第28話 餓狼VS王国軍

 餓狼達のリーダー侯爵餓狼マルコキアスは絶対者である自分の主人の為に樹海を走る。


 広大な樹海を三日三晩で走破する。

自身のステータスを生まれて初めて確認する。


 叡智の実を食べてから知能指数が上がり、本能という抗えないモノに理性という制御装置が上手く自分をコントロールしていると感じた。

それは思考という魔物や動物には圧倒的に欠如しているモノだった。


 SSS級。

リーダーである侯爵餓狼の魔物等級。

前樹海の邪龍と同等級であり、本来なら樹海の主人にもなれ、今代の魔王として世界を掌握出来ようかという力を手に入れた。

それでも主人たるあのお方には勝てる訳はなく、憧憬の念と絶対服従を誓っている。


           ✳︎


 王国軍野営基地。

樹海からおよそ30キロ離れた場所に王国軍が攻め込む為の準備をしている。


 「あと少しだな。明日樹海へと攻め込み、死生樹アダムの実を採取しこの樹海を魔法で焼き尽くす。それがこの世界の為になるのだ。」

 

 ニヤッと笑う騎士団長アグナス。

自身の力を疑いはしない絶対的な自信を覗かせる。


 「ですな。世界は我々人族の繁栄の為に作られていますから。魔物なんぞ駆逐して当然。」


 副団長のペレスがアグナスに追従する。


 「聖皇国の連中もここに目的があるみたいだがな。何をしに来たのやら。」


 「確かにそんな情報もありますな。しかし邪魔立てはさせませんぞ。我々は必ず樹海を破壊し、あの果実を持って凱旋せねばなりません。」


 ニヤニヤと起こり得ない未来を想像する2人の元に伝令が必死の形相をして急報を伝えに来た。


 「伝令!!王国騎士団が魔物に襲われています!!その数は万を超えて現在尚、戦闘中であります!!被害者は甚大な数に及び至急指示をいただきたい!!」


 冷や汗と白い顔の伝令に2人が血相を変えてテントを飛び出す。


 目の前には夜で真っ暗な筈の空が、まるで夕方の様にオレンジ色。


 火属性の魔法攻撃だと直ぐに理解した。

だが、どんな高い位階の魔法もこうはならない。経験したモノ見たモノを記憶から探すが見当たらない。


 空から隕石の様な大きさの火炎の塊がそこらに降り落ちる。

 瞬く間に焼け野原になり、野営地は阿鼻叫喚の嵐となる。


 「あ、あり得ない。あってたまるか!!」


 混乱。圧倒的混乱。

為す術が無く、傍観。指示は出せず、ただただ立ちすくむだけ。


 何せ経験した事がないのだ。

こんな地獄なんか。


 自身がやってきた戦争とは何だったのか。

チャンバラごっこのレベルに感じる。


 というか戦争ですら無い。

蹂躙の一言に尽きるその行為に、股からは液体が止まらない。


 目の前に火炎の隕石が着弾し、部下達が焼け死んでいく。

 その様を見て腰が抜け、動くことも声を出し泣き叫ぶ事も出来ない。


 一目散に逃げた副団長の事なんぞ頭からもはや離れている。


 そして死にゆく仲間の体からモヤの様なモノが離れていくのが見えた。あれが魂というものだろうと感じた。


 天へと昇るかと思ったが一方向へと移動している様だ。


 樹海。


 その奥から全身が黒く、空へと浮かぶ人ならざる見た目をした偉丈夫が現れ、魂を集めている様だ。


 一目見て悪魔だと分かった。

自身もあの手の中に集められ、何かしらの悲劇へと使われるのだろうと思った。


 とめどなく絶望が押し寄せる。

手を出すべきでは無かった。王への恨みを感じる。あの男のせいで自分がこんな惨めな最後を迎えるのが許せない。


 怒りに震えるが、時が経つにつれ再度絶望が怒りすら飲み込んでいく。


 火炎の隕石が自身の元へと落ちてくるのが最後の景色だった。


 総勢30万を超える王国騎士団が一夜にしてこの世界から消えた日。


 遠方眼スキルで王国から見ていた者の証言により、樹海には手を出さない様に法を作り、王は民と騎士団の襲撃により命を落とした。


 王国はこの悲惨な日を『神に叛逆せし愚者の日』と名づけ、戒めの日と定めた。


           ✳︎


 狼くんも悪魔くんもやるねぇ。

ド派手だねぇ。でも後で狼くんは説教。なんで植物も燃やしちゃうかなぁ。


 俺一応植物出身だからね?

大切にしないとアイツも植物にしちゃうぞ♡


 後で恐怖に震えガッカリするのが確定した狼くんであった。



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