少女のたびに笑顔と幸福を

貝になった先輩

はじまりは怒りの逃避行1

そうこの流れ,実は私は決めてたんだ。少しでもあの子がバカにされたら、絶対に出て言ってやるって。

でも、今考えると私は自分の使命から逃げたかっただけなのかも。

信じられる大親友と一緒に。        ーーー聖騎士 ホットケイクの日記


とある昼下がりのレンガ作りの建物だらけの街、アリアントレイト。そこの公園のベンチでピンク髪の少女が一人寝ていた。

服はボロボロで破れてる箇所があり、ズボンも少し裾が破れていた。高そうな使い古された布団はベンチの下に落ちて、服からはお腹を出して右手はベンチの下に垂れ下がっている。

少しして、黒髪長髪のバックラーと呼ばれる木製の盾とピンク髪の彼女のものより少し大きい剣を持った少女がやってきた。


「メイプルン、遅れてごめん!! 今日は見張りの兵士が手強くて」


黒髪の少女はメイプルンと呼ばれたピンク髪の少女の顔を覗き込んだが、寝ていると分かるやいなや彼女を起こそうと布団を引っ剥がし。


「は!? まだ寝てるの!! 起きなさいよ!! あーもう、こっちはご飯も食べずに兵士の目をかいくぐって抜け出してきたのに」


彼女はこの街の貴族だった。家自体は大きくはないが一人娘で両親も教育熱心でほとんどの時間は勉強をしていた。そんな中、なんとか時間を作ってメイプルンに会いに来たのだ。

