叙述曲「ユウタイホンヤク」

※この作品はサスペンスドラマのオマージュ作品のため、不束三探の手で、トリックミステリーにちなんだエンディング曲を想定・作成している(ここで言う叙述曲とは、叙述トリックを使った歌詞のことである。下線のあとに、真相を提示している)


一番


この世には 不思議なことがあるものだ

幽体のように 第三者

ただ見ているだけの本役(ロールプレイ)

ぼくの役割は見ているだけだ

みなのかわりに 見るのが役割

みなのかわりに きくのが役割

ユウタイホンヤク ユウタイホンヤク

いまから歌うは、よくある話

ふたりの男女がむすばれた


二番


同じ場所で生まれ育って

いつも いつでも いっしょだった

まわりの勧めがふえてくる

お似合いね 仲良くね

徐々に 外堀 埋められる

いっしょにいるだけだった


たき ゆかり

いま ふたり

夫婦のラベルが貼られている

ワナビー ワナビー


三番


この世には 悲しいことがあるものだ

あるとき ふたりは喧嘩した

飛びあがって、蹴り合った

ぼくは見ていた きいていた

喧嘩の原因 子どもの不在

しゃがんだときに 落下した

こっちだ ここだ ぼくの声は とどかない

ユウタイホンヤク ユウタイホンヤク


そこら中が 大慌て

ゆかりの神経 高ぶった


四番


ふたりの 気持ちは はなれてる

ぼくは そばで 見ているだけだ

たきは ゆかりをさわりはじめた

お腹のしたへと 手がのびる

子どもを求めて さわったことだ

それがゆかりを 怒らせた

夫婦のラベル 剥がされた

ワナビー ワナビー


五番


この世には 悲喜交々が あるものだ

ついに 別居がはじまった

まわりがきめて ふたりを離した

留守になって 家宅捜索


大人数で 探しに 探し

子どもが やっと見つかった

外堀の なかにいた


ゆかりの手元に もどされる

お腹のしたへと 手がのびる


ぼくは ひょっこり 顔を出す

たきは とおく 外の外

金網あいだ 彼の目だけが 見えている

ふたりの同居は はじまらない


ユウタイホンヤク ユウタイホンヤク


ふたりが ようやく 仲直り 

その切っ掛けは 意外な人物……


________________________________________


六番


「見て かわいいワラビーね」

檻の外 ふたりの人間 指差した


そう ワラビー 

ぼくたちは 動物園のワラビーだ

人気者のワラビーだ


ゆかりが びっくり あとずさる

たきが 檻から大反応


飼育員が ドアあけた

たきは飛び出し ゆかりを大事に守ってる

子どものぼくを かばってる


ワラビーたちは仲直り

夫婦 家族 仲直り


有袋翻訳 有袋翻訳


生後五ヶ月 

ぼくは 袋のなかの子どもだった


見ているだけ 

きいてるだけ


いつしか ぼくも ワナビー ワラビー

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る