衛過多かと」
「うん」
確かに侍女十二人と人数は多いが、偏っているとは我も思う。
迷宮でネネ以上の察知能力を持つ者はおらんし、回復できるのもサリュだけだ。
そこは魔道具やポーションなどでカバーしておるが、編成を考えるならば考慮しても良いだろう。
そして新しく入ったドルチェは種族的に非戦闘系ながら、ステータスは防御面が高く、戦うならばやはり前衛だろうという話しが昨日あった。
ヒイノに続き、二人目の盾役かと。
そうなるとご主人様も入れて、十三人中、後衛は我とミーティア、サリュ、ポルだけだ。
まぁ中衛というか遊撃扱いの者もいるがな。ネネとかティナとか。
やはり前衛に偏っているのは間違いない。
奴隷を増やすのならば後衛が良いのだろう。
……というかご主人様は気付いておるのか?
その質問をしたという事は、もう買う気でいるという事だぞ?
我が何を言うまでもないではないか。
「おまたせしましたわ~」
女主人が帰ってきた。
その後ろから付いてくるのは、やはり女性の奴隷…………が、二人。
ご主人様が「二人ってどういう事だよ!」という目でこちらに顔を向ける。
我は咄嗟に顔を背けた。目を合わせないように。
しかし口は笑っていたかもしれない。
ふふふっ、いくら頑張っても覆せない運命もあるのだよ、ご主人様。
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