第48話
「そ、それは作戦でした!」
「作戦?」
「敵を騙すには、まずは味方から……といいますでしょう……? 実は、あの後援護のために戻る予定、だったのです……」
父が笑顔で、王に嘘をつく。
ある意味、凄い胆力だったが、王の表情は冷めたものだった。
「黙れ。おまえは……昔はそんなのではなかっただろう。なぜ、そんなだらしなくなってしまったんだ」
王は、心の底から残念そうに声をあげる。
……昔の父の姿はゲームでも特に語られなかったが、立派だったのかもしれない。
もしもそうだとしたら、ここまで堕落してしまっている友人を見たら、俺もがっかりしてしまうかもしれない。
「言い訳はもう聞きたくはない。今回の一件で、よくわかった。お前たちにあの領地を任せていたら国の大損害となる」
……やはり、ここで爵位を失うのか。
まあ、仕方ないよな。あんだけの体たらくだったんだから。
こうなると、リームともお別れだ。イナーシアは一緒についてきたいと言っていたが、どうするか?
「ま、まさか爵位を……っ」
「ああ。剥奪だ。お前たちは、今日を以て貴族ではなくなる。これからは、自由に生きればいい」
王が冷たく言い放つと、ルーブルは涙を流しながら縋り付くように近づいていく。
しかし、王を警護する兵士たちがその道を塞ぐ。
「王! ご乱心を! 考え直してください! こ、これから頑張りますから!」
「黙れ。……さて、次の話だ。レイス・ヴァリドー」
王が俺の名前を呼び、そこに集まった全員の視線が俺へと集まる。
父たちの俺を恨むような視線。兄が声を荒らげ叫ぶ。
「貴様が……貴様のせいで、オレたちが悪者にされたんだぞ!?」
理不尽すぎる怒りを、彼らはぶつけてきた。
「ふざけるなよ! オレたちの生活を邪魔しやがって!」
……えぇ。
それまで俺の責任にされても困る。
王が玉座を離れ、こちらへと歩いてくる。彼は一度、兄たちを睨みつける。
「貴様ら、レイスはヴァリドー家の跡継ぎだ。その者に対して、そんな態度をとってもいいのか?」
「へ?」
へ?
兄たちの疑問の声に合わせ、俺も同じような気持ちになる。
王は俺の前にたち、それから微笑を浮かべた。
「フィーリアから、おまえの活躍は聞いた。その若さにして、悪逆の森の魔物たちを一人で討伐できるだけの力……見事だ。そして、お前は唯一生き残ったヴァリドー家の者でもある。……ヴァリドー家を継いでくれないか?」
……ああ、そういうこと。
四人はもう王の中では死んだことになってるのね。
そして、俺に後を継がせる、と。
フィーリア様が、俺を優遇してくれたゆえの褒美という意味合いもあるのかもしれない。
視線を向けると、彼女は嬉しそうに目を細めているしな。
正直言って、まったく想定していなかったのでどうするか考える。
ただ……これは分かりやすい、未来を変えたという証拠にもなる。
俺はこくり、と首を縦に振った。
「……分かりました。引き受けます」
「おお、そうか! 頼んだぞ、レイス!」
王はにこっと微笑むと、俺の背中をバンバンと叩いてくる。
「な、なぜ……っ」
ちらと視線を向けると、家族たちが絶望的な表情でこちらを見てきていた。
……まさか、こんなことになるなんてな。
これで、ひとまず俺の未来の一つは変わった。
……想定よりも、大きく、な。
王城でのやり取りを終えたあと。俺はまだ怪我が完全に癒えていはいないというわけですぐにヴァリドールへと帰ることができた。
リームとともに屋敷へと戻り、事の顛末を皆に伝えると……それはもう偉く盛り上がってしまった。
……どんだけ皆俺の家族たちが嫌だったんだか。
ひとまず、これで屋敷内の人たちはいいとして……今後は、領主として領内の人々の好感度も稼いでいかないといけなくなるな。
そんなことを考えながら、俺は戻ってきた小さな自分の部屋で休んでいた。
もう家族は家にいないわけで、部屋は自由に使えるのだが……今はまだ、ここが落ち着いた。
窓の外の景色を眺め、自分の体が無事であることを確認していると、
「レイス、今いいかしら?」
「どうした?」
「……その、おめでとうございます」
「ああ、ありがとう」
リームが少しだけ悲しそうに目を伏せた。
彼女がそんな複雑な表情を浮かべることがこれまでになかったため、珍しい気分でいるとリームは決心した様子で声を上げる。
「……その、レイス。私から、一つお話しがあるわ」
「なんだ?」
「私とあなたの婚約者の関係について、よ」
そういえば、ゲームでは俺とリームの関係は家が爵位を取り上げられたタイミングでなくなるんだったよな。
今は継続中。どうなるのだろうか。
俺が先を促すように視線をやると、リームはすっと言葉を続ける。
「私とレイスの関係は……ルーブル……あなたの父と私の父との話しで決まっていたわ。……それは、レイスが三男という立場だったからこその関係でもあるわよね?」
「そうだな」
俺がリームと許嫁になったのは、家族
たちの嫌がらせの部分が大きい。
本来なら、子爵家のリームが侯爵家の三男と関係ができることはよほど気に入られないと難しい。
まあ、リームの容姿なら他の家の男にも声をかけられる可能性は十分にあるが。
「ですので、私のこれからについてですが――」
リームがどうして先ほどのような表情を浮かべていたのかが分かった。
「これからもよろしく頼む」
だから、その不安を拭い去るように俺から言葉を続けた。
「え?」
……リームがいたからこそ、俺はここまで戦えた部分もある。
彼女に色々なことを相談できたからこそ、今の俺がいる。
……婚約関係をなくせば、ゲーム本編にリームが自然な形で合流することも可能かもしれない。
だが……それは別にもういい。
破滅の未来を回避できたように、俺が俺の力でもってゲーム本編を完璧なエンディングに導けばいいだけだ。
「俺としてはこれからもリームと一緒にいたいと思っていたんだけど、リームはどうだ?」
俺の返事に、リームは驚いたように顔を見開いたあと、笑顔を浮かべた。
「……もちろん、私も一緒にいたいわ」
「それならよかったよ。これからも頼むな」
「ええ、よろしくお願いします」
リームと握手をかわしながら、脳内で考えていたのは……今後どうするかだ。
ゲーム本編から、リームというキャラクターがいなくなるわけだが……まあ、また難しいことは後で考えようか。
――――
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