インテリジェンス

やざき わかば

インテリジェンス

 勇者一行が魔王を倒したという一報は、すぐさま王都に届けられ、その日からしばらくは国中、いや、世界中がお祭り騒ぎとなった。


 人間界の存亡の危機を、勇者様が退けた。これで、人類の未来は安泰だ。平和な時代がやってきた。全ての生きとし生ける人間がそう思った。


 しかし、その平和も長くは続かなかった。


 魔王を退けた勇者たちを戦力として囲い込むべく、人間界の各国が一斉に動き出し、各地で小競り合いが起こる。それで済めば良かったのだが、徐々に事が大きくなり、ついには世界を巻き込んだ戦争が起こってしまった。


 勇者たちは世をはかなみ、自らの武器と防具をある小さな村へ預け、どこかへと姿を消してしまった。それからの彼らの行方は杳として知れない。


 ただ、その小さな村に、勇者たちの使用していた武器防具が宝物として残るのみであった。


 それからしばらくして、戦争が膠着状態となり少し落ち着いたころ、その村からひとりの騎士志願者が旅立った。


 村のみんなを守るために、この戦争を終わらせる…。そう固い決意を持った青年と、彼に随行する幼馴染の男戦士、そして魔女に尼僧という、奇しくも勇者たちと全く同じ職業のパーティだった。


 村長がくれた、村の宝物の武器防具を携え、一行は王都に向かう。


「久しぶりの冒険だな」


 誰かの、少しはしゃぎ気味の声がする。青年一行は不思議そうにお互いの顔を見る。ここにいる、誰の声でもない。


「そうですね。またこの四人が揃って旅に出るとは思いませんでした」


 誰のものかもわからない声が聞こえる。魔王軍の魔族がまだ生きていて、人間を陥れようとしているのか。


「長い間、動かずにいたのだ。いざというときのために、気を引き締めることだ」


 誰もいない。誰もいないのに声だけが聞こえるのだ。


「そうか。今は戦時中で世の中は混乱してるんだっけか。こういうときは、何が出てくるかわかったもんじゃねぇからな」


「おい、誰かいるのか!」


 青年は我慢ができず、つい叫んでしまった。すると…。


「ああ、すまない青年。僕たちは、君たちが持っている武器だ。僕たちは喋る武器、『インテリジェンスウェポン』なんだ」




 それから王都を目指し、旅をした青年たち。その間、盗賊、山賊、海賊といったならず者や、魔王のいた時代のはぐれ魔物などが襲いかかってきたが、全て撃退してきた。


 彼らの実力が高いこともあるが、何よりも、喋る武器たちのアドバイスがとにかく的確だった。おかげで大きなケガもなく、戦闘に勝利することができたのだ。


 青年たちと武器たちは、たまに意見をぶつけ合うこともあったが、もはやそれぞれが最高の相棒として、確固たる信頼関係に結ばれている。


 そして王都までもう目と鼻の先となった地点で、さらなる異変が起こった。


 なんと、今まで普通の防具や衣類だったものが、インテリジェンスウェポンに呼応したのか、自分で考え喋るようになったのだ。


 人間が4人、武器が4本、防具が鎧や盾、ローブに膝当て、籠手などが喋るようになったので、もう煩いにも程がある。声だけ聞けば大人数パーティだ。


「みんな、これから王都に入る。くれぐれもその間は、静かにしていてくれよ」


 王都に着いた青年たちは、王との謁見が許される。なにしろ他国との戦争のため、兵力は多ければ多いほど良い。そのうえ、勇者の武具を扱い、賊やはぐれ魔物との度重なる戦闘で経験を積んだ猛者ときたら、王国としても蔑ろには出来ない。


 武器、防具は城の武器庫で一旦預かりとなり、正装に着替える。謁見は恙無く終わり、ささやかながら宴席を設けられた。破格の待遇に、青年たちも恐縮至極だが、みな彼らの話を聞きたかったのだ。


 そして夜は更けていった。


 朝、眼が覚めると何やら部屋の外が騒がしい。城中、いや、領内のありとあらゆる武器や防具が一晩のうちに消えてしまったという。


 青年たちの武器や防具も消えている。


 手分けして探していると、そこへ敵国の宰相が数人のお供を連れて、血相変えてやってきた。すわ敵襲か、と身構えていると、なんと王国だけでなく、他の国々の武器防具もすっかり消えており、大混乱に陥っているというのだ。


 新しく武器や防具を作ってみても、気付いたら無くなっている。棍棒や練習用の木剣も例外ではなかった。この世の中から、ありとあらゆる兵器が消えてしまったのだ。


 各国の王たちは会合を開き、これからの諍いや争いは全てゲームやスポーツで決着をつけると決めた。青年の願い通り、戦争は終わった。




 それからしばらくして、妙な噂がたち始めた。世界のあちこちで、誰も着用していない防具や武器たちが楽しそうに戦っているという。


「あいつら、人類側に矛先を向けなきゃ良いんだがな…」


 人類が、『人類の作ったモノ』に支配される。青年たちは、そんな未来を想像し、少し恐ろしくなった。

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