第75話 Battle of Gods(7)
龍人。
それは神の御使いである龍と人が交わい、愛し合った末に生まれた種族である。
エーデルムートは龍族の王と人間の女性との間に生まれた男児であった。
樹海の魔王であった龍とは格が違うその龍の王は男児が生まれた後、この世界から忽然と消えた。
女性は嘆き悲しんだが、残された男児をそれはもう可愛がり、慈しみ、愛した。
すくすくと育った男児と母はある国へと赴いた。世界でその国は魔物の特徴を持つ彼等を魔族と呼び、魔物が住む国と呼ばれた。人族の国よりは人口は少ないが、人は優しく、助け合い、支え合うことで幸せに暮らしていた。
しかし、人族の国はその異形の姿を差別し、彼等を侮蔑の意味を込めてこう呼んだ。
『
争う事を悪しきモノと考えるその国に対し、最も不名誉で、忌み嫌われる呼び名を付ける事で世界から仲間外れにしたかったのだろう。
その戦略は、彼等を滅ぼすまでに至り、今現在ではその生き残りは彼の母である人間も含めて居なくなった。
一人、彼を除いて。
そして、龍人の彼は、悲しみの果てに同じ呼び方である竜人へと助けを求めた。
龍と竜。
呼び方は同じだが、決定的に異なる事がある。
それは祖先である。
龍人は神の御使いである龍に祖を持つが、竜人は龍の下位種族である竜に祖を持つ。
竜人は自分の上位種族である龍人にはやはり畏れがあり、それは次第に迫害へと変わる。
人とは自分を守るために人を傷つける事を厭わない残酷な一面も持ち合わせている。
迫害を受け、凄惨な人生を送った男児は、追い出される様に竜の国を出て行った。
砂漠の国へと流れつき、その後も転々と国を渡り、最後には樹海へとたどり着いた。
邪龍の気配を感じた男性は、少し懐かしさを覚え、樹海で生活するようになった。
魔人や亜人種の魔物、ある1人の男と闘う内に格闘術、戦闘術を覚え、見よう見まねで戦闘力をグングンと上げていった。
天才。その一言では片付けられないほどの才覚を持っていた。
そして、ヴァルトメアがまだマサルくんだった頃、そのあまりの異様、異質さに心を奪われ、結果、彼の配下となった。
知恵の実を食べなくても賢く、だが、かのお方の作られた果実を食さないと言う理由はなく、美味しく平らげた。
主従の実も同様である。
そして今に至る。
武闘場でムートとマーニが視線を交わす。
始まる闘い。
静まる会場。
余裕の表情を見せるムートは、ちょいちょいと挑発するように手招きする。
「かかっておいでマーニ。三手。それだけ与えてあげるよ。」
「……。余裕でありますデスね。分かりました。いきなり本気で行かせてもらいますデス。」
闘気を天まで滾らせ、身体強化を施す。
メキメキメキッと武闘場の地面は陥没し、瞬間移動の域に達する踏込み、加速をみせる。
ムートの背後に現れるマーニ。
頭へと本気の蹴りをぶち込もうとした瞬間、脚を掴まれた。
「遅いよ。それではあの御方に相応しくない。ヴァルトメア様に相応しい力を身につけようか。」
ニコッとマーニへと微笑むエーデルムート。
その眼は笑っているが、眼の奥には少しの失望を感じさせる。
「さすがでありますデス。では……。」
二手目。
太陽の化身『ソール』と入れ替わる。
「いきなりか。マーニがそこまで本気を出さざるを得ないとは流石だぜリーダー。」
「初めましてソール。よろしくね。」
嫌な予感を全身に強く感じる。
ソールは生まれて初めて感じたその感覚に戸惑いを隠せない。
冷や汗が止まらない。
「い、いくぜ。神滅武術『
蹴りのマーニに対して、拳や手刀での攻撃をメインとするソールの本気技。
名の通り、一瞬で手刀を千発、それも空気摩擦熱で燃えるほどの速度で一発一発に神気と闘気を練り込んだ神業。
「良い技だね。」
一言呟くと、同じ技を使って全て相殺する。
「は、は、ははは。天才かよリーダー。これは敵わねぇわ。」
引き攣った笑顔だが、どこか目標を見つけたという表情へと変わるソール。
「じゃあこれはどうだ?マーニ、合わせ技だ。」
太陽と月が交差し、漆黒の円を作り出す。
人はこれを『日蝕』と呼ぶ。
「俺たちの本気の本気。神滅武術『黒き双輪』。」
闇夜を彷彿とさせる漆黒一色の兎獣人へと姿を変える。
圧倒的速度の踏み込みから繰り出されるストレート。至極単純な破壊的武の極み。
エーデルムートの顔へと迫る。
頬に突き刺さる。
「良いパンチだった。流石だよ二人とも。」
倒れ込む一心同体。
何が起こったのか理解出来ない。
ウンウンと勝手に頷きながら、満足そうな顔をするエーデルムート。
「な、なにが起こったんだ?全く分からなかったが、い、いや、マーニとソールの技も見えなかったんだが、いやいや、それでも攻撃したのは分かった。でも、なんで?なんで倒れてるの?」
会場の男性エルフが静まり返る中、思わず声を発した。
誰しもが理解できない。
エルフもダークエルフも幹部達も。
「くふふふ。ムートくん凄いねぇ。やっぱり二つ程、頭抜けてるね。面白いよぉ。」
狂気の顔でエーデルムートを見る仮面の男が言葉を発した事に誰も気が付かなかった。
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どうも作者です。
冒頭の話で出てきた『羅刹』、魔族は後々登場します。
どうしても少し触れたかったのです。
ストーリー上、結構大事だったりラジバンダリ。
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