ガケっぷち令嬢の大乱戦記!勝ち取りますわ幸せの国!

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婚約破棄(物理)!サンズーノ川籠城編

1.婚約破棄!ガケっぷち令嬢の宣戦布告

 それは私の、私達の小さな抵抗に過ぎなかったのです。

 今まで何も与えられず、働きを強いられ、それでも何かを自分達の手で成し遂げたかった。

 それを理不尽な命令を跳ね除けて守り通したかった。

 その相手が実の父であっても、生涯尽くす様定められた婚約者であっても。

 上位貴族であろうとも、王族であろうとも!

 敵国だろうとー!!


 それが、この国と世界の歴史を変えてしまったのです。


…どうしてこうなったー!

 私の人生、いつでもガケっぷちー!!でしたのよー!!


******


 その夜、私と、私に殉じると誓った友十数名が城…そんな立派なものでもありません。砦ですね。

 砦を出ました。


 我が友、我が領民。女ばかりとその子供、約150人の籠る、砦。


 私達が、領内の様々な暴力に晒され、税を治められなかった夫が奴隷に売られ、寄る辺を失った女達と子供達が新たな耕地を求め。


 大河サンズーノの三角州に僅かな堤を積み、石をどけ。

 私も貴族の端くれ、僅かながらの魔力で堤に注ぎ、邪魔だった石を、流れを往なす様に積み、土を三角州の頂点に分厚く積み上げ。

 3年掛けて囲った僅かな土地に、ようやく実りの時を迎えました。

 堤防に囲まれた、狭いながらも私達、女の生きていける土地。


 夫を失った女達を、男たち愚かにもは笑い、蔑み、拐そうとしました。

 私は彼女達を庇い、時に下郎共の頭を叩き割り、この地を必死で守りました。


 そして、この秋。

 ついに麦が実りました。皆の喜びは、例え様もありません。


 いまは僅か百数十人が半年過ごせる実りですが、これから冬撒きの麦へ、そして堤防を伸ばし下流の中洲へと耕地を広げて行けば。

 豊かな土を含んだ氾濫原を、引き続き堤防を伸ばして囲み、耕地を増やせば、私達力ない女でも暮らせる地がきっと広がる筈です。

 その夢の一歩が今、目の前に黄金の穂波となって広がっているのです!


******


 しかしその時、突然我が父サンズーノ男爵は、コモーノ子爵の嫡男ビッツラーとの婚約を命じたのです!

 更に、持参金替わりにこの地をコモーノ領に差し出せとまで!


 サンズーノ川を挟み長年争っていた仇敵コモーノ子爵家に、しかも寄り親も異なる…いや、敵対派閥への領地明け渡し。

 これは既に女王陛下への謀反にも等しい暴挙!


 敵対する隣領の宴席に招かれた上での突然の理不尽な発表。そして。

「これよりツンデール嬢も、我が妻の開拓地も、そこに身を寄せる平民の女共も我が物となる!今後我が命に従い、コモーノ家に尽くすのだ!うわははは!」

 ツラだけはイケメンなビッツラー、しかしその腹の内は真っ黒黒ですわ!


 思わず私は、アックスボンバーをキメて!

 後ろに回ってブレンバスターで脳天逆落としして!

 ジャブアッパーでノックアウトしてやりました!アイムチャンピオン!!

 そして、阿保面晒して居並ぶ有象無象に、声高く宣言してやりましたの!


「愚か者!

 誰も救いの手を差し伸べる事無く、あの地に追いやられた寡婦の、子供達の、私の!

 この身この手にこの腕だけに渦巻き流れる自由の祈りだけで得た実りを!

 貴様如き薄ら馬鹿などに誰が呉れてやれるものですか!


 そんな婚約ぶっ潰して差し上げますわ!ソコブソコブ!!

 蛙の面に小便ですわ!!」


 こっちから婚約破棄を申し付けてやりました!あ~いい気持ち!


「ツンデール!お、お前はなんと無礼な!」

 弱い飼い犬の様に喚く父上…

 いえ、最早何も力の無い上に、寄り親を無視して敵派閥に娘を差し出す哀れで愚かな老人に、私はさよならをゆうときがきました。

 幼き時より、嫡男となる兄達にしか話をせず、女である私を顧みる事もなかった。

 母を守ることもなく見殺しにした、愚かな老人。そ奴に!


「サンズーノ子爵!お前の行いは寄り親様に仁義を切っての事か?

 さもなくば王国の断りに背く、余りに愚かな振舞!」


 へんじがない。ただのうらぎりのようだ。ですわ。


 どうせ寄り親伯爵領より王都に近道できる敵派閥経由の方が、関税が安くその分上前が増えてそれを山分けしようとか唆されたんでしょう。

 それが寄り親への不義理だって何度も諫めたっていうのに。


「最早貴族の礼も知らぬ老いぼれなど、親でもなければ子でもないわ!

