魔王となりし者の叫び

竜花

魔王となりし者の叫び

「嫌だ」


 駄々をこねるように彼は叫ぶ。


「オレが欲しい世界は独裁なんかじゃなくて、誰も泣かない世界だ」


 愛する世界へ叫ぶ。


「どうして魔は世界を飲み込もうとするんだ。なりたくもない魔王になって世界を支配しなければいけないんだよ。共存でいいじゃないか。」


 この世界というのは残酷なまでに平等なのだ。

 そこに善も悪もない。

 法があるから罪があるように、戦いがあるから平和を望むように、光と闇は相互し合っているのだろう。

 

 彼はひたすらに泣きながら、けれど強い目で自身に迫る闇魔を睨む。


「いいよ、呑めよ、俺を。俺諸共、闇を砕いてやる」


 望まぬ運命を強いられた人の子は、一歩を踏み出した。自らを封印してもらうために。これ以上、大切な人たちが闇魔に侵されないように。


 やがて、聖なる力を宿した我が国の王家が、ここに生まれた魔王を封印するだろう。

 

 ――ああ、なんと残酷な世界であろうか。


 魔は輪廻転生を繰り返す。恒久の光が世界を包むことはない。

 女神の託した力が魔王を封印したとて、もって五百年。人が十回生まれて死ぬよりも早く、魔王の魂は新たに人の子に取り憑き復活するのだ。


 ――この呪いは、かつて神々がこの地を巡って争った残骸だ。人の子にはどうすることもできない。


 それでも、たとえ一時の闇が地を蝕まんと、いずれ解ける日が来る。恒久の光はないが、同じくして闇もまた永遠ではない。


 人々は、その仮初の平穏を信じて、祈り続けるのだ。

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