第45話




 準備を終えた俺たちは西門の外へと移動した。

 ……すでに兵士たちの配置は終わっている。ここで、黒鎧の騎士たちを迎え撃つ準備は整っている。

 冒険者たちも西門へと集まっている。

 ……屋敷から、兵を派遣し、王都や他の街への応援の要請も出している。


 あとは、それらの援軍が駆けつけるまでの時間を稼ぐだけだ。

 俺たちは視線を門の先へと向けていた時だった。

 そいつは、現れた。


「……黒鎧の騎士が現れました!」


 兵の一声が響くと同時、俺たちは視線を門の先へと向ける。

 現れたのは、一体の黒鎧を纏った騎士のようないでたちをした魔物だ。

 すたすたとこちらへとまっすぐに迫ってくるそいつに、俺は見覚えがあった。


 ……確か、パラディンハンター、だったはずだ。

 こいつらは、聖なる力――聖属性の魔法が使えるものを狙って襲い掛かるという魔族たちが作った生物だ。

 ということは、あの黒鎧の騎士の狙いは……フィーリア様、だろうか。


 フィーリア様の設定までは分からないが、双子の妹である第二王女様は、聖属性の魔法が使える。

 いずれ、主人公の仲間になるその子は、よくこの黒鎧の騎士たちに狙われていた。


 想定以上に、厄介かもしれない。

 というのも、こいつら、かなり高レベルであり討伐するのは不可能だった。

 こいつらとの戦いでは、基本的にある程度戦ったところで逃走を選択するしかなかった。

 まずい、な。


 そんなことを考えていると、ザンゲルが声を放った。

 ……兵士たちへの指示などは、ザンゲルに任せている。ザンゲルは小さく息を吐いてから、声を張り上げた。


「魔法を放て!」


 ザンゲルの声が響くと同時、兵士、冒険者たちからいくつもの魔法が放たれた。

 それを見たパラディンハンターは右手に持っていた槍を強く振りぬいた。

 強風が吹き抜けると同時、黒い瘴気のような魔力が周囲を薙ぎ払う。

 ……来る!

 俺は即座に声を張り上げた。


「全員、頭を下げろ……!」


 俺の言葉に、どれだけの人が反応したかは分からない。

 次の瞬間、俺たちがいた頭上を黒い斬撃が突き抜けていく。

 街を覆う防壁を切り裂き、斬撃は周囲を薙ぎ払っていく。


「……ふざけて、やがるな」


 さすがに、パラディンハンターの戦闘能力はずば抜けている。


 ……これを相手に、時間稼ぎができるだろうか。

 周囲に絶望的な空気が満ちていく中、パラディンハンターが片手をあげた。


 次の瞬間、彼の黒い瘴気が形となり、魔物が姿を見せる。

 ……あいつらは、仕留めた魔物の魂をストックし、それに魔力を込めて魔物を生み出すことができる。


 現れたのは、『悪逆の森』に出現する魔物たちだ。それらが、一斉にこちらへと向かって襲い掛かってくる。

 先ほどのパラディンハンターの一撃によって、こちらの半分近くの戦士が負傷してしまった状況だ。

 ザンゲルが、声を張り上げる。


「怯むな……! 魔物を迎え撃つ準備をしろ!」


 ザンゲルが声を張り上げるが……この状況で、まともに声は届かないだろう。


 それは、フィーリア様たちも同じだ。彼女たちはもちろん、迎え撃つ準備をしてこそいるが、最初の攻撃によって得体のしれない魔物の脅威に、まったく恐れがないわけではないはずだ。

 ……仮にここでレイスが、声を張り上げたところで士気が上がるとしても恐らくは屋敷の関係者たちくらいだ。


 この戦場に……レイスは不要だ。

 必要なのは……向こうの未知の恐怖に対抗できるだけの、未知の英雄だ――。

 俺は隣に控えていたリームに声をかける。


「リーム……レイスの居場所を聞かれたら、避難したとでも言っておいてくれ」

「………………分かったわ」


 俺の言葉で、すべてを理解したのだろう。リームはこくりと頷いた。


 俺は即座に空間魔法を展開する。青色の空間魔法の中へと飛び込んだ俺は、その内部を移動しながら……黒衣の外套と仮面を身に着ける。

 ……ここからは、リョウとして――あの魔物を殲滅する。


 入口を閉じ、黒い渦を展開した俺は魔物と兵士たちの間へと姿を見せる。

 ヴァリドール兵団の人たちはリョウのことを噂程度にしか知らないだろうが、冒険者たちは俺のことを知っている。


「リョウだ……!」

「リョウが来てくれたぞ!」


 俺はその歓声に合わせるように、すぐさま空間魔法を発動する。

 展開した巨大な黒い渦……それが、こちらへと迫っていた魔物たちの足元へと展開し、その体を飲み込み、切り裂いていく。


「……ガアアア!」


 だが、すべてを切り裂く前に、ウルフェンビーストのような黒い魔物に飛びかかられる。


 ……さすがに、すべてを処理できるほど丁寧には操作ができなかった。

 その魔物の突進をかわし、ミスリルナイフを振りぬく。ウルフェンビーストを仕留めると同時、俺は声を張り上げる。


「魔物たちを狩れ! ボスは俺がやる!」


 そう宣言すると同時、俺は黒い渦へと飛び込み、パラディンハンターの背後へと移動する。


 こちらに気づいたパラディンハンターがすかさず持っていた槍を振りぬいてきて、俺はそれを短剣で受け止める。

 ……黒い瘴気が周囲へと溢れ、パラディンハンターの攻撃を受け止める。


 同時に空間魔法を放ち、その体を切断しようとするが、黒い瘴気が俺の魔力に干渉し、乱してくる。

 発動の妨害、攻撃の妨害を同時に行ってきて、うまく狙いがつけられない。


 ……魔法の維持を行うのも難しい。

 その隙にパラディンハンターの槍が迫り、俺は短剣を交差させて受け止める。

 弾かれながら俺は、戦場へと視線を向ける。


 ……向こうの魔物たちは、ザンゲルや冒険者たちで対応してくれている。

 ……あとは、パラディンハンターを俺が押さえ込めれば、というところか。


 空間魔法を展開するが、パラディンハンターは即座に飛びのき、槍を構える。

 そして、その槍が投擲された。

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