04:冒険者になるので武器を下さい



 両親と相談した翌日、私はすでに家を出ていた。

 今日のうちに出立準備をして、そのまま村を出るつもりだ。


 あまり長居すると出て行きづらくなるし、【毒殺屋】が長期滞在するのも風聞が悪いだろう。食堂的に。



 当然のように両親はしばらくしてから行けと言っていたが、気持ちが辛くなるだけだし。

 固有職ユニークジョブとしても早くに王都に行く必要があるしね。


 第一、王都までは本当に遠いから。馬車で三日掛かるオーフェンはかなり近場の都市なのだ。王都はずっと先にある。



 そんなわけで王都に向かうのはもちろんなんだけど、村で出来る事は出来る限りやっておく。

 まずは冒険者ギルドだ。

 都市や街のように支部はないけど、出張所はある。



「あらピーゾンちゃん、どうしたの?」


「こんにちは。仮登録に来ましたー」


「ええっ! ピーゾンちゃん冒険者になるの!?」



 受付のおばちゃんがカウンターに座ってるだけの簡易的な出張所。村のギルドなんてこんなものだ。

 おばちゃんも村では顔なじみだ。村なんてみんなご近所さんみたいなもんだし。

 私が食堂でお手伝いしているのも知っているので、冒険者になると言ったら驚いていた。



 ギルドカードを作る際にどうせジョブ登録する事になるので、私が【毒殺屋】になった事を説明した。

 もちろん秘密にしといてね、とは言ったけど。

 【毒殺屋】と聞いて、目玉が飛び出るんじゃないかと思うほどにビックリしていた。



「やっぱ聞いた事ないですか、こんなジョブ……」


「ええ、未知の固有職ユニークジョブなのは間違いないわ。斥候系のジョブで【盗賊】とか【暗殺者】とかはあるから同じような感じかもしれないけど……」



 どうあがいても犯罪者ですよね、分かります。

 おばちゃんもすごく言いづらそう。



「やっぱ固有職ユニークジョブって珍しいんですか」


「この村だと十年に一人くらいかしら。でも国内だと毎年百人くらいは居るはずよ。半分以上は職業専門学校に行くとは思うけど」


「冒険者になる固有職ユニークジョブはあんま居ないんですかね」


「そんなことないわ。学校の次に多い進路が冒険者だし、戦闘職だと進んで冒険者になる子も多いって聞くわ。王都の冒険者ギルドには毎年集まるはずだから、きっとピーゾンちゃんと同じような子も居るはずよ」



 固有職ユニークジョブは誰であっても王都に集まる。

 当然、私と同じような冒険者になる子も向かうんだろう。

 冒険者になるからにはパーティーを組むんだろうし、そういった同じ境遇の子と仲良くなれればいいなぁ。



「ここでは仮登録しか出来ないから詳しい説明は本登録の時にされるはずよ。オーフェンに向かうんでしょ?」


「はい。オーフェンのギルドで本登録します」


「本当に気を付けてね、ピーゾンちゃん。冒険者は危険な仕事よ。くれぐれも用心して、安易に魔物と戦ったりしちゃダメだからね? お願いよ? 万一の事があったらソルダードもピエットも悲しんじゃうから。もちろん私もよ」



 仮にもギルド職員であるのに冒険者批判ともとれる発言。

 それくらい親身になってくれている。村という小さいコミュニティは本当に暖かい。

 おばちゃんも食堂に時々来るから私が「将来は食堂で働きたい」と言っていたのを知っている。


 それでも冒険者となり村を離れなければならない。

 そんな気持ちを分かってくれたらしい。若干涙ぐんでたし。


 残念そうに励まされながら、冒険者の仮登録証を発行してもらった。

 これがないと街に入った時の身分証明にならないので、村で入手する必要があったのだ。


 おばちゃんに軽く別れの挨拶をし、再び涙ぐむおばちゃんを後に出張所を出た。

 気を取り直して次は武具屋だ。



「らっしゃい! ……ってピーゾンじゃねえか。どした?」


「えっとですね……」



 武具屋のおっちゃん――ベルダさんはガタイの良いヒゲマッチョ。こちらも食堂の馴染み。

 ここでも冒険者になる事と固有職ユニークジョブに就いた事を説明する。


 【毒殺屋】とは言わない。

 ここでは固有職ユニークジョブですよと言う必要はあっても、ジョブの詳細まで言う必要がないからだ。

 でも固有職ユニークジョブだって秘密にしといてね、とは言っておく。一応。



固有職ユニークジョブとかまじかぁ……ピーゾンが出て行くなんてなぁ、ソルダードの奴もしんどいだろう。……ぃよし! 俺が立派な冒険者に見えるように装備整えてやんぜ! まかせときな!」



