第72話 取り合い?

 

「わけが分かりませんわ! お見合いに彼氏を連れてくるなど、それでもヴィオラ家の者ですか!」

「うるさい。いいから私のヒビキから手を離して」

「ウソですわ! ヒビキ様はお姉様の彼氏のはずありませんわ!」

「何度でも言うよ。ヒビキは私の彼氏。ですよね?」


うおっ、急にこっちに振るじゃん。


「あァ、オレたちは恋人同士だ。なんなら今ここでキスでもしようか?」

「キスっ……!?」

「それは帰ってからベッドの上でしましょう」

「はァーい」

「なっ、ななな……!?」


意外とアドリブ力高ェんだなァマキ。ノリがいい。


てかフロッグ君が空気になり掛けてんだけど大丈夫?


チラッと目を向けると……やはり苦笑いをしている。まァ、そうなるわなァ。


「なぜですの! お姉様なんかとお付き合いを!?」


『なんか』、だと?


「オレはイトマキだから付き合ってるんだぜ? 他の誰でもない、一緒に依頼を受ける大切なパートナーなんだ」

「お姉様は名家としての誇りも持っていなければ、冒険者などという淑女に相応しくない事をしておりますのよ!?」


それはオレにもクリティカル入るからやめろ?


「……」

「ほら、お姉様もその自覚があるのでしょう!? その点、わたくしは跡取り候補として何より淑女として─」

「なァ、もしかして自分の方が彼女に相応しいとか思ってる? 悪ィけど、子どもは趣味じゃねェんだわ」


ウズマキの動きが止まる。


これなら、ん?


「くくっ……ふふふっ……!」


フロッグ君にクリティカルヒットした!?


「こっ、この事はお父様に報告しますわ! お姉様はお見合いにおける最低限の常識すら分からないと!」

「ご自由に。帰りましょうヒビキ」

「おう。そういう訳だから…手、離してもらっていいか?」

「……出来損ないの姉と付き合ってるなんて、見る目がありませんのねっ! 行きますわよっ!」


手を離してメイドさんたちと共に去っていく。


すげェ綺麗な捨て台詞だ。


「くくっ、ふふっ」

「いやまだ笑ってんじゃん。ツボにハマったか?」

「え、えぇっ、はい……!」

「……帰ります。今日はありがとうございました」


一礼しオレの手を引きながら足早に去っていく。


「じゃあな、フロッグ君。Ciao♪」

「はい、さようなら」



着替えて昼ごはんを適当に食べて宿に戻ってきた、と思ったら問題発生。


「……やられました」

「え?」

「……私たちは出禁です」


出禁……? 宿から出禁?


「え、どういうこと?」

「両親が無理やり……恐らく妹があることないこと言ったのかと」

「……両親、ここのオーナーかなんかなの?」

「いえ、母親の弟がオーナーです」


つまり権力コネか。


「マキ、今日行くあてあんの?」

「……ありません」

「なるほどなァ。フレット、いるかァ?」

『にゃーん』


おっと、後ろから来た。


「案内よろしく頼むぜ?」

『にゃっ』

「……そういえば、家を見つけたと言っていましたね。……買ったんですか?」

「あァ、(生みの親が)買った」


売りに出されてないってことは売り物じゃないってことだしなァ。


「いつの間に……」

「とりあえず行こうぜ? 荷物はオレが持つわ」

「いえ、これくらいは持てます」

「まァまァ、もうちょい彼氏でいさせてくれ」

「……そういうことならお願いします」

「任せとけ」

『みゃー』



「アレを通路とは言わないんですよ……?」

『……にゃー』

「……すんません」

「普通の道を使おうという考えは無いんですか?」

「あー、いや、そのォ……」

「なんですか?」

「こっちの方が秘密基地感あって「は?」ごめんなさい」

『にゃーん……』


怒られたわ、ははは。


並んで説教を受けているオレたち。


やっぱり女の子を怒らせると怖ェなァ。


「そろそろ足痺れてきたからご飯にしねェか? 調理済みの寿司あるぜ?」

「……次からは人の道を通ると誓ってください」

「は、はい誓いまァす!」

『にゃー!』

「食べましょうか」



「……あの、今日はすみませんでした」

「んー? それは何に対して?」

「男装して彼氏のフリをしてもらった事にです」

「それは、謝罪じゃなくて感謝が欲しいんですけどォ……?」

「……ありがとうございました」

「おう、どういたしまして」


なんだかんだで楽しかったなァ。彼氏のフリってだけでも非現実的なのに、ツインドリルお嬢様と遭遇もしたしなァ。


まァ、1つ言うならチョコだ。フロッグ君からもらったあのめっちゃ美味かったチョコね。


あのチョコもっと食べたかったです。はい。


さて、と。


一段落着いた、ってところか? マキを取り巻く問題の根本的な解決はしていないが。


どうにかしたいとは思うが、オレが干渉してどうにかなるような問題じゃねェしなァ……。


「マキってこの後どうすんの?」

「……この後、とは?」

「自分の家の事だよ。アレで終わるとは思えねェぜ?」

「……どうにかしたい、とは思っています」

「どうにか?」

「例えば……単純に国を出るのもいいですが、どうせなら一泡吹かせてからがいいですね」


わァ、いい笑顔。


「じゃァ、当面はこの国に残るわけだ。そしたらは宿新しいとこ探すのか? それともどっか家買う?」

「……この家で過ごすというのは?」


え?


「えェ…と、同棲になるぜ?」

「構いません。女同士ですし」


マジか。


「……期間は?」

「私の復讐…いえ、仕返しが終わるまでの間だけです」


……なるほど。


「暫くの間、よろしく」

「はい、よろしくお願いします」


美少女と同棲が出来るとか最高じゃん。


『にゃぁー……』

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