【1‐5】計画は陰で進む


マクスベル派


マシュー派


ディミトリ派



 私がジュリエッタに聞いたところによると、貿易の街『ポート=リンチ』の騎士団は、この3つの派閥にわかれている。



 マクスベル派

 騎士団長ジュリエッタ・マクスベルを筆頭にした派閥で、貴族出身者が主に占める。現在はほぼ私の派閥と言っていい。


 マシュー派

 平民出身の副騎士団長マシューを筆頭にした派閥で、平民出の者が主に占める。


 ディミトリ派

 戦術顧問兼指導教官を務めるダグラス・ディミトリを筆頭にした派閥で、街に多額の融資を行っている裕福な商人が後ろ盾として付いている。




「さてさて、どこから掌握していこうかな」


 ジュリエッタから説明を受けた後、私は執務室で作戦を考えていた。




 あれから超スキル〈洗脳〉について調べてみた。


 使い方は前のスキルと変わらない。

 ただ洗脳したい相手と目を合わせるだけ。数秒間見つめあわなければならないが、一度完全にかかってしまうと、まず解けない。ジュリエッタを観察してみても、私から洗脳を解除しない限り解ける様子はなかった。


 洗脳をする際に消費する魔力量も少なく、一度洗脳してしまえば魔力を消費することもない。継続して魔力を消費しないのは正直助かった。私の魔力総量はあまり多くない。



 超スキルとされる訳のわかる機能性だ。



 ここまでだと最強なのだが、このスキルは決して万能ではない。


 このスキルの一番の短所は、洗脳する際に必ず目を合わせなければならない点だ。

 ジュリエッタの時のように、相手が油断してくれた場合は楽勝だが。意図して私と目を合わせないように立ち回られると非常に厄介だ。


 例えば遠距離からの不意打ちで、目をピンポイントで攻撃されれば、私は最大の武器である〈洗脳〉を使えなくなってしまう。


 あくまで私自身の戦闘能力は一般人並なのだ。いつでもどこでも護衛がいるわけではない。



 その他にもいろいろと短所はあるのだが、今はここでとめておこう。




「ジュリエッタはどう思う」

「ディミトリ派からではどうでしょうか。マシューは現在任務で、詰所に来るのは数日後です。対してディミトリは、新人研修期間のため自身の屋敷ではなく詰所に来ています。今がチャンスかと」


 ジュリエッタは優秀だ。その若さで国の経済の要である街の騎士団長を務めているだけあり、頼んだことには私の予想をはるかに超える成果を出してくれる。


 まあ、優秀で完璧主義であるがゆえに、日々のストレスは相当なものがあるようだが。私への仕打ちは、仕事の鬱憤をはらすためでもあったようだ。



 しかし、最近の彼女はとても楽しそうに輝いて見えた。なぜなら、仕事が終わればご褒美があるから。


 部屋の扉をノックする音。ジュリエッタの入室許可を求める声が聞こえた。ジュリエッタを中に入れると、もじもじとしながら彼女が言った。


「……ご主人様ぁ♡ 今日もアレをしていただけますかぁ」


 ジュリエッタの可愛らしい猫撫で声。恥ずかしそうに顔を赤らめ、目には隠し切れない欲をたたえている。


「いいよ。おいで」


 ジュリエッタがソファーに座っている私の隣に移る。こちらを向いた彼女の唇をふさぐ。


「…………チュ…………ンッ……チュ…………ンハァ……………チュ……」



 自分の魔力を相手に流し込む方法はいくつかある。そのなかで一番簡単で効率の良い方法は、自分の体液を相手に飲ませることだ。


 私は既にジュリエッタの人格を掌握している。

 だが私とジュリエッタの間にある繫がりは薄い。ジュリエッタと私が唾液を交換することで、体液を通して魔力を伝え、相手の魔力を自身の体に馴染ませることができる。

 そうすることで、私の魔力をジュリエッタの身体に満たし、完全に私のモノにすることができる。


 これを完成できれば、洗脳がとけることは不可能だ。

 どんな方法を使っても、ジュリエッタが私のモノでなくなることはない。

 私の、物だ。



 口角が上がる。


 徐々に私たちの吐息は浅くなってくる。息を吸うために離れ、もう一度自身のそれをジュリエッタのものに押し当てる。


 唇を舐める。ジュリエッタが口を薄く開いた。すかさず舌を差し込み、ジュリエッタの口内を舐めまわす。私のとジュリエッタのとが絡み合い、お互いの唇を夢中になり貪る。

 私が唾液をジュリエッタに流し込めば、彼女は嬉しそうに喉を鳴らし、それを飲み込んでいく。


「…………ブチュ……チュバッ……………チュッ……アッ…………」


 口を吸うと、ジュリエッタが甘い声を上げた。熱い舌先が絡み合い、唾液の混じり合う音が、部屋に満ちていた。


(あと、もう少し…)






   ◇◇◇






 乱れた服をなおし、最後に髪を整える。


 私の前には、蕩けそうな表情を浮かべるジュリエッタがいる。


 彼女の身体には、順調に私の魔力が溜まってきている。最初は私との口付けを嫌がる可能性も考えていたが、それは杞憂に終わった。むしろ、彼女の方から私に求めてくるくらいだ。


 彼女の話によると、私とのキスは芯から体が温かくなり、今まで感じたことのない溶けてしまいそうなほどの快感をもたらすのだそうだ。


 口付けによって乱れる彼女を見るのは悪くない。



 さてさて、ジュリエッタの次は、ダグラス・ディミトリだ。ジュリエッタに負けず劣らずのクソ貴族らしい。

 練習台ぐらいにはなってくれるだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る