第2話
……この世界は、基本的にはゲームと同じはずだ。
ステータスとかはまったく表示されないので、多少の違いはあるのかもしれないが……それでもゲーム知識が通用するはず。
つまり、ゲーム知識を利用すれば、レイスくんを最強キャラに作り上げることも可能だというわけだ。
ヴァリドー家が治めるこの街『ヴァリドール』はゲームの中盤以降にしか来れない場所であり、珍しい装備品を入手するために必須の場所だ。
特に、最強ステータスを持ったキャラクターを作るために、必ず訪れる必要があった。
「い、いらっしゃいませ……レイス様……」
街の防具屋に入ると、警戒した様子で店主が声をかけてくる。
……レイスくんのわがままっぷりはこの世界でも変わらないようだな。
街中でも皆が怯えたように挨拶をしてきていたし、皆がうちに恐れているのはよくわかる。
まあ、ヴァリドー家はクソ貴族だからな。
過剰に税を巻き上げ、無理な領地経営を行って市民には不満が溜まっているんだろう。
「店主、少しいいか?」
……一応貴族なので、最低限立場もあるので敬語は使わない。
それでも、できる限り丁寧に声をかけたのだが、店主は強面の顔に似合わずびくりと体を跳ね上げる。
「は、はい! なんでしょうか!?」
「こんな感じの指輪を知らないか?」
「え? あ、あーと……こちらに大量にありますが……」
そう言って、店主は隅の方を案内してくれる。
……ゲームだと店主に話しかけると、あとはメニュー画面から買い物をするだけだったので、実際に物を見られるのはゲームが好きだった俺としては興奮ものだ。
そこにある装備品は、各種ステータスを少し強化してくれる指輪だ。
値段は結構いい金額なのだが、大してステータスを強化しないため、攻略サイトなどを見ていない人はまず購入しない装備だが……最強キャラ育成に必須のアイテムたちだ。
「それじゃあ、各色一つずつ購入したい。用意してもらってもいいか?」
「は、はい! ただいま!」
……終始、怯えられてしまっていたがまあ領民との関係は一日二日で改善するものではないだろう。
変わったことが段々と知れ渡っていくようにしなければな。
とはいえ、少し寂しいので早めに改善しないとな。
俺は屋敷からこっそり持ってきたお金を使って、装備品をすべて入手し、店をさる。
あとは、これを身につけて訓練を積んでいけば強くなるはずだ。
というのも、このアクセサリーたちは、レベルアップ時にステータスを通常よりも強化してくれる隠し効果がある。
ゲームでは低レベル攻略でこの『ヴァリドール』に到達しないと、すべてのステータスをマックスまで強化することができない。
……まあ、この世界だとゲームのような効果があるのかは分からないということだけは、不安だが……それなら、別のゲーム知識を使ってみるだけだしな。
俺が最強キャラになるために、なんでもやっていくつもりだ。
装備品を持って家へと帰宅すると、ちょうど長男のライフ・ヴァリドーと鉢合わせになる。
豪華な服に身を包んでいることから、もしかしたらどこかの街で社交界にでも参加する予定なのかもしれない。
そんなライフは、俺を見て……露骨に嫌そうな目になる。
「ちっ、落ちこぼれの能無しじゃねぇか」
「兄さん、お久しぶりです」
「喋んなよ、クズが」
そういって、ライフは舌打ちを残して去っていった。
……家族の俺への当たりは、こんな感じで強い。
それは、俺が持って生まれた魔法が原因だ。
俺の持つ魔法は、空間魔法だ。
空間に干渉する魔法で、例えば異空間に物をしまったり、異空間同士をつなげて移動したりできる。
……これだけ聞くと、凄い魔法だと思うだろうが、燃費がとても悪い。
少なくとも、人を移動させる様なのは……今の俺では使えないんだよな。
第一、異空間に物をしまうというのも、この世界ではアイテムボックスという代用品があり、異空間同士をつなげて移動するというのも……転移石と呼ばれるものが各街にあるため、別にそこまで便利な代物ではない。
家族全員が攻撃的な魔法の才能を持って生まれてきたのに、俺だけ使えない能力だったために……家族からの評価はあまりにも低い。
親の愛情を受けることができなかったこともあり、レイスくんの性格は酷く歪んでしまったのかもしれない。
まあ、前世の俺は上司にもっと詰められていたので、あのくらい別に気にもならない。
ちゃんと寝れて、食事が取れるだけで今の環境は最高。というか、睡眠時間が自由に取れるだけで、お釣りが返ってくるレベル。
異世界転生、大感謝だ。転生先も、中世ヨーロッパ風なだけで、魔法技術により細かい部分は発展している。
エアコンのようなものもあれば、冷蔵庫のようなものもあるしな。
前世の社畜生活より、何倍もいい。
ひとまず……訓練開始だな。
何をするって……筋トレだ!
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