 裏切りもとい表帰り、御免!」


 私はガラス窓(すごく高価)をぶち破って、こんな事もあろうかと外に用意してあった馬でひたすら私の土地、サンズーノ川に守られた三角州、サンズーノ城…砦?へと向かいましたわ。


******


 サンズーノ川の三角州。その頂点は私の土魔法と仲間達みんなの手で盛り土した、四半歩(※約1km。1歩=約4km)の盛り土があり、その三角州の頂点、一際高く、広く盛り土した場所にあるサンズーノ城にたどり着いた。


 サンズーノ男爵領の貧困のため寡婦となった女、男たちに凌辱され村を追い出された娘、彼女らの子供や孤児達が肩を寄せ合って暮らす、小さくも賑やかで温かい、私達の家です。


 その周囲は、これも私の土魔法と女の手で積み上げられた土と石で囲まれ、数か所に見張りの櫓が建ち、中には数棟の蔵と皆が寝起きする粗末な屋敷があるだけです。


 私は城で、共にこの肥沃な三角州を開拓して来た騎士の娘達、そして女達にコモーノ邸で起きた顛末を説明しました。

 そして戦となる事を、その前にこの地を去るか、ここを守るか。それを問いました。

 僅かな時も経ずに全員がここを守る事を決意しました。

 皆の決意に満ちた眼差しを受け、私は…


 我が愚かさを恥じました。

「この良き女達の命の責任を、何も責任の無い子供達の命も、私が負っているのだ」と。


「ツンデール様、違いますよう~」

 気が抜けた様な声でほにゃほにゃ返してきたのは、私の幼い頃からの友、ちょっとぽにゃぽにゃした騎士の娘、ナゴミー。

「お嬢様はぁ。いつでも私達を助けて下さってんですよぉ?

 お嬢様がいなくなったら、私達はぁ。

 売られていくだけなんですよぉ?」


 ぽにゃぽにゃしていて、丸顔に癖っ毛で柔らかい顔立ちながらも、その目の奥には、私達の悲しみを確かに捕えて、訴えていた。


 過去にこの領で、あの無力な父…サンズーノ男爵の元で起きた事を。


******


 優しかった母が、有力貴族の妾として買われてしまい、奴隷同然にいたぶられ、数年後死んだことだけが告げられた事を。

 武装した奴隷狩りがコモーノ子爵領から乱入し、多くの女達を攫い、夫を殺し、親の無い子が村々に溢れた事を。

 腰抜けだった父を頼らず戦った男たちも死に、多くの女が取り残され寡婦となり、その上戦わなかった同じ村の男たちの慰み者にされそうになった事を。


 だからこそ私は、この領地に来る商人の中でも、私と対等に話してくれる者達に知識と協力を求めた。


 毎年大量の肥沃な土砂が流れ込み、豊かな草や薄が生えているこの三角州に望みをかけ、石と土を積んだ。

 幾度か不作が続き、痩せ細りつつある我が領とは違い、弱い女達が強く生きられる新天地を、この三角州に求めたのです。


 今、一同の目の前にあるのは、黄金の穂波。

 既にコモーノ領に面している部分から刈り取りが始めました。

 もしかしたらこの時に、私には小鳥の囀り(虫の知らせ)が聞こえたのかもしれません。


******


「ツンデール様。私は寄り親のマモレーヌ伯爵に向かいます!

 お父上の翻意を報告し、援軍を求めます」

 ナゴミーと私と三人で育った様な友、マク・コマー。私達はマッコーと呼びます。

 その長身と面長の容姿も頼もしく、疾風の様に飛び立とうとしました。しましたけど。

「待ちなさい、伯爵に仔細を記した書状を書きます」

 出来る子なのですけども、何かと慌てん坊さんですの。


******


 敵であるコモーノにとって、女である私からの婚約破棄と籠城は余程想定外だったのでしょうね。

 馬鹿じゃないかしら。私だったら婚約を迫る前にこの地に兵を送って私を無力化し、人質を取るなり逃げ道を塞いでから宣言するというのに。


 その間に私達は半分ほどの刈り入れや、本領からの馬や兵糧の調達を済ませ…とは言えこちらは子供を除けば百名強。

 敵は子爵家で五百。もし敵方の寄り親、大陸派と呼ばれる女王陛下の命より大陸の王国への迎合を訴える連中、その一角のトレイタ伯爵が加勢していたら。

 千を超える軍。十倍、いえ武器や力を考えれば考えるのも恐ろしい差です。


 頼みはサンズーノ家の寄り親たるマモレーヌ伯爵様。


 私の人生、正に崖っぷちですわ!

 しかし、私には守らねばならない、弱き人たちがいるのです!

 私は負けません!守ります!


******


 守れませんでした。


 敵はなんと目視できるだけで二千。どうあっても勝てる見込みはありません。

 敵はこれ見よがしに布陣し、収穫を試みる私達に面白半分で火矢を飛ばしてくる。

 このままでは大部分の麦が駄目になってしまいます。

 更に、何とか信用で買い付けた食料も底を突きます。


 マッキーはもうマモレーヌ様の伝言を持ち帰れる頃ながらも、帰ってきません。

 あの子に何かあったのでは?もしや打ち取られてしまったのでは?


