第2話 工作員

 私は、拓人と会うたびに惹かれていった。拓人は、とても紳士で、優しい人で、話しも面白くて、一緒にいて楽しい。そして、私が知らないこともよく知っていて、一緒にいると、いろいろな世界を見せてくれる。


 私達は、ナムコ・ワンダーエッグとか、ディズニーランドとか、鎌倉とか、いろいろな所に行って、楽しい一緒の時間を過ごした。


 鎌倉なんかは、梅雨のときに行って、色とりどりの紫陽花が咲き乱れる風景に圧倒されたわ。でも、そんな気分になれたのは拓人が一緒だったからだと思う。


 そして、拓斗は私の手を握りながら、私のことを暖かく見守ってくれていた。また、歩き疲れるとカフェで一緒にスイーツとかを食べ、拓斗の話に大笑いとかもしたわ。


 いつのまにか、私は、拓斗の動かす腕、後ろから見る背中とか、いつも拓人を目で追うようになっている自分に気づいていた。また、拓斗が私の顔をみると、なぜか恥ずかしくなって下を向いてしまう。こんな気持ちになったのは久しぶり。


 拓斗の顔はイケメンだし、髪とかも清潔感がある。一緒に並んで歩いている時に、ふと横にいる私に顔を向けるときが一番、好き。口元がきりっとしていて、目元は拓斗の優しさを象徴している。


 そして、この前、私の頭に手を置き、撫でてくれた。昔は、男性から、そんなことされたら、私の髪の毛を乱さないでって嫌いだったけど、拓斗から撫でられたときはとっても嬉しかった。こんなこと初めて。


 なんか、ふと我に返ると、拓斗のことを考えていたなんていう時間が増えていった。この前なんて、夢で拓斗が私に唇を重ねてきて、私は目を閉じて幸せを感じていた。私は、もう夢中になっていて、自分の気持ちを抑えられない。


 私にもチャンスが到来したのかもしれない。そろそろ結婚も考える年齢だと思っていたところだし、拓斗と一緒に暮らしている姿を想像し、幸せな気持ちに浸っていた。


「柚葉、今日は誕生日だったね。プレゼントなんだけど、喜んでもらえるかな?」

「えー、嬉しい。なんだろう。あ、ネックレスだ。とっても、素敵。こういうの欲しかったんだけど、どうして知っているの。本当に、ありがとう。嬉しい。」


 私も、男性と付き合った経験もあるし、好きになったこともある。でも、拓斗は、私の気持ちをいつもわかってくれて、優先してくれる。そして、一緒にいて、私は、とても自然で、ありのままの自分でいられる。


 拓斗はとってもいい人。でも、あまり自分のことは話さない。なにか話せないことでもしてるのかしら。とってもいい人だと思うけど、どこに住んでいるのか、どの会社に勤めているのかといったようなことを話す気配がない。


 もしかして、結婚してないと言ってたけど、あれは嘘なのかしら。でも、そんな気配はないわよね。突然連絡しても、どんなときでも会ってくれるし。


 酔ったから、今日は帰りたくないと突然いっても、いつも、朝まで一緒にいてくれる。実はずっと見てたけど、奥さんに仕事で帰れないなんて電話している気配もない。


 仕事は、海外からエネルギーを仕入れる仕事をしてるとか言っていた。だから海外出張とか多いけど、いつも、きちんと、いつからいつまでどこに行ってるって話してくれる。海外から、時々だけどメッセージもくれる。


 でも、男性って、1人でいる時間を大切にし、自分の世界のことに口を出されるのは好きじゃないと聞いたことがある。だから、拓斗から話すまでは、無理に聞かないことにしてるの。


 拓斗は、真面目だし、きっと私のことを幸せにしてくれる。だから、安心してるし、いつかはきちんと話してくれるはず。


 比菜には悪いけど、あの事件で、私はとてもいい人と出会えることができた。


 ところで、周りは、比奈と私は親友だと思ってたかもしれないけど、実は、比奈のことは、あまり好きじゃなかった。


 いつも、比奈はみんなの中心で、男性たちは、比奈、比奈って、比奈のことばかり。私も、それなりのレベルだと思うけど、比奈の横にいると、誰も私のことなんて見てくれない。


 比奈、気づいてなかったでしょう。私が、あなたのことが嫌いだったこと。そう、あなたは、いつも、無邪気に明るく振舞っている。あなたに悪意がないのは分かっているのよ。でも、悪意がないからこそ、まわりの女性が気分を悪くすることもある。


 別に、比奈に死んでほしいなんて思ったことはないわ。でも、今回の事件で比奈が死んでも、悲しい気持ちはなかった。


 そういえば、比菜とその婚約者、神父、そして前列の方に座っていた10名以上の参列者は、あの事件で亡くなった。どうして、あんな事件が起こってしまったのかしら? ニュースとかでも爆破事件があったとしか公表されず、それ以上のことは何もわからなかった。


 比菜は、IT会社でプログラミングとかをしていて、普通に暮らしている。あんな事件に巻き込まれるような人じゃない。


 比菜が結婚しようとしていた橘くんの関係者の仕業なのかしら。そういえば、マスコミ関係の仕事をしていると言っていたし。いずれにしても、もう、比菜は帰ってこない。


 そんなことを考えている時、拓斗は大圳国の工作員と話していた。


「記者とその婚約者、そして、その親族や友人の大半は殺すことができた。あと心配なのは、その婚約者と親友だったあの女だが、俺たちのことをどこまで知っているか、分かったか?」

「調べているが、ほとんど知らないと思う。」

「情に流されるなよ。もし、怪しい動きがあれば、すぐに殺すからな。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る