第62話 悪逆非道の樹国建国宣言3

 武王国。

武王【ヤハウ•マーシャライト】。

その見た目は奇妙である。

羊と人間の特徴を併せ持ち、体毛は栗色。

顔には開眼している紅の眼が二つ、閉じている眼が五つある。

その瞳孔は全ての動きを見破る。

大きく曲がり変形している太く逞しい角は同じく七本ある。


 そしてその体は巨大であり、見た目の恐怖感も加わり感じる威圧感は相当なものである。


 曰く、全ての眼が開く時、この世に災いが起き、討ち勝てる者は存在しないだろうと。


 歴代の武王の中でも突出して強く、ヤハウは僅か七歳で武王となった。


 その王座決定戦は圧倒的な戦闘であった。

一回戦から決勝までスキルは身体強化のみを使用し、ほぼ無傷で玉座へと登り詰めたのだ。


 未だに武王ヤハウの本気を見た者は存在しない。居た所でこの世に存在出来ないのだから。


 武の極み。

極限まで濃縮された武は、エネルギーを掌握する。力の流れを見切り利用してしまうのだ。

おそらくそれも七つの眼が成せる業なのだろう。


 加え、彼の配下には四天武と呼ばれる四人の武術家が居り、その者達の力もまた歴代の武王にも勝利してしまう程に強い。

ヤハウが居なければそれぞれの時代で武王となったのは間違いない。


 民は彼らを敬い、畏れる。


 白き天武【ウィナー•ヴァイス】は、その圧倒的な弓術と手数で戦場を支配する。一本一本の矢には強大なる力を持つスキル効果が付与されている。幻想種、白虎の獣人。


 赤き天武【ウォー•ロート】は、その洗脳術と魔眼により戦争と仲間割れ、裏切りを起こさせる。そして、彼が持つ堅牢なる盾は如何なる攻撃も防ぐだろう。幻想種、鳳凰の獣人。


 黒き天武【ファミン•シュヴァルツ】は、その魔拳から特質的なスキルを使用する。

その能力は相手に飢餓を生み、哀れな餓死を招く。幻想種、玄武の獣人。


 青白き天武【プレイグデッド•ブラス】は、魔剣を操り、触れた者は疫病にかかり急激に死の奈落へ落ちていくだろう。

幻想種、青龍の獣人。


 もちろん、厄介なのは構成するスキルだけではない。その武術もまた洗練されており、かなり剛強である。


 だがこの国で最強の四人が力を併せ、全力を振り絞っても倒せない。

そんな化け物が今代の武王ヤハウである。


 

           ✳︎


 武王城。

巨大な獣人達が一同に会しても、余裕がある程に広く、そして丈夫である。


 金剛樹と呼ばれる加工はおろか、伐採することですら無理難題と言われる非常に丈夫な樹木で武王城は建造されている。


 この樹を使って建物を建てられる人物はただ一人。正体は不明であり、武王のみが接触する事が出来る。


 そんな巨大な武王城では樹国について、話し合いが始まった。


 「武王よ。樹国という国が出来たらしいな。何でもその国にはかなりの猛者がいるらしい。一丁戦ってきてはだめか?」


 と獰猛な笑みを浮かべる黒き天武シュヴァルツ。


 「バァカかテメー、シュヴァルツ。お前の拳なんぞエネルギーをチューチューするだけのデッケェ蚊みたいなもんじゃねぇか。やるなら俺様の魔剣で斬り殺すんだよ。」


 眉間に皺を寄せ、シュヴァルツを挑発する青白き武王ブラス。


 「んだとゴラァ!!お前の魔剣こそ疫病に頼っている軟弱な剣じゃねぇかブラスゥ!!」


 「まぁまぁ二人とも落ち着け。どの道、樹国とやらの情報がもっともっとなければ動きようやくあるまい。」


 この中で1番冷静なのは赤き天武ロートが二人をなだめる。


 「だな。しかし、樹国が宣言した内容を見ると中々の強気な国であると言えるな。いずれ、我々にとって目障りな国となれば我が弓矢にて蜂の巣にしてくれる。」


 普段は冷静沈着ながらも戦闘になると我を忘れるタイプである白き天武ヴァイスが来たる戦いを想像し発奮する。


 「結局貴様も戦闘狂いかヴァイス。貴様がいてくれれば百人力なのは間違いないがな。」


 「いやいや、君の盾があってこそだ。信じているよロート。」


 そして先程から黙って座っている武王が口を開く。その瞬間、天地が引き裂かれる様な威圧感が四人を貫く。


 「竜の国、帝国、そして……が動いた時、我らが世界を支配する。国の至宝を持ち、各々更に力をつけ、かの樹国の強者を我が軍も以って討ち滅ぼせ。」


 武王。

またの名を【厄災神アポカリプス】。

彼は天界に混沌を生み、追放された挙句に幼きヤハウへと憑依した災厄であり最悪の神である。

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