リアライン
楠木 創也 (クスノキ ソウヤ)
~現代編~
第1話 出会い
「さようなら、博士」
ーーオレは復讐を果たした。
これで全世界がオレの敵となるだろう。
ならばオレはその世界を破壊して新たな世界を創り上げるまでだ。
オレやオレのような人間でも生きられる世界をーー
ーー僕は目を覚ました。
何か凄い夢を見ていた気がする。とてもリアルな夢だった。
目線の先にはいつもと同じ自分の部屋の天井が合ったが、気分はいつもと違い異様に高ぶっている。
はぁ、起きたばっかりなのにもう疲れた。そんな事を思いながら僕はベッドの上で体を起こし、なんとなくカーテンの隙間から漏れた朝の光に照らされている自分の部屋を気だるく見渡した。その時だった。
少年と目が合った。
何故か僕のすぐ横に、知らない少年が座っていてコチラを見ている。
年は僕と同い年、十六歳ぐらいに見える。髪色は黒髪の僕とは違い、明るい茶色で、顔立ちから活発な雰囲気のある少年だと僕は思った。
「どうも」
彼も眠りから起きたばかりなのかぼんやりしている様子だったが、僕はこの普通じゃない状況、知らない他人がすぐ横で寝ていて、おまけにその人物は上裸だという状況に眠気が吹っ飛んだ。
「あの、服は?」
「あ、どこ行ったんだろう」
僕と少年の間に静寂が流れる。
「ごめん、何か服借りても良い?」
少年は少し気まずそうにしていた。
しょうがない、このままよりはまだましか。
「分かった、分かったよ。えっと、何が必要?」
布団が彼の下半身に掛かってて分からないが、流石に下は着ているものと思いたい。
「パンツと何か上に着れるものなら何でもいいので、お願いします」
どうやら下も履いていなかったらしい。
僕はベッドから降り、この部屋にあるタンスから適当に服と下着を選んだ。彼を見るに体格は僕より断然良いが、身長は僕とあまり変わらなさそうだ。
僕は選んだ服を彼に貸し、彼はその服を着た。
「ありがとう、えっとーー」
「ノアルです」
彼は僕の名前を知らないようだった。
「ありがとう、ノアル。オレはレアンだ」
少年はレアンと名を名乗った。
「よろしく」
レアンは右手を差し出した。
「あ、ハイ」
僕は差し出された彼の手を軽く握って、握手をした。
握手した後、僕は恐る恐る今一番聞きたいことを尋ねた。
「あの、なんで僕の家にレアンさんはいるんですか?」
「レアンでいい。それに敬語じゃなくても良い」
その後レアンは少し考え答えてくれた。
「オレにもよく分からないんだ」
とても困る返答を返して来た。
「何か、覚えてることは?」
「あー、オレが未来から来たってことは覚えてる」
落ち着け、彼もきっと混乱しているに違いない。
「未来?」
「あぁ、オレは未来から来た」
レアンははっきりとした口調でそう言った。もうよく分からなくなってきた。
「なんで未来から来たの?」
「それは未来で起こる戦争を食い止めるためだ」
「戦争? 誰と?」
「ごめん、それは覚えてないや。でも後で思い出せるかもしれない」
レアンは苦笑しながらそう答えていたけど結構重要なことに思える。
「あっ、あともう一つ覚えてることがある。ちょっと見ててくれ」
レアンは軽く一息ついた。なんだか彼の姿が少し薄くなった気がする。見間違いかと思ってレアンを凝視しているとレアンは僕の方に向かって手を突き出した。
「えっ!?」
彼の手が当たる! と思われた瞬間、彼の手は僕の体を通り抜けていた。
「今オレ、魂化してるからすり抜けられるんだ」
レアンは僕の方を見てニッと笑った。
「魂化?」
僕が聞くとレアンは頷いた。
「魂化している時、オレは人や物、生き物をすり抜けることが出来るんだ。まぁオレもそれらに触ることは出来ないんだけど」
レアンは魂化というものについて説明してくれた。
「後はオレの存在はノアル意外の人には見えないってところかな」
「魂化はなんのために使うんだ?」
「それはどっかに侵入する時とか、姿を隠したい時とかだと思うよ」
「そっか、そうなんだ」
理由にはなっているけど、どこまで信じて良いものなのか。
「あ、ちなみにこの魂化の状態から元に戻ることは現体化って言うんだ」