 おっちゃん、お父さんと仲良しなんだよね。うちで使ってる包丁とかもおっちゃんの手作りだし。

 独身だからか私の事も娘扱いしてて、随分と可愛がってもらったもんだ。


 少し気落ちした後に無理矢理笑顔を作ったおっちゃんは、腕まくりして装備の陳列棚に向かう。



 装備品はジョブによって決まる。


 【魔法使い】が剣を持てても、装備する事は出来ない。

 装備してない武器で攻撃してもかすり傷すら付けられない。ダメージ皆無だ。

 もちろん物理的に考えればありえない事だけど、この世界では常識である。


 武器とは見なされない木剣とかなら装備出来る。

 しかしそれでも武器ではないからダメージは入らない。


 結局、人にも魔物にも″攻撃″出来るのは、『戦闘職が専用装備をした場合のみ』という事なのだ。


 つまりアルスへの腹パンは痛がってたけどダメージは入っていないという事。

 従ってあれはパワハラではない。QED。



 閑話休題。

 んじゃ【毒殺屋】ってのはどんな武器が扱えるのかって話になるんだけど……



「えっ……まじかよ……剣も杖もナイフもダメ。斧、棍、弓……ダメか」


「えっと他には何かある……?」


「鎌? ワンド? 槍? ダメか……なぁピーゾン。冒険者やめたほうが……」



 何も言えない。

 武器適性が何もないとは思わなかった。膝を突きたくなる。


 あれ? ステータス的には戦闘職だよね?

 非戦闘職なら武器持てないのも分かるんだけど……。

 もしかして【毒殺屋】って商人系? 屋号みたいだし。毒専門の【商人】的な。


 いやいや、そしたらスキルの<毒弾>とか訳わからないし。

 あれ多分<火弾>とか<水弾>みたいな攻撃魔法でしょ。それ以外、私には考えられない。

 試してないけど。というか村じゃ危険すぎて試せないんだけど。



 とりあえず何も武器を持たないってのもアレなので装備出来る刃物の中からナタをチョイスした。


 もちろん『武器』ではない。一般人が薪を割ったりする用の鉈だ。

 ただ家で使ってたやつと違って刃渡り四〇センチくらいの大型サイズ。


 包丁とノコギリと迷ったんだけど、直剣っぽく見えないかなーと期待して。

 見た目で少しでも冒険者っぽくしておきたいのだ。

 じゃないとただの『小娘の旅人』になってしまう。危険度が増す。


 木剣も非戦闘員用として装備できるんだけどさすがに木じゃなぁ……と。

 これで何とか武器っぽく見えないかなーと誤魔化しつつ鉈を腰に下げる。

 おっちゃんは白い目で見ているけども。

 マシだと思ってるのはどうやら私だけの模様。



 気を取り直して防具も見てみるが、やはりと言うか重装備……鎧とか金属系、盾も無理だった。皮鎧もダメっぽい。

 でも服やローブ系の軽装備は大丈夫そうだったので、なるべく丈夫な冒険者っぽい服を選んでもらった。


 なんとも地味な色合いだ。

 この世界の服……まぁ私たち村民が着るような服はどれも「ザ・村人!」という感じなんだよ。茶色ばっか。

 せっかくの戦闘用装備だと言うのに、私が『クリハン』で着ていたような白やパステルカラーで、フリフリフワフワって感じのものは存在しない。分かってはいたけどね。



「お代はいいぜ……なんて言うか、せっかくの門出だってのにちゃんとした装備させてやれなくて申し訳ないと言うか……武具屋として恥ずかしいと言うか……」


「あー、気にしないで。大丈夫! 大丈夫だから! 鉈強いから!」



 思わずフォローしてしまった。そしてタダにして貰ってこちらが申し訳ない。

 とりあえず気まずかったので、元気を装って苦笑いで退散した。



―――――

名前:ピーゾン

職業:毒殺屋Lv1

装備:武器・鉈(攻撃+0)

   防具・布の服(防御+5)

      皮のブーツ(敏捷+3)

      布の外套(防御+5)


HP:21

MP:25

攻撃:13

防御:3(+10=13)

魔力:10

抵抗:4

敏捷:32(+3=35)

器用:20

運 :4


スキル:毒精製Lv1(衰弱毒)、毒弾Lv1、毒感知Lv1

―――――



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る