2: 明源村
……呆然としながら東の山を見ていた。
震える両手を強く握りしめる。
「りゅ、竜だぁあああああ‼︎ お、おれ、夢でもみているのか⁉︎」
急いで右手で右の頬をつねってみた。
「い、いってぇえええ‼︎ ゆ、夢じゃない……急いで村に戻らないと!」
明源村は澄烔の東にある山々に囲まれた小さな村だ。麦などの農産物が主な収入源で多くの村人達は農業で家計を支えている。自分は明源村で母である"
─────
息を切らしながら明源村に着くと、村の入り口の近くにいた九真が睨みながらこちらへと近付いて来ていた。
「竜幻! お前、野草は……」
両手で九真の両肩を強く掴んだ。
「み、みみみみ見たんだよ‼︎ 竜を‼︎ 九真、竜は絶滅していなかったんだ‼︎ 東の山に……」
九真は呆れた顔で自分の両手を振り払う。信じてくれないだろうと思ってはいたが……。
「竜幻……あれか? お腹が空きすぎて幻でも見始めたのか? 竜はもういない。影獣共によって絶滅させられたと教わっただろ? 取り敢えず、ご飯でも食べて落ち着けよ」
こちらを見ながら九真は鼻で笑うと歩いて行ってしまった。馬鹿にしているような言い方が鼻につく。
幻ではない……吹き荒れる風が当たった感覚はまだ身体に残っているような気がする。
俯いたまま、両手は拳を握っていた。
「違う……あれは本物の竜だ。母さんなら何か分かるかもしれない……っ!」
急ぎ足で家へと向かう。
─────
明源村の中央付近にある小さなレンガ造りの家が自宅だ。家に着くと、麗旻は台所で夕飯を作っていた。
「あら?」
自分が帰ってきたことに気が付いたようだ。台所に漂う美味しそうな匂いを嗅ぐと、腹が空き始めていた。居間に竜焔の姿は見当たらない……農作物を売りに外へ出かけているのだろう。
「竜幻、おかえりなさい。夕飯ならもう少しでできるわよ……どうかしたの?」
自分は息を切らしながら険しい表情で俯いていた。深呼吸をして前を向く。
「母さん、おれ、竜を見たんだ! 野草を採っていたら急に強い風が吹き始めて……」
竜の話をした途端、麗旻は突然小さく笑い出した。
「竜幻、"竜はもう何百年も前に絶滅している"わ。変な冗談はやめてそろそろ夕飯にしましょ」
肩の力が抜けていく……九真と全く同じ事を言っている。母である麗旻なら信じてくれると思っていた。
〈何で誰も信じてくれないんだよ〉
握りしめた右手の拳をジッと見つめる。
「そうだ……東の山へ飛んでいった。東の山で一番高い山は……」
「"殲渢山"《せんふうざん》」
殲渢山に登れば、竜に会えるのではないだろうか。竜は間違いなく一番高い山の方へ飛んでいった。
「さっきから何をぶつぶつ言っているの? さぁ、夕飯にしましょ。ところで、採った野草はどうしたの?」
「あ」
慌てて明源村に戻って来た為、野草が入った籠を野道に置いてきてしまった。籠の中には結構な量の野草が入っている。
「やばい……ちょっと取りに行ってくる!」
「竜幻、ダメよ! 影獣達が歩き回っている時間帯だわ! 放っておきなさい!」
「大丈夫、大丈夫! 行ってくる!」
玄関に置かれていた剣を右手に持ち、明源村の入り口へと向かう。
辺りは薄暗くなってきている。
〈急いだ方がよさそうだな。まっ、影獣が出ても、父さんから貰ったこの剣で倒してやる!〉
自分が攻力を使えると知った竜焔は幼い頃から剣での戦い方を教えてくれていた。
「どんな奴らが来ようと、おれが必ず倒す!」
腰に剣を佩け、籠が置いてある場所へと急いだ。
……空は更に薄暗くなってきている。
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