そんな状況であるにも関わらず彼女は寝ていたのだ。


「あうう……あと5時間」


「ふざけてこと言ってないで早く起きなさい!! 今日は二人で蔦の洞窟を探検しに行くんでしょ!? あんた言い出しっぺなんだから」


蔦の洞窟とはこの街から南に少し進んだ場所にあり、武装した商人がよく薬の材料集めに行く比較的安全な洞窟だ。今日、二人はそこへ探検に行くつもりだった。

メイプルンは冒険を楽しみにしていたのか、蔦の洞窟というワードを聞いた途端に飛び起きた。


「蔦の洞窟?……ああああああ!!!!! そうだった!! 行きましょう、ホットケイクちゃん!!」


とても慌てた様子でベッドから飛び起きて、手に持っていたパンを急いで口に放り込んだ。しかし、起きたばかりで喉も潤っていない状態で当たっため激しくむせてしまう。


「ゴホッゴホッ」


「ちょっと!! はあ、世話が焼けるわねえ。 本当にメイプルンは私がいないとだめなんだから」


ホットケイクは優しくメイプルンの背中を擦り、急いで井戸から水を組んでくると彼女に飲ませたのだった。


「ありがとうございます!! やっぱり、ホットケイクちゃんは優しい!!」


「どういたしまして。はい、行くならさっさと行きましょ。パパとママが執務から帰ってくる前に戻らないと怒られちゃうし」


「では早速、冒険の旅へ!! レッツゴー!!」


メイプルンはピョンピョン飛び跳ねると意気揚々と歩き出し、それにホットケイクはため息を付いてやれやれと呟きながらついていく。

しばらく歩いていると二人は草原へと出た。ここを超えれば蔦の洞窟はもうすぐだ。そんなときメイプルンは獣の匂いを感じ取った。


「ん? ここ、なんか嫌です、少し嫌な予感がします。敵がいそうなそんな臭いが」


すごくざっくりとしたもはや野生の勘のような嫌な予感が彼女の中に一瞬の閃光のように現れてメイプルンは剣を構えた。


「ちょっと、あんたのそういう勘、絶対当たるのよね」


ホットケイクは少しビクッと震えて、緊張した顔でメイプルンを見た。

彼女の「嫌な予感」はすぐに当たることになる。巨大な足音がメイプルン一向に向けて近づいてくるのだ。


「メイプルン!! 危ない!! 私の盾に隠れて!!」


その刹那、巨大なイノシシが二人をめがけて突撃してきた。初撃はホットケイクがバックラーでなんとか受け止めました。

そして、直後、メイプルンが二刀流でイノシシに斬りかかる。


「チェストーーーー!!!」


少女のものとは思えないような重く強い斬撃が巨大イノシシを襲いかかり、草は斬撃の風圧で揺れ、木は葉を揺らして音を出した。

傷を負い、生命の危機を感じ取ったのかイノシシは逃げていった。


「メイプルンってさ、本当に強いわよね。 力強ざも同じ人間のものとは思えないし……」


「日頃の訓練の賜物です!! ホットケイクも一緒に訓練しませんか!! 体動かすのって気持ちいいし楽しいですよ?」


「遠慮しとくわ。 絶対地獄だし」


「はい、朝昼晩打ち込み2000回ずつです!!」


「私には絶対ムリだわ……」


巨大イノシシを退けた二人はまた蔦の洞窟に向けて歩き出した。そうして数十分歩いたところで蔦の洞窟へと到着した。


「よし!!到着です!!」


二人は洞窟の前に立ちあたりを見渡した。そこに小さな冊子のようなものを見つけた。表紙はまだきれいでここ最近落とされたもののようだ。

特に破れたり傷ついているような箇所もない。


「ん? これは……誰かの落とし物のようですね!!! 中身は何でしょう」


メイプルンが本を開きましたが中身は読めない。メイプルンは文字が読めないのだ。

親がいない子供としてホットケイクがいないときは一人で過ごしていた。もちろんまともな教育など受けられるはずもない。


「あんた、ほとんど文字読めないじゃない。 かわりに読んであげるから」


冊子をメイプルンから受け取ったホットケイクは読み始めた。中には植物のスケッチと思われる絵と少し大きめの文字で書かれた植物の名前、更には細かい字でびっしり書かれた説明があった。


「ヒリン草、エクシール茸、月光草……これ、全部薬草の名前ね。植物図鑑かなにかかしら。でもどの草も聞いたことがないわ。というか全部印刷じゃなくて手書きだし」


「うーん、学者さんが調査に来たとかでしょうか……それなら急いで探して届けないと」


メイプルンはダッシュで洞窟の中に入っていった。ホットケイクもため息を一つつくと「コラ、一人で行ったら危ないでしょ!!」と大きな声で言い、メイプルンを追いかけるように洞窟の中に入っていく。

洞窟の中は寒くて真っ暗で湿っていて生乾きのような臭いがした。メイプルンが洞窟内を照らすべく松明を取り出し、急いで火をつけた。


「ちょっと火はまだ駄目だって!! 火傷したら危ないでしょ!!」


メイプルンの身長は現在160センチほどで、少なくとも小さい子供には見えないのだが、ホットケイクに松明を奪われてしまった。


「私だってできますよ!!」


「まだ危ないわよ」


洞窟の中では多くの商人が図鑑とにらめっこしながらお目当ての植物を探していた。そんな中、半泣きになりながらダンジョンで必死にリュックから何かを探している少女がいる。

メガネを掛けていて鼻にはそばかすが目立つ、メイプルンたちよりも明らかに小さい女の子だった。


「これも違う!! これも!!」


リュックの中のものを一つずつ外に投げ捨て何かを探しているようだ。


「何かを探しているようですね!! もしかして、あの図鑑の持ち主かも!!」


メイプルンが泣きながら探しものをしている少女に近づいていき、

松明で照らしてあげるとそこには紫のお下げ髪でメガネを掛けたそばかすの目立つ少女がいました。


「あのーーー!! 探しものはなんですか? 見つけにくいものですか?」


「ひゃ!! はひいいい、ず、図鑑でしゅ!! あ、あの、その」


かなりテンパっているような返答であんまり人とは喋り慣れていないのか、少女はオドオドしながらメイプルンを見るがメイプルンは優しく微笑みかける。

少しだけ緊張が溶けたのかビクビクしているような様子はなくなり、少女も泣き止んだ。


「へへへ、もしかしてその図鑑ってこれですか!? ジャジャーン!!」


ドヤァ、なんて言いながら誇らしげな笑みで少女を見ると彼女は急いで図鑑をメイプルンから受け取ると中身を確認した。


「洞窟の入口付近に落ちてたのよ、これ。 あなたのであってる?」


見ているうちにどんどん少女は笑顔になっていく。


「あ、ありがとうございます!!」


「それにしてもすごいわね、こんなに大量の新種植物を発見するなんて。私よりだいぶ小さいみたいだし」


「お名前はなんですか!? きっとすごい研究室の学者さんかもしれません!!」


少女はそんな二人の勢いに押されながらうなだれ、突然資料を片付け始めた。


「……あの、その、ごめんなさい!! このことは誰にも特にお母さんとお父さんには絶対に言わないでください」


少女はガサガサと先程図鑑を探した際に散らかした資料などをカバンに詰め直し足早に立ち去った。

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