第42話
「……くらえ!」
ライフがそう叫び、火魔法を放ってくる。
彼の火の弾丸が迫ってきたが、俺はそれを展開した青い渦で飲み込んで、消した。
「なっ!?」
驚いた様子で後退したライフの背後へと移動する。
そして、その背中を思い切り蹴りつけた。
俺の蹴りを喰らったライフが地面を派手に転がる。
「がああ!?」
ごろごろと転がっていたライフは体を起こそうとしたのだが、よほど痛かったのか、目に涙をためていた。
「き、貴様……!?」
父が苛立った様子で声をあげ、こちらを睨んできた。
そのタイミングで、フィーリア様がぽつりと声を漏らした。
「……ここまでにしたほうがよろしいですわね」
さすがに、フィーリア様が間に入るとなると父も言葉を挟むことはできそうになかった。
「お見事ですわね、レイス」
「ありがとうございます」
フィーリア様はそう言ってから俺の方へ一歩近づいてくる。
彼女は悔しそうに睨んできていたライフなど一切目を向けていない。
彼女の笑顔にはそう……次はわたくしと戦いましょうとしか書いていなかった。
「それでは、次こそわたくしとの戦いですわね……っ」
「……」
マジでやるの……? フィーリア様が戦いたそうにこちらを見てきて、助けを求めるように騎士団長やおつきの騎士たちを見るのだが、皆諦めるような表情である。
「こうなったら、もう止まらないんです……」といっているように見え、普段の騎士たちの苦労が伺えるようだった。
……仕方ない。このままフィーリア様とも戦うのか。
そんなことを考えていたときだった。
「大変ですザンゲルさん!」
「どうした……?」
慌てた様子でやってきたゲーリングに、俺たちは思わず顔を向ける。事情も、あったわけだしな。
しかし、父はすぐに激怒して、声を張り上げる。
「今、王女様が来られているのだぞ!? 無礼者!」
「緊急事態かもしれません。わたくしのことは気にせず、続けてください」
フィーリア様がそういうと、父は眉間をぐっと寄せる。……先ほどから、自分の思う通りに話が進まず、苛立っている様子だ。
「……はい! ただいま、『悪逆の森』から大量の魔物が溢れていると報告がありました」
「なんだと!? それは本当なのか!?」
父と、家族たちが顔を青ざめさせて叫んでいた。
「……はい。先頭に立つ、黒鎧の騎士が『悪逆の森』の魔物たちを従え、進行しているようなんです」
……黒鎧の騎士?
俺は聞きなれない単語に思わず顔を顰めていたのだが、父も同じように絶望した様子になっていた。
「……な、なんだそいつは。へ、兵士たちは何をしている!」
「……今現在は結界の展開の準備に向かっています。偶然ギルドに優秀な冒険者たちも集まっていて、彼らも対応のために動いてくれています。しかし、この街の総指揮権はルボール様にあります。今後の対応についてのご意見を頂けますか」
「すぐに避難だ! 転移石を使い、別の街に移動だ! それから、戦力を整えて迎えうつぞ!」
……まあ、魔物の規模が分からないとはいえその判断自体は正しい。
ヴァリドールが、普通の街だったらだ。
すぐに反応したのはフィーリア様だ。
「……ちょっと待ってくださいまし。ヴァリドールは魔物の進行を止めるための街ですわよね? 魔物に対抗するための様々な武器があるのですから、ここで対応したほうが良いのではありませんこと? 他の街に、兵士の援軍を募集し、転移石で移動してきてもらえれば十分可能だと思いますが」
フィーリア様の意見が、正しい。
このヴァリドールには対魔物用の装備が大量にあり、結界装置も他の街よりも優秀だ。
それらの燃料や整備がされていれば……それらを用いて援軍を待ちながら戦うのが正しい。
……燃料があり、整備がされていれば、な。
整備自体は俺がヴィリアスにお願いしてみてもらっているが、何せ数が多いからな。必要最低限しか整備できていない。
燃料は……軍事費が割かれていないのでもちろんほとんどない。
そこまで、父も計算したのだろう。
その顔が一気に青くなっていく。
しばらく、沈黙が続いてしまい、ゲーリングが口を開いた。
「……話の邪魔をして申し訳ありません。転移石ですが、悪逆の森の魔物たちの影響か魔力が不安定になり、使用不可能な状況だそうです」
……やはり、そうなるのか。
リームの時もそうだが、転移石を使って逃走するのは難しいな。
「そ、それでは避難もできないのか……」
父は絶望的な声をあげている。
「え、ええ……街の人たちを逃すとしても、我々で魔物たちを食い止める必要があります」
『悪逆の森』とは逆方向へと避難をすれば、何とか逃げることは可能だろう。
街全体に避難勧告を出し、そこからすぐに行動してもらうとなると……難しい。
全員での大移動になるし、街中もかなりの渋滞となるだろう。
人によっては避難したくない人もいるだろうし、それらを説得して回る余裕はない。
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