レアンはそう言いながら魂下の状態から現体化の状態に戻った。
「魂化が解除される時は今みたいに自分の意思で現体化する時と、もう一つはオレとノアルの距離が離れて強制的に現体化する時かな」
レアンは色々と魂化の事を教えてくれた。
「あのー、ところでノアルさん」
レアンの口調が丁寧になった。
「オレはまだこの時代に来たばかりで、慣れないこともあるし、記憶も思い出せないことが多い」
今回はレアンが何を言いたいのか少し察しがついた様な気がする。
「だから、その、少しの間一緒に行動しても良いかな? 家にも住まわせてほしいです。他に行くあてもなくて、お願いします!」
レアンは僕に全力で頼んできた。
どうするべきかと僕が考えていると、レアンはさらに続けた。
「一週間だけで良いので、それ以上オレがこの時代にいることはないから。お願いします」
彼の話の内容は突拍子もない事だらけだが、全部嘘だとも思えなくなってきた。現に彼は魂化とか言う常人離れしたこともやっている。それになんとなく放っておくのも悪い気がした。
「分かった。一週間、君がこの時代にいるまでなら良いよ」
僕が観念したようにそう言うと、レアンは嬉しそうに「ありがとう、ノアル!」と僕の手を両手で握って、ブンブン振り回した。
家に無断侵入して全裸で寝ていた人間を信用するなんて自分でもどうかしてると思う。でもレアンは悪い人ではなさそうだし、今日も退屈で独りの日々を過ごす予定だったから、僕を必要としてくれる彼といるのは悪い気がしなかった。
まぁ、一週間くらいなら何とかなるだろう。
「ちなみに何で一週間しかこの時代にいられないんだ?」
僕は彼に尋ねた。
「ごめん、それも良く覚えてないや。早く色々思い出さないとな」
彼はそう言っているが落ち込んではなさそうだった。僕だったら混乱して、正気を保つので精一杯だ。
「……じゃあ、とりあえず僕は今から学校に行くけど、君はどうする?」
「オレも魂化してついて行くよ。未来に起こる戦争を止めるために来たのは覚えてるけど、そもそも敵が何だったのか思い出せないし、この時代にもまだ慣れてないしさ」
という訳で僕達は、いつも僕が通っている高校に行くための準備をした。リビングへと趣き、顔を洗って朝ご飯を食べてトイレに行って歯を磨いて、服装を着替えてと準備を進める。
服装は今の季節、夏と秋の間に合わせつつ、最近少し冷え込む日が続いているため少し暖かい物に着替えた。
「じゃあ、そろそろ行くのか?」
「そうだね、準備も出来たし行こっか」
僕は学校で必要な荷物が入っているリュックをからって、レアンと共に玄関前に向かう。
「あっ」「あっ」
僕とレアンは同時にあることに気づいた。レアンには出歩くための靴も必要だったのだ。
「靴が必要だったね」
「悪いな」
僕とレアンは苦笑した。僕は再び父のお下がりの黒色のブーツをレアンに貸し、レアンはブーツを履いた。
「ぴったりだ。ありがとな」
ブーツのサイズもコートと同様、彼にピッタリのようだった。
「じゃ、行こっか」
僕達は玄関に向かい、僕は玄関のドアノブに手を伸ばし、ドアを開けた。
その瞬間、少し肌寒いが気持ちの良い穏やかな微風が吹き込んできた。
僕たちは玄関を超えて、外の世界に出た。
「うわぁ、キレイだなぁ」
レアンは穏やかな表情でそうつぶやいていた。
そこからは晴れた空の下、後方には緩やかな山々が並び、前方には一日の始まりを告げる朝の温かい日差しに照らされた住宅やお店などの穏やかな街並みを見下ろせて、その先には海もあった。
街には各々の向かう場所へ行き交う車や人々の姿もあり、人々が生活を営む音、鳥や犬、猫、昆虫等の生き物が奏でる音、穏やかな風に揺れる木や草の自然の音も聞こえる。
僕はいつもと同じはずのこの景色を今は美しいと感じ、いつもと違うこの状況に静かな胸の高鳴りを感じていた。
それから僕達も何処かへ向かう人々の一員になって目的の場所、学校まで行くために、緩やかな坂を下って歩き始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます