一対五
今回、用意されたのは原始的な鋼鉄製の剣と盾だ。
STAR4側は飛び道具も持っていたが、それらを放つと何の仕切りも無い観客席に被害が出てしまうだろう。
YXが観客に倒れ込む可能性もあるが、気休めとして魔術師たちが防壁を貼っている。
(まぁ、小さな破片くらいは防げそうだけど、さすがにそれ以上となると魔術防壁くらい突破しそうだな……)
【もう面倒くさいので全員やってしまえばいいのでは?】
(お前、さっきからずっとそれだな……)
実はグンクなどと会話している最中も、殺意たっぷりのオペ猫発言が耳に届きっぱなしだったのだ。
AIでもイラつくことがあるらしい。
「さて、ぶっつけ本番だが……コックピット内の確認をするか」
外から見ると旧式のコックピットだったが、中に入るとZYXレッドウルフの物となっていた。
これも超高性能な欺瞞装置によるものだろう。
360度の球体型モニターが周囲にあり、外の光景がすべて見える。
高さ的には約六メートルのYX規格からして、その胴体辺り――4~5メートルくらいの位置の視界だろうか。
普通なら高所で怖い感覚だが、イクサはゲームで慣れすぎていて、むしろ人間の視界よりもなじみ深いとも思えてしまうくらいだ。
『では、開始だぁー!!』
いきなりグンクの巨人モンスターが迫ってきていた。
「うわ、こっちはまだ操作周りを確認してないぞ」
【ご安心を、ダメージを受けないので】
グンクの巨人モンスターが、剣を振ってきた。
その巨大さ、モニター越しに見ても大迫力だ。
直撃。
……したのだが、コックピット内には衝撃すら伝わってこない。
【このように百発食らっても、通常モードでも平気です】
「いや、でも逆に頑丈すぎないか……」
外から見たら、弱そうなやられ役のS-35が巨人モンスターの攻撃を受けて無傷で棒立ちなのだ。
【操作練習としては丁度いいのでは?】
「操作練習……まさかダメージを受けているように演技をしろと……」
【この
イクサは溜め息を吐きながら、後方へフラつく操作を何とかしようとした。
一応、マニュアルには目を通していたし、オペ猫から講義も受けた。
パイロットシートの両側にあるボタンの付いたレバーや、配置された計器類、両足にあるペダルなど。
それらは複雑そうに見えるが、基本的にはゲーム時代の操作に準じている。
だが、現実世界の技術基準だとそれでは複雑な動きをできない、というのは多くのロボットファンから指摘されるところだろう。
そのためにレバーやペダルだけではなく、視線や首の動き、座っている状態の身体の動きの検出や、レバーを離した状態での指を検出してマニピュレーター操作。
それに加えて脳波をスキャンして、オペ猫が補助をする――というのまでしている。
「ようするにゲーム感覚で動かせば、あとはお前が何とかしてくれるってことだな」
イクサは巨人の攻撃に合わせて、ダメージを食らったかのように機体をノックバックさせる。
【はい、細かいところはこちらにお任せください。大体の操作をすればイクサの思考を推測して、動かします】
「散々、俺と話してた成果が出たな」
巨人だけでなく、STAR4の機体までイクサに向かって攻撃を仕掛けてきた。
殴る、蹴る、斬る、膝蹴り、肘打ち、投げ技。
巨人モンスターと違って多彩な動きなので、それに合わせて演技操作をしていると技術が上がっていくのを感じてしまう。
「ザコキャラとしてやられる。これが操作チュートリアルか。俺らしいといえば、俺らしいな……」
コックピット内に、S-35のダメージが表示される。
各装甲が歪み、ひしゃげ、取れ、内部フレームが露出してしまっている。
もちろんこれも欺瞞装置のおかげだ。
技術的に詳しいことはわからないが、オペ猫が言うにはイクサのパイロットスーツのようなもので、ナノマシンによって上手く見せているのだという。
科学だけではそんなことはできないだろうとツッコミたくなる。
「お、そろそろクライマックスかな?」
良い感じにボロボロになってきたS-35、テンションが上がってきたグンクが『最後の一撃は余がもらう! トドメを刺せ!』と巨人モンスターに指示している。
泣き叫びながら止めようとするエリ、傍観者面しているSTAR4、悪女の笑みを浮かべるアクア、殺せコールの観客たち。
「さぁ、ザコキャラは断罪される時間だ」
【イクサ、性格が変わってませんか?】
「運命ってやつを騙すくらいにキャラを使い分けなきゃならないんだ。アカデミー賞の主演男優を狙うぞ」
ボロボロのS-35を一歩、二歩と後退させる。
過剰なまでに足元をフラつかせて、闘技場の石壁に背中を当てて、もう逃げられないとアピールをする。
手を前に突き出して、『ま、待て……待ってくれ……!!』と言わんばかりに首を左右に振る。
【……やり過ぎですよ】
「あのイクサ・ヘンキョーだからな! よりザコキャラらしくだ!」
巨人が剣を腰だめに構えて突進してくる。
任侠映画でドスアタックを繰り出す動作に似ている。
そのまま剣をS-35のコックピットに――
「ナイスぅー!」
貫通させていた。
観客たちの声援がピタッと止まってしまった。
まさか本当に殺すとまでは思わなかったのだろう。
コックピットから流れでる大量の赤い液体。
そのあまりの量に、中の人間は真っ二つになっていると想像させてしまう。
大興奮しているグンク、少しだけ寂しそうにしているアクア、初めての人殺しを見てしまい呆然とするSTAR4、虚ろな目でガクリと膝を突いてしまうエリ。
そして――
「うわ、これメッチャこわ~!」
【貫通させるように見せかけるだけじゃなく、サービスで赤い液体も噴出させておきました】
コックピット内で無傷のイクサは大喜びだった。
たしかに貫通しているように見えているのだが、どうしてコックピット内に変化がないのか?
手品の種は――オペ猫がナノマシンで上手く操作したからである。
まず、巨人の持っている剣が機体に触れた瞬間、その刃部分を
ただの鋳造された鋼鉄など、レッドウルフのコックピット装甲を抜けるはずがない。
その刀身の半分くらいが消えた状態で、今度は機体の後ろからナノマシンで刃っぽいものを生やしたのだ。
外部からすれば一瞬すぎて、剣がS-35を貫通したように見えたのだ。
赤い液体に関しては、本当にノリでそれっぽい物を生成して垂れ流した。
「それじゃあ、ザコキャラはここまでだ」
大破したように見せかけているS-35から大量のスモークを噴き出させる。
爆発するのではないか、と周囲から人が離れるも、スモークが消えてS-35はそのままの大破状態だ。
試合は終わった――誰もがそう思っていたのだが。
『その姫君を巡る戦い、俺も混ぜてもらおうか』
遙か頭上、宙に浮かぶ赤い機体があった。
両腕を広げて、地上を見下し、神々しく輝く。
胴体にあるコックピットが開け放たれていて、血のように赤いパイロットスーツの謎の男が見えていた。
それを見てグンクが叫ぶ。
「貴様、何者だ!?」
『星渡りの傭兵――とでも名乗っておこう』
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