 兵糧が減り、乳の出が悪くなった母に訴える様に赤子が泣きます。

 敵に聡い者がいればこちらの窮状は筒抜けですが、赤子に泣くなと誰が言えましょう。


 最早残された手は、夜襲による決死の奇襲のみ!


******


 その日。私はナゴミー以下騎士の娘15人を連れて夜襲を提案しました。

 しかし…当然ですが「無茶です!」「お嬢様に万一のことがあれば!」と却下されました。

 それでも!

「皆の気持ちは有難く思います。

 とはいえ兵糧はもう半月も持ちますまい。

 援軍も送られていよう物であれば、マッコーもこちらに着いていてもおかしくない頃。

 我等の戦はもう終わりが見えていると見て間違いないでしょう」


 暫く、皆が黙りました。


「もうちょっと、頑張りたかったですう~」

 涙交じりに、ナゴミーが言いました。

 それを皮切りに、皆が涙を堪える様に嗚咽を漏らしました。


 城の留守番に、「もし帰還の火矢が上がらなければ城と畑を焼いて、サンズーノ領ではなくマモレーヌ様の領に迎え」と段取りを伝え、私達は城を後にしました。

 ここに帰る事ももうないのでしょう。

 みんなで拓いた、この豊かな畑に。


 そう思いつつ馬を前に進めました。

 死出の道へ。


 女が、人として生き辛いこの世に抗う、最後の道へ!

 怖さもありますが、いっそ死んで奴等に最後の一撃を喰らわせてやりましょう!

 この、運命の崖っぷちをいっそ飛び越えてやりますわ!いざ…

「あのぉ~」


 何なんですのナゴミー!今和んだら覚悟が台無しでしょうがー!


「ここに誰か寝てるんですけどぉ~」

「はぇぁ?」


******


テレレ↑令嬢⇔敵レー↓ヒェッ↑


「あの跳ねっ返りの、貴様の娘。

 あんな中洲を開拓しようなどと愚かな振舞は兎に角、中々に美しく、肉付きも良い。

 我が妾には相応しい」


 あの令嬢を無理やり婚約しようとして逆に破棄された、顔だけ男が婚約…いや、女王派貴族領の併合を宣言するパーティーを前に、偉そうに得意ぶって居やがった。

 この、顔の良さを台無しにする醜い心根のクソヤロウ、ビッツラー・オブ・コモーノ。


「ははっ。これで我が領とコモーノ様も末永く」

「思い上がるな!お前たちは我が属領だ。せいぜい麦と家畜と女を差し出すがよい。

 お前の娘を差し出す様にな!」

「ははーっ」


 それに傅き、娘と自領を差し出す老人。

 奴隷商…いや、それ程の矜持も覚悟も無い、糞の様な老人、サンズーノ男爵。

 流石は我が妻を性奴隷として売り払った男。


 まあ、この王国の半分はこんな連中だ。

 尤も海の向こうはもっと大変なんだけどなあ。


「今宵は貴様の豊かな土地を私に接収する、目出度い夜だ!

 貴様も精々己が娘が我が奴隷となるのを、有難く拝むがよい!」

「ははっ!」


 私はこの密談を覗き見て、余りの志の低さに呆れ果てた。


******


 スパイラルキック!

 スパークボンバー!

 必殺モンガー叩き!


 あのお嬢様、何回技を叩き込んでんだ?

 だがそこに痺れる!憧れるゥ!


******


「お坊ちゃま!お坊ちゃま!」

「ん~…おでんがおそらをとんでいる~」

「お気を確かに!!」


 あまりの事態に、コモーノ邸の宴席が絶対零度、重力の起源が核振動だったら質量を失って空に舞い上がってるレベルに凍り付いていた。


「ハッ!あの生意気な女はどこだ!」

 一同がツンデールのブチ破ったステンドグラスを見遣る。


「ギョエーッ!!わ!わ!わ!」輪が三つの石鹸かな?

「我が豪壮なる屋敷の窓がああー!!」

 こいつリアクション芸人になれそうだな。


「ここまで堂々と敵意をむき出しにされてしまっては、如何するのかな嫡男殿」

 このコモーノ子爵家の寄り親であるトレイタ伯爵家の使者が、偉そ~うに顔だけヤロウに命じる様に言う。

「予定通り皆殺しだー!!いや!女共を全員ピー(異種族)でピー(ヒール)でピー(不徳)にして皆殺しにしてやるー!!」


「ホント予定通りですなあ」

 トレイタの使者がニタニタ笑った。

 最初から無事に済ます気ゼロじゃん。

 あ、こいつもピー(超あこがれ)に参加するつもり満々だな?

 ご愁傷様。


 てか親父が黙って頭下げてる。外道だな。

 どんな価値観でここまで年を重ねてきたのやら。

 あー。ホントにビビリまくってやがる。

 相手がピー(くそみそ)だったら平気で嫡男をアッーに差し出してたな。


 まあ、あのお嬢さんの肩慣らしにはそこそこの相手って感じか。

 これからあのお嬢様には、越えて行かなければいけない、恐ろしい連中が待っている。

 そして、守らなければならない、大勢の人達も。

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