冒険者と外なる神編

第133話 冒険国アーベン入国

 複数来ていた招待状を眺める。

砂漠国、音楽国、火山国、魔導国、冒険国、北厳国………他。


 どれもこれも同じ内容。

是非わが国と国交を………と。


 国とは争うもの、裏切るもの。

平和とは戦争までの長期休暇のようなもの。

あの世もこの世も戦は絶えず、神も人も悪魔も皆が争い、醜くも己の欲を満たそうとする。


 それで良いんです。

俺くんとしても闘争はいつでも滾るし、蹂躙は真夏に湧く羽虫を潰すように気持ち良いからね。


 と言う事をベッドに寝そべりながら考える。

さてこれからどうしようかな。

秘宝が見つかるまで暇だし、気に入らない奴らも暫くは動きを見せない。


 よし。


 冒険しよう。


 ダンジョンとか魔窟とか樹海とか。

………樹海はウチか。


 そう言えば、龍のヴリトラと並んで魔王と言われている存在が居ると我らが使徒ちゃんが言ってたな。


 まぁその魔王様ヴリトラも樹国メンバーの育成の為に有効活用されている訳だが。


 龍穴として利用しているけど、世界的に何ヶ所か追加で配置しようかな。


 そうすればこの世界全体が星を含め、生物として、種として強くなるのは間違いない。


 魔力を循環し、ほんの微量だが神気を混ぜ、生きとし生けるものの体に吸収させる。


 最高のプロテインとドーピングをずっと自然に摂取している状態にする。


 強い戦士を育成すれば生き残る確率は高くなる。来たる日の為に。


          ✳︎


 という事で急ですが冒険者やります。


 樹国の王としてではなく、市政を見て、その国の善し悪しを理解する為に人間に化ける。


 だからと言って自重なんて肌に合わないからやらないけどね。


 あとは俺くんって言うと流石に個性的過ぎてバレちゃうから俺って言おうかね。


 早速準備をして出発。


           ✳︎


 はいやってきました冒険国。

世界に拠点を置く冒険者ギルドという組合。

その本拠地があるのが冒険国『アーベン』。


 首都は中世的な外観で道はレンガのような物が敷き詰められている。


 建物は粘土と石で建造されており、店や組合、医院などには店名が書かれている看板や旗印が風に吹かれて靡いている。


 露店は様々な場所に展開しており、見事だと思うねぇ。


 トコトコと歩いている。

そんな俺くん、いや、俺は黒髪、黒目、背は高く程よい肉付きの人間に化けている。


 一応カムフラージュで剣を携え、冒険者らしい格好をしている。


 颯爽と歩いていると路地裏には所謂、貧民、捨て子などのスラムの人々が絶望を目に宿し寝転がっている。


 街行く人々は誰もが気にしていない様子。

まぁ俺も気にはなんないんだけどね。


 親指で一つの種子を弾き飛ばす。


 『技能スキル種子タネ

それは人であれば誰もが欲するもの。

神である彼だから創造出来る特殊な植物。

身体に侵入し、魔力と同調すると技能が発生する様に自動調整する。結果、技能を取得出来るという代物。


 明日が有るかも分からない彼等に祝福を。

でも自分の足で立てないなら死ぬしかないよ。


 と心の中で思いながら街中散策を再開する。

しばらく歩いていると平民居住区域の建物の前から声がする。


 「金ならあるんだ。頼む!!! 僕の娘を助けてくれ!! 僕のたった一人の娘なんだよ!!」

 

 医院の前で土下座し懇願する一人の男の隣には金髪の幼い女の子が横たわっている。


 顔は紅潮し、息が荒い。

体の至る所にブツブツが出来ており、膿が出ている。


 「こ、困るよ。その子はアレだろ? 『医者殺し』だろ? うつるじゃないか。他へ行ってくれっ!」


 医者殺し?

何かキミの悪い文言が出てきたねぇ。


 「そう言わないでくれ!! アンタ医者だろ!? 見捨てないでくれ!! 頼むっ!!」


 「………他所もウチも患者が多くて困ってんだ。それに金なんかでは命は買えん。俺達も死にたくはない。悪いがその病は特効薬が発明されるまではどこも診てくれないぞ」


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 通称『医者殺し』。

発熱、嘔吐、内臓疾患、咳、皮膚疾患などを同時に引き起こし、その症状は徐々に強くなりやがて死に至る。助かった事例はなく、また特効薬もなく、延命の為の対症療法しか未だ手立てはない。

咳や体液の接触で他者へとうつる。


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 「妻もこの子も僕は守れないのか。頼む………何でもするから」


 「気の毒だが………。だが俺達がうつれば治せる患者も皆死んでしまうだろ。悪いが引き下がってくれ。………頼む」


 頭を下げ、医院のドアを閉める。


 絶望感に苛まれ、腹立たしさと無力感に涙が溢れる。


 「エリー、ごめんよ。お父さんが無力だから。君を苦しませてばかりだ。いっそのこと二人で………」


 抱き上げ、娘の顔を見る。

トントンと肩を叩く感触がし、振り向く。















 「怪しい者だけどさ。

  地獄の植物は好きかい?」


黒髪の怪しい男が狂笑えみを浮かべて立っていた。

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