探偵は言葉と武器で悪を制す

翠川おちゃ

第1話 探偵の助手の役目を引き受けました


4月1日。世界規模で爆発テロが起こった……。まるでエイプリルフールの冗談で笑い飛ばしたかったが……現実のはそうもいかないらしい。


何せ俺は今、爆発の影響で飛んできた瓦礫の破片で足を怪我して惨めにも床に這いつくばっている。


怪我をした場所が熱を帯び、目を覆いたくなる程に鮮血が飛び散っている。これなら自己手当が出来るよう医学の勉強をしておけば良かった。


無慈悲にも助けを求めて必死に叫んでも助けは、来ない。きっと自分以外の客やスタッフは避難して外からの入場も規制されて誰も入れないだろう。


何もしないで這いつくばっている間にも足の血は止む様子を見せず湯船に張ったお湯が溢れる如くドバドバと流れていく。


痛みで意識が朦朧としつつ、俺は体を引きずりながら出口を目指す。少しでも近くで意識を失えば助かるかもしれない。


淡い希望を胸に俺は這いつくばりながら出口に向かっていると、目の前に何か人型の様な黒い影が現れる。


(助けか!?)


心の中に光が差し込んできたような感じがした。恥じらいも、躊躇いも何もかも捨てて俺は助けを乞うた。


「助けて下さい!」


惨めにも叫びながら助けを乞うが相手からは一向に返事が無い。


「頼む! 助けてくれ!」


再度助けを乞うても相手は視線すら合わせない。せめて足に布を巻いてもらおうと思っていたが、諦めて這いつくばりながら横を通り過ぎようとすると、黒い影らしき人の鋭い眼光がこちらに向く。


「貴様は……い、けにえ……」


「は……? 何言ってるんだ」


突然の発言に意味がわからず、反射的に反応をしてしまう。恐る恐る視線だけを裏に向けると、真っ黒な影に反して明るく赤色の眼光がこちらを捉える。


「い、けにえ……お前、こ、ろす……」


そう言って黒い影の様な人物は何処から抜いたか分からない赤色の刃物で背中を刺すつもりなのか飛びかかろうとして――


――右端に吹っ飛ばされた。


突然の出来事で脳が混乱しているのか意味が分からない。今……何が起こったんだ……。黒い影に刺されそうになって、そいつが横に飛んでいった?


疑問符が浮かびながら黒い影が飛ばされた方を見ると、腹部の半分に穴が空いていた。アニメの世界でしか観ない、状況に若干の興奮を覚えつつ黒い影を蹴った本人の方へ視線を移す。


「大丈夫ですか?」


「え、あ、あの」


「私は、エリナ。探偵で君を助けに来た」


そう言い放って探偵ことエリナは、俺の足に視線を落として顔をしかめる。


「痛そうね……今包帯巻いてあげるから」


内ポケットから包帯と布を取り出して、エリナは足の傷がある所の汚れを拭って包帯を巻く。大した処置では無いのに先程よりも痛みが無くなり、出血死というワードが考えからなくなる。


「よし、これで痛くないよ。えっと……助手君は動かないでね」


「は、はい……」


言われた通り、俺は動かずエリナが黒い影に向かっていくのを黙って眺める。今から何が起こるのか、予想も付かない。


きっと予想も出来ない事が起こるのは、分かる。直感がそう告げている。


エリナは1歩また1歩と黒い影に近ずき、目の前まで来た所で先程までの優しい眼差しとは違う、鋭い眼光で黒い影を睨む。


「ねぇ……あんたがこれを起こした主犯? 覚悟は出来てるんだよね?」


声音を下げ、睨みながらエリナは問う。


「返事が無いって事は、そういう事だよね?」


キリッと睨みつけてエリナは、内ポケットから拳銃を抜いて黒い影に向ける。


「私の助手になる相手を傷付けた罪と私の気分を損ねた罪」


鋭い眼光で睨み、どこまでも冷徹な瞳でエリナは黒い影に罪状を告げて脳天目掛けて発砲した。



「大丈夫? 他に痛い所無い? 助手君」


黒い影を仕留めてエリナはスタスタと俺の元に駆け寄ってくる。まるで人物が違う、先程の光景とは似ても似つかない。声音もさっきとは違い優しく眼光も心配を最大限に含んでいる。


「えっと大丈夫です……」


多少の恐れを感じながら応えるとエリナは、俺の目の前でしゃがむ。


「そっか、じゃあ助手君行こうか」


微笑みながら言う、エリナの発言に疑問符が浮かぶ 。エリナがどうして俺を助手呼びに? 名前が分からないからか?


何故助手と呼ばれてるいるか気掛かりで俺は、目の前で微笑んでいるエリナに問い掛ける。


「えっと、どうして俺を助手と呼んでいるんですか? 名前が分からないからですか?」


手で体を支えながら起こして俺は、エリナの目を見ながら、言うとエリナはきょとん、としたあどけない 表情になる。


「え? 涼風すずかぜ彩葉いろはくんでしょ?」


「え、? 名前知ってるんですか?」


「うん。探偵の情報網を舐めないで欲しいね! 助手君」


(やっぱり助手って言ってるな)


相変わらず助手と言っているエリナに再度俺は聞く。


「どうして俺が助手なんで呼ばれてるんですか?」


「君が私の助手に選ばれたからだよ?」


微笑みながら言う、エリナに既に何が何だか分からなくなる。俺は一般家庭出身、特異稀な才能も無ければ陽キャでも無い。


「俺、他の人とあまり大差とか無いですよ? なのにどうして?」


「それはね」


エリナは立ち上がり、一呼吸置いてから


「君がいいって私が思ったからだよ」


そう言い微笑みながらエリナは全てを包み込んでくれそうな手を差し出してくる。


「これから宜しくね助手君」


断る事も出来るが、俺はエリナに命を救われた。エリナが居なければとっくに黒い影に背中を刺されて死んでいただろう。ならせめて命を救って貰った分、俺はエリナをサポートする事が必要がある。


伸ばされた手を握りしめて俺はエリナの驚いた視線を見ながら告げる。


「よろしくな」

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