第32話 優勝者決定!
『さぁ! ついに決勝戦! ここで頂点が決まります!』
盛り上がりまくってる会場とは裏腹に、オレの心は凪いでいた。
『北側! ここまで傷という傷を負わず、圧倒的なスピードを武器に勝ち上がってきたヒビキ選手!』
一周まわって冷静になった、とも言うか。
─ワァァァ!!
原因はもちろん対戦相手にある。
『南側! その巨体から放たれる質量攻撃で全てを薙ぎ払ってきたまさに陸の王! 地竜のミキサー選手!』
そう、またなんだ。 また人間じゃない相手と戦うんだ。
前方5メートル程の位置で、まるで章ボスのような圧を出しながらこちらを見下ろしている四足歩行の地竜とやら。
洗練された力強いフォルム。しかして体表の鱗はさながら加工された黒曜石包丁の如き美しき様。
見上げているこれから戦う相手に対し、そんな感想が出てくるくらいには混乱している。
「ど、どう勝てと……!?」
今にも消えてしまいそうな震え声で言った。
『ギャアアアアオオ!!』
ビクンッ!?、とオレの体が震える。
あばっ、あばばばばばばばばば!!
こんなのに勝てるわけねェだろ! 喰われて終わりだわ!
誰だこんなン連れてきたヤツは!?
『例によって、戦闘不可の判断は特別席におられますシノエ・カオル侯爵夫人が行うものとします』
淑女がこんなドラゴンを眷属にすんじゃねェよ!
つゥか、奴隷の首輪があるとはいえよく御せるな……。マジどこで捕まえたんだよコイツ……。チャンピオンロードか?
てか名前『ミキサー』て……もうちょっとなんかあったろ。
『両者構え!』
そのコールで戦いのスイッチが入る。周りのノイズが気にならなくなり、感覚が研ぎ澄まされていく。
落ち着こう。考えるべきはどうやってコイツをノックアウトするか、だ。
『開始!』
この巨体相手にカウンターは無理があるからなァ! 開幕から突っ込んで凍らさせてもらうぜ!
勢いよく駆け出し、相手との距離を詰め始めた瞬間。
目の前に岩の壁が出来ていた。
「……えちょ─」
─ドガァァン!
突如として現れた壁に衝突、勢いがある分ダメージが大きい。
いっつ……! コレ魔力強化が間に合わなかったら危なかったんじゃねェの…?
赤くなった額を左手で押さえる。
にしても、まさか魔法使えるとはなァ……。翼も無ェし、四足歩行だしで正直トカゲ寄りの生物だろうと思っていたんだが……流石にそんな甘くねェか。
一旦跳んで下がる。
動き、読まれてたなァ。こうなんと、もう無闇に突っ込めねェ。岩じゃなくて氷塊だったら熱線で溶かせたんだがなァ。意外な弱点、か。
『グルルゥ…!』
振り下ろされる右前脚による叩き潰す攻撃を横ステップで回避、隙だらけの脚に強めのハイキック。
─ゴンッ……
ッ! かっ、てェなこのウロコ! 足痛ェ! 岩とかそういうレベルじゃなくて、鋼だ。鋼。
『ガァァァ……!』
効いてんだか効いてないんだか分っかんねェ。でも、ウロコがあるとこ狙うのは止めだ、止め。
弱らせてから全身を氷で覆っちまった方が良さそうだ。
相手の腹の下を通り、右に出る。背後に出るのは長い尻尾で攻撃される可能性があるので避けた。
岩の壁を警戒しながらだったが、使われることはなかった。
どうすっかなァ……。蹴りでウロコを傷つけられない以上、物理攻撃は控えるとしてだ。
ゲーム的思考でいくと、なんかひとつは弱点があるだろうが……もしかして、逆鱗あんのか?
『ガァァァァ!!』
─ゴゴゴゴゴゴ……!
ミキサーを中心に、地面からいくつも岩で出来た四角柱が生えてきた。
間隔は1メートル程で、高さは50…いや、40だな。幅は折り紙くらいか?
確実にこちらの動きを阻害しにきている。ものすごくやり辛い事この上ない。
てかコレを出したってことは、アイツそこから動く気ねェのか? ボス戦じゃん。
だったらこっちもそれ相応の戦い方をさせてもらうぜ。
相手が次の行動をする前にコッチのペースに引き込む……!
「氷塊」
靴と地面の間に氷を作り、自分をせり上げる。飛刀・鎖、抜刀。
すっかり慣れた回す動きで勢いをつけ、目を狙う。
「もう1回ッ」
同時に閉じた目のある左側に円弧を描くように、空中に分厚い氷の道を作る。
─ヒュンッ! カンッ!
刀を防ぐために相手は一瞬だけ目を閉じる。だが、その一瞬があればいい。
氷を踏み砕きながら近づき、背中に飛び乗る。
左手を硬いウロコに、右手を長い尻尾へ向ける。
「氷塊、熱線ッ!」
叩き落とそうとしてくる尻尾を熱線で迎撃しつつ、体を氷で覆い尽くすッ!
─ジュッ!!!
『ギャアアアアオオオ!!』
尻尾の鱗が煙を上げて溶ける。
「ぐッ……!」
魔法で飛んできた岩の内のいくつかが、オレの右肩に『ゴンッ……!』と鈍い音を立ててぶつかる。
岩を飛ばしてくるとか止めて欲しいなァ! コレ肩内出血じゃ済まねェぞ!?
……いや待て、ここでオリチャー発動! 飛んできた岩ごと凍らして重量増加してやるよォッ!
どんどん氷で覆われている範囲が大きくなり、ついに尻尾のつけ根と首まで到達する。
『ガァァアアアア!!!』
地面から岩を生やして氷を砕こうとする。しかし、砕いた瞬間にそこから新しく氷が生成されていく。生やした岩ごと氷に覆われ、操作不能。
ミキサーの脳裏に『詰み』の一言が過ぎる。
にしても、コイツに翼が無くてよかったわ。あったらこうはいってねェと思う。
徐々にミキサーの動きが鈍くなっていく。
『決着!』
頭まで凍りつくといったところで、試合終了の合図。
『勝者、ミカミ・マサムネ公爵眷属ヒビキ選手!』
─ワァァァァァァ!!!
「ッ、はァ…はァ……! は、はは、勝った、勝てた、勝ったんだ……!」
優勝、だ。
◆
「優勝者、前へ」
マサムネさんと一緒に壇上へと上がる。
2人で主催者から優勝トロフィーを受け取ると、歓声が上がる。
「どうだ? 今の気分は」
「控えめに言って最高ですねェ」
「ふふっ、そうか。なら、同じだな」
嬉しい、とにかく嬉しい。
気分がいい、この上なく気分がいい。
「続いて、眷属解放の儀を行う」
……え?
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