第97話 脱兎
帝国十二聖将、『音超』イルガ・アーリーは気配感知により次々と仲間の気配が消えていくのを感じた。
「はぁはぁ。やばいっしょココ。連れの帝国兵は何が何やら分からないまま変な植物に殺されたし、見捨てて逃げてきたけどもう帰りたい」
樹海から風を切り裂く様に物凄い速度で走り、脱兎の如く帝国へと逃げ帰るイルガ。
連れてきた帝国兵五万人、貴族の子ら諸共、血の花を美しく咲かせ無惨にも命を散らした。
走る。
走って走って走る、音を置き去りにする程に。
人生最大のピンチに、火事場の馬鹿力を発揮して、兎に角、走り続ける。
襲いくる魔物を避け、時には木に乗り移り、この危機を脱するために。
しばらく走り続けると出口が見えた。
「はぁ、やっとこの樹海を抜けられる。死ぬかと思った。もう無理。俺っちはもうこんな所は二度とゴメンだ。」
そのまま樹海を去り、帝国への道を走り続ける。もはや彼の地は遠く、姿も見えなくなった。
「これでやっと安心だな。もう魔導ブーツで飛んで帰ろう。冷たいビールを浴びる程飲むぞー!もう生きてるだけで最高ーぅ!!」
心の底からの安堵。
地獄から生き延びたら皆こんな気持ちになるのだろう。しかし、彼の背中には目には見えないほどの小さな植物の種子が引っ付いていた。
帝国への帰路では風呂には入らず、帰る唯それだけに集中した。
そのおかげもあり、帝国の国境を越え、首都へと無事に到着した。
「はぁ〜久しぶりの我が故郷。数日離れていただけなのに、すんごい長く感じた。とりあえず報告に行きますか」
イルガは帝国首都『ザーフィン』に入るための門を通る。
「お疲れ様。帝国十二聖将のイルガだ。帝都へ入らせてもらうぜ。」
衛兵は帝国十二聖将の顔を全員覚えており、難なく入れた。そのまま城へと向かった。
謁見し、事の顛末を話す。
皇帝ザインは真剣な面持ちでイルガの話を聞く。
「そうか。我が国最高の戦力が六人も。そなただけでも助かり、貴重な情報を持ち帰ってくれるとは、大義であった。控えて暫く休め。」
✳︎
イルガは城内の自室へと戻ると、流石に疲れたのか服もそのままいつの間にか寝てしまっていた。
「ん、くぅあああ。寝てたか。くふぁああ。はぁ、生きてて良かった。」
欠伸を噛み締め、背伸びをする。
今でもあれは夢ではないかと思う。
この世に絶望を冠する暗黒世界があるとするならば、あの地以外にはあり得ない。
あれは人間が触れてはいけない禁忌の地だ。
禁足地として世界に周知した方が人類の為だと感じた。
「とりあえず風呂だな」
服を脱ぎ捨て、水属性と火属性の魔力が込められた魔導具『湯沸かし器』を起動する。
自室のシャワーを浴び、湯船に浸かる。
「まだ眠気が…。疲れてるのか」
風呂から上がろうとするイルガの背中にはビッシリと植物の種子が引っ付いている。
先ほどよりも大きくなっている。
根を生やし、イルガの身体と完全に同化している。
『
・種子を人や動物、魔物の背中に引っ付け魔力を吸い取り根差す。痛覚は麻痺し、違和感を与えず、生きたまま生命力を吸い続ける。寄生主は強い眠気を感じ次第に眠り続け、干からび死に至る。爆発的に成長し、繁殖していく悪魔のような植物。
「今日はもう、寝よ、う。つか、れ、た。あぁあ」
イビキすらかかない深い深い眠りへと落ちていく。
二日後、姿を現さないことに心配になったメイドがイルガの元に訪れる。
骨と皮だけになったイルガが横たわっており、うつ伏せに寝ているその背中には真っ黒な葉の広葉樹が育ち、食らっているかのように彼の体に纏わりついていた。
✳︎
樹海。
「もう一人いたけど、そろそろ楽しんでくれているかな。植物の一部になれて幸せだと思うんだ」
「恐ろしい方ですね。いつからです?仕込んだのは」
「んー、彼が樹海に入ってきた時かな。その時はまだ本当に小さな、目にも見えないくらい小さな種子をくっつけたんだけどね」
「ふふっ。でも何故この場で殺さなかったんですか?」
「だってその方が帝国としては恐ろしいでしょ?安堵のまま幸せに死んでいったんじゃないかな。周りの人は強い恐怖を感じていると思うけどね。クフフっ」
「ほんとに悪い人ですね。でもそんなヴァル様を愛しています♡」
「え?あ、ん、うん。あ、ありがとうユフィちゃん」
こうして帝国十二聖将、侵略組は全員死亡した。
--------------------------------------------------------------
いつも読んでいただきありがとうございます♪
帝国からの侵略は以上です。
次回からは帝国滅亡編に入ります。
どんな植物を出そうかな。
アイデアがあればコメントいただけると嬉しいです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます