覗かれた転生令嬢と覗いた悪役令嬢

三毛栗

第1章 プロローグ

第1話 朝霞 友愛の死に様《ゆ》



 「ふわぁ。疲れたな~」


 気の抜けた欠伸が零れて、本音が虚空に溶けてゆく。


 私は朝霞あさか 友愛ゆあ。今日も社会の歯車として精一杯回り続ける、しがないOLの1人である。


 今日は華金。華の金曜日。週に5日の勤務を乗り切り、色々と解放される素晴らしい日だ。今日いくら飲んでも二日酔等で仕事に影響が出ることはないし、明日は何時まで寝ていても誰にも怒られない。


 そう!今日の私は縛られない!ビバ週末!ビバ金曜日!イヤッフー!


 所でね、さっきの欠伸からずっと待っているのに、まだ信号が赤いんですよ。おかしいと思いませんか?って、そんなことはどうでも良いや。そういえば今日あのゲームにログインしてなかった。危ない危ない。


 

  ピロン♪



 慌ててスマホを取り出し、そのアイコンをタップする。途端に高い音がわりと大きめに周囲に響き、私は内心ヒヤッとしながら音量を下げた。



 『華の栄冠』



 略して『華冠』。これが、私が最近始めた乙女ゲームのタイトルである。私、もともと乙女ゲーとかやるタイプではなかったのだけど、何か本当に、情報に疎い私の耳にもちょくちょく情報が入りまくってくる名作ゲーらしいので、ちょっと流行りに乗る意味合いで買ってみたわけです。はい、ミーハーです。


 いやでも、本当にグラフィックが美しいんだよ。あと、キャラデザも神がかってて、ストーリーにも重みがあって…まあ、とにかくやってみたら楽しかった。流行るのにはやっぱりそれ相応の理由があるんだなぁと、実感した。


 この物語は、1人の平民が特待生として学園に入るところから始まる。定番だけど、何だかんだ1番ドキドキする設定だよね。


 そしてその学園生活の中で色々な経験を通して本当に大切なものを探す…それがこの乙女ゲームの胆だ。


 あ、今あなた思ったでしょ。どうせその大切なものがLOVEなんだろって思ったでしょ。


 フフフフフ、違うんですよ。いや、もちろんそのルートもあるけど、というか多いんだけど、それだけじゃないんですよ。実はこのゲーム、まだ全てのルートが見つかっていないって位様々なルートが存在するんです。まあ今見つかってる200とかその辺のルートの2/3は恋愛関連なんだけど、それでもヤバすぎるルートの多さだよね!もう乙女ゲームというよりは学園生活シュミレーションゲームの方がよくこのゲームの本質を捉えられると思うんだ!


 それに、主人公の性別変えられるし女性キャラとも恋愛できるからもうギャルゲーでもあるし、むしろ同性キャラとも恋愛できるから薔薇ゲーであり百合ゲーでもある、最早なんでも出来ちゃう乙女ゲーと言う謎のジャンルなんだけど…、まあ面白ければオールOKだよね!気にしない!


 ちなみに私のこのゲームでの推しキャラは、悪役令嬢様。そう、このゲームにも一応そういう立ち位置のキャラクターはいる。まあ、キャラデザと地位とポジションがそういう感じだからそういう比喩が使われるだけで、性格は意地悪というより気高くて超素敵なお姉様なんだけど。そう、このゲーム。まさかの出てくるキャラ全員を攻略可能というシステムがあるだけに、1人1人のストーリーも作り込まれている。本当、制作に一体どのくらいの年月と労力と財力がかかったのだろうか。


 かくいう私の推し、悪役令嬢ことアンネリア・レッドローズ様にもそれはそれは深い過去がある。


 が、今話すのはちょっとやめておこう。この方は、キャラごとに深い過去があるこのゲームの中でも屈指の暗い過去を持っているので。ちょっと、語りきるのに厚め小説一冊分以上の文章量が必要なので。



  ザワザワ


  ゴォー



 それはそうと、何か周りが少し騒がしくない?ここ、案外人通りが少ないんだけどな。この音は…何かがこっちに向かってきてる?



  ゴォー


  ゴォーゴォー


  ゴォーゴォーゴォー



 音が、どんどん近付いてくる。その時、私の背中に突如、照らされるような熱さが生じた。


 「眩しっ!?」


 慌てて振り向くと、私の目と鼻の先に大型トラックが迫ってきていた。


 

  ドォン



 思っていたよりもずっと鈍い音がして。全身に、さっきとは比べ物にならない熱と痛みが走る。それでもトラックは止まる気配を見せず、私の腕と足を轢いていった。


 ああ、これが転生トラックってやつだったら良いのに。そうすればきっと、私がこんな未練たらたらで死んでいくことはないだろう。


 まだまだ仕事はこれからだし、先輩も後輩も大好きだ。貯金使って、美味しいもの食べて旅行して、ペット飼って、家買って。『華冠』も、まだまだルート解明されてないし、グッズ販売もこれからなのに。


 ああ、まだこんなにもこのここでやりたいことが残ってるのに、あのあそこになんて行けないよ。


 このまま死んでも、笑顔で家族みんなに会えるとは到底思えない。


 死ねない、いや、死なない。


 死までのカウントダウンが、もう少しで終わることを私は知ってる。今も叫びたい程に痛くて苦しい。


 でも、死なない。私は、絶対に。



     ""死んでも、死なない!!!""







 


 


 


 

 



 

 



 

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