06:<カスタム>というスキル



■イブキ 鬼人族サイアン 女

■19歳 セイヤの奴隷



 森を踏み分け、山を下る最中、私とエメリーはご主人様から色々とお話を伺った。

 ご主人様は否定するが、やはり『創世の女神ウェヌサリーゼ』の使徒であるらしい。



「使徒って言われても使命を受けているわけでもなし、ただお前たちを連れて旅をしろってだけだ。第一、アレの手下ってすごく嫌だ」



 どうも私たちと出会う前の女神との邂逅で、酷い扱いを受けたらしく、ご主人様は『女神の使徒』というものに嫌悪感を示す。

 同時に基人族ヒュームの伝説に謳われる【勇者】でもないと言い張る。

 あくまで自分は転生させられただけの異世界人だと。



「ただまぁ、死んだ身を生かしてくれた事と、スキルや武器に関しては感謝しているがな」



 ご主人様の元いらした世界は基人族ヒュームらしく戦いとは無縁の生活らしい。

 さらには魔法もなければスキルもない世界なのだとか。


 そこで死に、転生の際に女神より下賜されたいくつかのスキル。

 その中でも<インベントリ>と<カスタム>というのは伝説級と言っていいほどの性能を誇る。


 マジックバッグなどに代表される収納道具というのはいくつかあるが、<インベントリ>は容量無限で収納物の時間が経過しないというものだ。

 どんなに高価なマジックバッグでも容量に制限はあるし、魔物の死体など入れて置けば腐るものだ。

 しかしそれがないと言う。

 これは決して口外出来ないとご主人様もこのスキルの危険性については承知している風だった。

 もちろん私とエメリーも同意見だ。


 現在は召喚場所であった建屋から拝借したマジックバッグで偽装しているが、建屋にあった道具から山中で会った魔物の死体まで、とにかく色々と入れている。

 もうこの<インベントリ>だけで異常なのだが、<カスタム>というのはそれ以上に異常だと感じた。



 魔物を倒せば【CP】というものが手に入り、それを使って強化を行う能力。

 レベルやステータスといった言葉の意味を理解するのに苦労したが、ご主人様はそれを使って、基人族ヒュームらしからぬ攻撃能力を得ているというのだ。



「とにかく多くの魔物を倒したほうが良いという事でしょうか」


「そうだな。ただおかしな所もある」


「おかしな所?」


「ああ、ゴブリンを倒すと【1CP】を得た。しかしゴブリンキングを倒したら【5CP】だったんだ」



 基人族ヒュームであるご主人様がゴブリンキングを倒すというのがそもそも異常なのだが、それは先に聞いていたので置いておく。

 いくら戦闘に慣れる為とはいえ、ゴブリンキングを嗾けるとは凄まじい。

 ご主人様が女神さまを毛嫌いした様子なのも少し分かる気がする。



「ゴブリンキングはゴブリンより強いので得られる【CP】が多いのではありませんか?」


「いやエメリー、それはおかしい。ゴブリンキングの強さはゴブリンの五倍程度では済まされない。ゴブリンが【1CP】ならば【100CP】でも不思議ではない」


「そう、イブキの言うとおりだ。俺も実際に戦ったがあれは五倍じゃ済まされない強さだ。ゴブリン百匹以上の群れのボスだったから確かに【100CP】でもおかしくないかもしれない」



 私は実際に戦ったことはない。

 あくまで聞いた話しと推測によるものだ。

 ゴブリンならば嫌というほど倒したがな。



「もう一つおかしな点があってな、召喚された時に殺した蛙人族トーディオの男、あいつは【10CP】だったんだ」


「そ、それは……」


「ああ、ゴブリンキングの二倍強いわけがない。下手すりゃ【1CP】だって納得できるレベルだ」


「つまり強さで【CP】の多寡は決まらないという事でしょうか」


「目安程度にはなるが期待はできないって事だな。女神が適当に【CP】を設定している可能性が一つ、もう一つは―――人殺しを推奨している可能性だ」


「「!?」」



 確かに言われてみれば人を殺した方が【CP】を稼げる、強くなれる、つまりは人を多く殺しなさいと女神さまが提示しているようにも見える。

 魔物を殺すよりも人を殺したほうが楽に強くなれるのだから。

 ご主人様は……



「言っておくが俺は進んで人を殺す気はない。だが……俺はここだと基人族ヒュームって種族なんだよな。やっぱり嘗められるもんなんだろうな」



 聞けばご主人様の元いた世界では基人族ヒューム以外の種族がいないらしい。

 そしてこの【アイロス】における基人族ヒュームというのは立場が弱い。それをご主人様は苦慮している。


 ましてやここは帝都から離れているとは言え、ボロウリッツ獣帝国の領土。

 人種差別が激しく、特に力を持たない種族は嘗められる傾向にある。

 もちろん帝都ほどではないが、これから向かう街でも少なからずそうした差別はあるだろう。

 ご主人様もそうだが、エメリーも下手すれば……。



 だからこそ<カスタム>による強化が必須と考えている。

 力がなければ話にならないと。

 これには私もエメリーも同意見だ。



「嘗められるのは俺だけじゃない。一緒にいるお前たちもだ。基人族ヒュームの奴隷であり侍女であるならば、侮られて当然だろう」


「それは……」


「だからお前たちも<カスタム>で強化しようと思う」


「えっ、そのスキルは他人にも使えるのですか?」


「奴隷限定だけどな。普通の仲間とかには無理だ」



 <カスタム>で出来るのは『自己のステータス強化』『自己のスキル強化』『所有しているアイテムの強化』らしい。

 そして『奴隷』というのは『主の所有物』という扱いになる。

 つまり『アイテムカスタム』というものが可能となり、私やエメリーがご主人様の奴隷である以上、私たちのステータスやスキルの強化も可能だと言うのだ。


 改めてご主人様が授かったスキルの規格外さに驚く。

 ご主人様が「エメリーも戦えるようにする」と言われた時、私は訓練を施すのか、それとも<カスタム>した装備品などを下賜するのかと思った。

 しかしそれは違った。もっと単純で効率的で効果的な方法だった。



「というわけで、基本方針は弱かろうがなるべく多くの魔物を倒していくことだ。そうして順次<カスタム>強化していく。ついでに倒した魔物を<インベントリ>で持ち帰れば金策にもなる。そうして街を目指そう」


「「はいっ」」



 ご主人様の奴隷でいる限り、私は強くなれる。

 角を折る前、それ以上に力を得る。

 そして今度こそ私は剣となり盾となろう。

 ご主人様やエメリーを守るために。



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