第95話 使徒襲来?

 日本の首都、東京。

私の名前は『羽原はばらネオン』。

私達は有名私立に通う高校生だった。


 あれは雨の日で、幼馴染の『桐間智きりまさとる』君と下校している時だった。


 私達は男女の間柄ではないけれど、仲は良くいつも登下校を一緒にしていた。


 「ネオン、入っていくか? 忘れたでしょ傘」

 「うん。ありがとう、流石さとるくんしっかり者ね」

 「誰かさんを家まで無事に送り届けないと行けないからね」


 そんな話をしながら歩く。

雨足はだんだんと強くなり、少しずつ雷も見え始めた。


 「雨雲が分厚いな。それに雨も強い。早く帰ろうネオン」


 「そうね。風邪をひいちゃう。学校も休みたくないから家に着いたら直ぐにお風呂に入ろうかしら」


 少しだけ歩くペースを上げた。

早く帰らなきゃ。そんな事を考えていると少し先の木に雷が落ちた。


 「きゃあああ!」


 「び、びっくりしたな。まさかあんなに近くに落ちるなんて。」


 あんなのが私達に落ちたらと思うと、怖くて気がついたらさとるくんに抱きついていた。


 少しだけ動揺から解放され、気持ち的に余裕が出てきた。ふと気がついた。

雷が落ちた場所には煙となんだか不思議な気配のする青色の光が見えた。

近づいていくと、ゲームなどでよく見る魔法陣の様な模様をした円が出来ていた。


 「何これ。不思議ね。こんな模様が自然と描かれるのかしら」

 「うんそうだね。あり得ないだろうね。それにRPG系のゲームに出て来る召喚陣に似てる」


 その円に近づくと同時に、私達は吸い込まれ、不思議な白い空間にいた。


 今思うとあそこに居た光が神様なのかもしれないわね。その光から更に小さな光の粒が私達に近いてきた。体の中に光の粒が入ると、知らない世界へと移動していたというわけね。


 スキルや魔法なんかがあって本当に異世界だなんて最初は信じられなかった。

なんだかんだあって、与えられたスキルで冒険者になり活躍すると帝国十二聖将へとスカウトされ、『氷人』のネオン。そう呼ばれていた。

あの時の光は絶対に神様。

そんな私達はあの方から直接力を頂いた使徒というわけね。


          ✳︎


 「ネオン。俺たちと合流しよう。危険度は低くした方がいい」

 「そうねさとるくん。なんだか不気味な樹海だし、ここは協力して行きましょう」


 私達は強い。

自慢じゃないけれど、冒険者としてもS級をとうに超え、冒険者ギルドの最高戦力として活躍していた。

 帝国十二聖将の中でもトップクラスだと思っている。今回も私のスキルで全てを凍らせ、この樹国なる野蛮な国を氷の世界へと変えてあげるわ。


 さとるくんのスキルも強力だけれど、今回は出番はなし。私だけで片付けてみせる。


 ふふ。

今じゃ仲の良かったさとるくんよりも私の方が強いから足手纏いにならなければ良いけど。


 何こっち見てるのよ。さとるのくせに。

あなたは今回出番がないの。協力しましょうとは言ったけれど、手柄は全て私が貰う。

風よりも木の活動を停止させる氷の方が向いてるのよ。


 あの方の使徒たる私は更なる力を持って、あの方に恩返しをするの。

そして私も永遠の命を手にし、神の末席に加えてもらうのよ。


 全てはその為の足がかり。

帝国も樹国も、この世界全てが私が神になる為の犠牲でしかないの。


 そんな事を考えていたら、私やさとるくんの兵が苦しみだした。

プルプルと震え、口からは真っ赤な血が大量に吹き、赤い泡を吹きながら倒れてしまった。


 幸い、私もさとるくんも無事。

やっぱり力の差があるのかしら。いや、そんなことよりもなんなのかしら?


 遺体となった帝国兵の口から何かが生えてきた。


 何かの植物の芽のような…。

それが一気に大きくなっていくと、兵の体を包み込んでしまうほどの大きさとなってしまう。


 前世で見たラフレシアのような不気味な花ね。けれど臭くはないわね。


 五万人、五万人、計十万人もいた帝国兵は不思議な巨大花へと変貌を遂げた。


 恐怖心はある。

けれどこの意味がわからない、理解が出来ない状況が逆に冷静さを保つ原因となった。


 生存本能が叫ぶ。

この場から早く逃げろと。

得体の知れない存在が現れる予兆を感じ取ったのだ。


 私はこの時逃げなかった事を後悔した。

この後、私達の前に現れる絶望。

そんな非現実的な存在に遭遇するなんて。


 私達ごときがこの樹国へと攻め入るなんて、恐ろしい真似をしなければよかったのだ。


 「やぁ。君たちも帝国十二聖将だね。強力なスキルを持っているんだってねぇ。見せて欲しいなこの俺くんに」

 

 一目で理解させられた。

この人には勝てない。格が違いすぎる。

人間には到底到達出来ない境地。


 それこそ神様じゃないと。

あの時の光の様な存在が目の前にいた。


 「なんだお前は。俺たちは帝国十二聖将。お前ごときが相手になる存在ではない!!」


 やめろさとる。

お前ごときが勝てる相手じゃないわ。

同じ帝国十二聖将として恥ずかしいわ。


 「俺くんは分体三号。君たちに地獄をみせる為に現れたのさ。覚悟はいいかい?」


 やっぱそうなのね。

どうにかして私だけでも逃してくれないかしら。


 「なんだと!?地獄を見るのはお前の方だ。ふはは。俺のスキルの錆となるが良い!!」


 やめろさとる。

錆になるのはお前だ。

この方にはお前のスキルなんて、そよ風と同じだから。


 「ふふふっ。かすり傷でもつけられたら逃してあげるよ。がんばれ」


 え?

傷つけたら逃してくれるの?

気がついたら私はあの方の元へとかけだしていた。


 「チェストぉおおおおおお!!!」


 氷の刃を作り出し、私はあの方へと攻撃をしていた。ガキンッ。鋼鉄に打ち付けた様な鈍い音。


 「バカだねぇ。結界だよ。君達ごときのスキルじゃ俺くんの結界を壊すなんてりーむー」


 目から涙が出てきた。

もう死ぬの確定。私の神様成り上がり計画はここで潰えるのね。


 「結界だと!? 卑怯な真似しやがって。男ならなぁ正々堂々と体で防御しろ!」

 

 やめろさとる。

そんな奴いないから!!

結界があるのに生身でなんて受けないから!


 「ふふっ。面白いね。良いよ生身で受けてあげるよっ♪」


 気づけば私は駆け出していた。

氷の剣を片手にあの方へと振り下ろしていた。


 「チェストぉおおおおおお!!」


 またもや鈍い音がこだまする。

生身なのに私のスキルを無傷で防いだ。


 「バカだねぇ。君達の攻撃なんて神様の俺くんには効くわけがないじゃないの」


 え?なんて言った?

神様?か、か、神様?

私が憧れてやまない神様?









 



 気づけば私はあの方に土下座をしていた。
















 「私を貴方様の使徒にしてください。」

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